女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
33号   (1995 June)   pp. 11 -- 26


The 14th Hong Kong Film Awards

これを読めば、行った気分になれる

第14回香港金像奬完全レポート

香港金像奬授賞式レポート
インタビュー特集
  • 陳小春(チャン・シィウチョン)、
  • 最佳新演員・劉雅麗(アリス・ラウ)、
  • 最佳導演・王家衛(ウォン・カーワイ)/最佳電影『恋する惑星』、
  • 最佳男主角・梁朝偉(トニー・レオン)、
  • 最佳女主角・袁詠儀(アニタ・ユン)
香港金像奬レポート番外編/小春は今が「はしり」もうすぐ旬
香港金像奬レポート番外編/金像奬 夢うつつ日記
香港街歩きのおすすめ〜誰かがあなたを待っている〜


香港金像奬授賞式レポート

志々目純子

 4月23日、土曜日
灣仔にある演芸学院で、『第14回香港電影金像奬』の授賞式が行われた。

 今年の金像奬は「国際女性年」(95年9月に北京で開催される、国連女性会議を 記念してのことと思われる)にちなんで、「女性映画人に敬意を捧げる」という 特別なテーマが設けられているということを知った私達シネマジャーナルは、 絶対に金像奬を取材しなければならないという使命感に燃えた。使命感には 燃えたのだが、どうやって手続きをしたらいいのかまったくわからなかった。しかし、 念ずれば花開く。とにかく私たちの主旨を伝え、ついにこの日を迎えることができた。

 授賞式の前に6時30分からカクテルパーティが行われ、次々にスターがやって来た。 私達も思い思いの場所に散らばり、やってくるスターにシャッターを押しまくった。 スターはエスカレーターを上がってくると、まずボードにサインをしカメラマンに応じる。 人気があるスターがエスカレーターから上がってくると、一斉に記者が集まるので早くも 周囲は熱気ムンムンである。取材とはいえ、もしかしたら役得で誰かとツーショットの 写真も撮れるかもしれないと正装していた私であるが、『エルム街の悪魔』の フレディの爪を付けて現れた黄秋生(アンソニー・ウォン)に、頭を撫で回され 髪の毛をぐちゃぐちゃにされてしまった。お目当てはまだだというのに…。 スターが会場に入ってくるときの歓声で人気の度合いが伺い知れる。やはり 劉徳華(アンディ・ラウ)、梁朝偉(トニー・レオン)、周星馳(チャウ・シンチー) への歓声は群を抜いていた。その中で頑張っていたのは助演男優賞と新人賞のそれぞれに、 2作品ずつノミネートされた陳小春(チャン・シィウチョン、ジョーダン・チャン)。 『金枝玉葉』、『珠光寶氣』そして今回上映していた『觀楽時光』を見て小春から 目が離せなくなっていたので、今回のターゲットは陳小春と勝手に決めた。実は 前もって信和中心へ行き、あわよくばサインをしてもらおうと写真まで用意しておいた (公私混同が多い)。授賞式が始まる前にインタビューに成功。「日本の俳優の 中では『ブラックレイン』にでていた、もう死んじゃったけど……マツダユウサクが好き」 と言って、妙におどけた顔で写真におさまってくれた。思っていた通り、気さくでちょっと いいヤツみたいだ。

 まず、授賞式の会場の中の様子をレポートしよう。1階はノミネートされたスター 及びその関係者、プレゼンテーター、応援にかけつけたスターが座っていて、 その後ろの方がたぶん招待客で、みんな華やかに着飾っている。テレビでアップに 写るのはこのあたりの席だろう。そして2階の中央がカメラマン席、それを囲む席と 3階がプレス席。今回の会場は狭いので、一人しか会場に入れなかったのだが (そのわりには結構空席があった)、私はカメラマン席を確保したので、2階ほぼ 中央最前列という絶好のポジションで金像奬に望んだ。しかし、この席は 良い写真撮ってなんぼの世界なので、みんな少しでも良い席があれば指定席なんてことは 関係なく、大きなカメラをブンブンさせながらいすをまたいで移動していた。こんな 殺伐とした雰囲気の中でスターに盛大な拍手を送り、チェックを入れ、 写真を撮るというような欲張りな人は私以外誰もいなかった。

 いよいよ8時から授賞式が始まった。司会は、去年に引き続き岑建勲(ジョン・シャム) と今年初めての林建明(メグ・ラム)。

 岑建勲の「今までの香港映画界は男性中心であったが、女性の映画界への貢献を 見過ごすことは出来ない。今日はこの授賞式を利用して、女性映画人に対して最高の 敬意を表したいと思います」という言葉を受けて、監督、プロデューサーとしても 活躍している張艾嘉(シルビア・チャン)が挨拶をした。「映画の歴史100年のうち、 香港映画の歴史は86年で、最初に撮られた映画の題は『偸焼鵝』(焼ガモを盗む)でした。 映画はいつまでも学び終わることのない底の見えない学問だと思います。だからこそ 無限の空間があり、その空間にいろいろな思想や幻想を入れて、創作することが できるのです。私達が今直面している映画界低調の時期こそ、映画について冷静に いろいろ考えるいい機会だと思います。私達にとって映画はなくてはならないものです。 映画界の人間として、映画誕生100周年を今日ここでみんなと一緒にお祝いし、 そして映画界の女性にもお礼を言いたいと思います。
 今年は国際女性年です。映画には、演じる人にもそれをささえる人にも女性の存在が 欠かせないことを私は信じています。もし女性がいなかったら成龍(ジャッキー・チェン) の勇猛さも、周潤發(チョウ・ユンファ)の男の味も、梁家輝(レオン・カーファイ) のセクシーさもどうして理解できたでしょうか。少なくとも女性が出ていない映画を 見たことないでしょう? 私はある時、映画製作の女性に、何か辛いことや苦しいことは ないかと尋ねました。彼女は自分の選んだ道なので、仕事に不満は持っていないと 答えたのです。私はこの時一人の女性として、また映画界に身を置く女性としても、 大変うれしく感じました。私もこの世界に入って後悔したことはありませんし、 これからもずっと続けていくでしょう。近い将来にそのような素晴らしい女性や 新しい面々を皆さんに紹介したいと思います。そしてその人達とともに理想に向かって 歩いて行きたいと強く思っています。多分香港の電影100周年の時には皆のために、 『新・偸焼鵝』という映画を撮ることになると思います」

 そして、この特別なテーマにちなんで、プレゼンターは昨年の主演男優賞の 黄秋生(アンソニー・ウォン)とビデオ参加の周潤發、人気子役の二人そして 成龍を除いては、すべて女性であった。葉玉卿(ベロニカ・イップ)、邱淑貞 (チンミー・ヤウ)、葉童(イップ・トン)、王小鳳(ポーリン・ウォン)、 劉嘉玲(カリーナ・ラウ)、呉家麗(キャリー・ン)、蕭芳芳(ジョセフィーヌ・ シャオ)、呉倩蓮(ン・シンリン)、呉君如(サンドラ・ン)、馮寶寶(フォン・ボーボー)、 劉暁慶(リュウ・シャオチン)、鄭裕玲(ドゥドゥ・チェン)、許鞍華(アン・ホイ)など。 そしてもう引退した湯蘭花、葉楓、井莉、夏夢など懐かしい面々も加わり、華やかな ものだった。

 結果は、次の通りである。(受賞順)

最佳電影配楽(音楽賞) 黄霑、胡偉立、雷頌徳、黄映華『梁祝
最佳服装造型設計(衣装デザイン賞) 張叔平『東邪西毒
最佳編劇(脚本賞) 杜國威『我和春天有個約會
最佳剪接(編集賞) 張叔平、志良、奚傑偉『恋する惑星』(原題:重慶森林)
最佳女配角(助演女優賞) 羅冠蘭『我和春天有個約會
最佳撮影(撮影賞) 杜可風『東邪西毒
最佳男配角(助演男優賞) 陳小春『晩9朝5
終身成就奬 黄曼梨(一生を映画に捧げたことに敬意を表して)
最佳新演員(新人賞) 劉雅麗『我和春天有個約會
最佳電影歌曲(主題歌賞) 追(主唱:張國栄)『金枝玉葉
最佳動作設計(アクション指導) 劉家良、成家班『酔拳II
最佳美術指導(美術賞) 張叔平『東邪西毒
最佳男主角(主演男優賞) 梁朝偉『恋する惑星
戯曲電影百年殿堂大奬 任劍輝(奥劇の貢献に対して)
最佳女主角(主演女優賞) 袁詠儀『金枝玉葉
最佳導演(監督賞) 王家衛『恋する惑星
最佳電影(作品賞) 恋する惑星

 カクテルパーティで、私達のインタビューに笑顔で答えてくれた陳小春も、 助演男優賞を受賞した時にはガチガチに緊張して顔もこわばり挨拶の言葉をすっかり 忘れてしまっていた。プレゼンテーターの楊采[女尼](チャーリー・ヤン)に何度も 挨拶のやり直しをさせられて、なかなかトロフィーを手渡してもらえなかった。 シャイな一面もあるらしい。陳小春の名前が呼ばれた時には、カメラマン席にも シャッターの音とともに低い歓声が聞こえてきた。

 主演男優賞の梁朝偉は、自分の名前が呼ばれると思わず隣の席に座っていた劉嘉玲 (梁朝偉の長年の恋人)と熱い抱擁をし、喜びを分かち合っていた。その瞬間、 シャッターを押したのだが、興奮して手が震え使い物にならないぐらいブレてしまった。 それにしても実に嬉しそうだった。2年前に『ハードボイルド』で助演にノミネートされた ことに抗議して金像奬の授賞式にこなかったぐらいだから、今回の受賞はさぞや 嬉しかったに違いない。何度も「やった!」というポーズを繰り返し、体全体で 喜びを表していた。舞台のソデに入る時もひとり、また喜びをかみしめていた。

 主演女優賞は、2年連続で袁詠儀(アニタ・ユン)が受賞した。その前年が 新人賞だったので、3年連続で金像奬でトロフィーを手にしたことになる。 本人も、本当に意外だったようで、ほとんど棒立ち状態だった。

 授賞の合間には、王敏徳(マイケル・ウォン)のアトラクションあり、また、 2月に亡くなった女優の林翠(リン・ツイ、王馨平“リンダ・ウォン”の母親) の為に、彼女の友達の葉楓(イェー・フォン)が歌を歌い、場を盛り上げた。

 最後に作品賞を『恋する惑星』で王家衛(ウォン・カーウァイ)が受賞し、 11時過ぎに幕を閉じた。

 その後、下の会場に席を移して、セレブレーションパーティーが行われた。 ここでも陳小春の回りには人が集まっていたが、私達も彼の取り巻きに加わり、 再びインタビューを試みたのは言うまでもない。今日一日でいろいろな 表情を見せてくれた陳小春。きっと影后袁詠儀のように2、3年後には、 主演男優賞にも手が届くようになるのではないかと期待してしまう。 これからも陳小春には注目していきたい。その他に王家衛、『我和春天有個約會』 (舞台劇の映画化で地味ながらロングランした)で新人賞を取った、舞台女優でもある 劉雅麗(アリス・ラウ)にもインタビューすることができた。彼女は私達の質問に 身振り手振りを加えて、延々と喋り続けてくれた。映画に出てくるよりも もっとおきゃんな感じで、すっかりファンになってしまった。6月から再演される 舞台も見逃せない。

 今回の金像奬は、引退した往年のスターが出席するなど、香港人にとっては 懐かしいものがあったと思う。しかし、2年前に見た金像奬に比べると、 ノミネートされていないスターもプレゼンテーターで皆出席するというような、 ワクワクする豪華さには欠けていて、映画界の1年に1度のお祭りというには、 いささか地味だと感じてしまった。結局ノミネートされていたのに、周潤發、 張國栄(レスリー・チョン)、王靖[雨/文](フェイ・ウォン)、陳冲(ジョアン・チェン) は欠席。そしてノミネートはされていないが、梁家輝、張曼玉(マギー・チョン)、 梅艶芳(アニタ・ムイ)など、それぞれ多忙で姿をみせなかったのは本当に残念である。 また、「女性映画人に敬意を表する」というテーマがあったにもかかわらず、 司会の岑建勲のセクハラともとれるような発言(ジョークだったのだろうが…)に、 葉玉卿と邱淑貞が抗議をして、途中で帰ってしまうというちょっとした事件もあった。

 こうして熱気に包まれた金像奬の一日が過ぎていった。私達が、ホテルに帰り着いたのは 夜中の1時近く。頭も体もボロボロ。それでも妙に興奮して、自分達の今日一日の 成果をそれぞれ勝手にしゃべりまくっていた。

 最後にいろいろアドバイスしてくれた呉美儀さん、金像奬のインタビューの時に 活躍してくれた張學友さんに瓜二つの何家文さん本当にありがとうございました。


本誌掲載写真キャプション一覧:
p.12
  • 毎回早めに登場する成龍。CMの間には舞台に上がって、場を盛り上げてくれた。
  • エルム街の悪魔』のフレディの姿で現れた黄秋生。
  • 歓声の中、華仔登場。ボードの横で待機する間なんと私の真横に。キレイ〜
p.13
  • 胸の開いたドレスがセクシーな呉家麗と黄秋生。
  • プレゼンテーターの二人とあまりにも対照的に緊張している陳小春。
  • 自ら昔の白黒の映画に登場し、脇役に敬意を表した呉君如。
p.14
  • 「終身成就賞」の黄曼梨。『夢中人』で共演した周潤發が事前に賞を届けた。 (ビデオ出演)
  • 念願の主演男優賞に喜ぶ梁朝偉。
  • 2年連続で影后に輝いた袁詠儀。
p.15
  • 劉暁慶の幾重にも重なった縦巻きロールの髪と黄金のネックレスは、人目を引いた。
  • 張艾嘉のように俳優の仕事もないかしらと売り込んでいた(?)スカート姿の許鞍華。
  • 受賞を喜び合うスター達。袁詠儀、陳小春、劉雅麗、羅冠蘭。



インタビュー特集

記…流浪花

  • 陳小春(チャン・シィウチョン)、
  • 最佳新演員・劉雅麗(アリス・ラウ)、
  • 最佳導演・王家衛(ウォン・カーワイ)/最佳電影『恋する惑星』、
  • 最佳男主角・梁朝偉(トニー・レオン)、
  • 最佳女主角・袁詠儀(アニタ・ユン)


香港映画界に輝く新星現わる

☆★気になるあの人 陳小春 (チャン・シィウチョン)☆★


 出演映画たった2本にして、今年の香港電影金像奬の助演男優賞と新人賞に それぞれ2作品づつノミネートされた陳小春。こいつは只者じゃない。 まだ有名じゃないけれど、この前途有望な若者をシネマジャーナルが 放っておけるはずがない。電影金像奬の受賞者インタビューとシネマジャーナル独自の 質問を満載して「コハル」に迫ります。

 さすがに2つの部門に2つの作品でノミネートされるだけあって会場入りも報道陣に囲まれ、 人気の程もうかがえる。緊張感か晴れがましさからか笑顔が絶えないコハル。 (どうして「コハル」と呼ぷのかは後程…)写真通りのちょっと人を食ったコスチュームが また人を引き付ける。そのコハルが私の目の前に立っているとあらば、広東語に 不安があろうがなかろうが行かねばならない。何とか接触を試みようとにじり寄った。


———日本の歌手や俳優で好きな人いますか?

 「うーん、いる。もう死んじやったけど。」

———死んだ?だれ?

 「名前忘れちゃったヨ。映画で『ブラック・レイン』に出てたんだ。」

———あっ!松田優作?!

 「そうそう、何の病気か知らないんだけど、すっごくかっこ良かったよね。」


そうか松田便作が好きなんてちょっとしゃれてるじゃないか、と感心している間に 彼は会場に入ってしまった。さて陳小春と言っても初めて名前を聞かれた方も 多いでしょう。ここで簡単にプロフィールを。

陳小春(本名)、英文名・ジョーダン
1967年7月8日香港生まれ
身長178?p、体重69?s
家族…父母弟一人妹二人
趣味…ダンス、釣り(なんて極端)
好きな服…気持ちのいいもの
好きなこと…風呂に入る
歌手になっていなかったら…消防員
理想…自分のしたいことをする

 1992年、朱兆聰(ジェイソン・チュウ)と謝天華(マイケル・ツー)と共に 「風火海」を結成。プロデューサーで作曲家の許願(林憶蓮“サンディ・ラム”の昔の恋人) の元、歌と踊りをレッスンの後、林憶蓮とのデュエット曲「震感」でデビュー。 林憶蓮のコンサートでも共演。彼女の日本でのライブにも同行している。 1994年11月に初のアルバム「風火海」をリリース。「シェイクシェイクシェイク」 のヒットなどでその年の音楽新人賞を数々受賞。 映画『晩9朝5』のサウンドトラックにも参加。歌って踊れて演技の出来るグループとして 人気急上昇中。

 さて、コハルの出演映画はノミネートされた『晩9朝5』、『金枝玉葉』他に 『珠光寶氣』、『點指兵兵之青年幹探』、『流氓醫生』、『歓楽時光』。 やはり特筆すべきは、デビュー作の『晩9朝5』。現代の香港の若者の心理を描写した佳作。 コハルは女のことぱかり考えて遊び歩く「亜寶」という青年役。この映画の演技は まさか初出演とは思えぬリアルさ。ひょっとしたら私生活そのものかと疑うほど。 なんとなく危なっかしくて、朴諦なところは昔の張學友(ジヤッキー・チョン) の雰囲気に似ているんだけど、學友の小綺麗さとはちょっと違う。 もっと現実に近くてドロドロしている。私個人としてはもっとドロドロとぐんぐんと 落ち込んで行ってほしかったんだが、男の子が傷つき悩み、落ち込んでいる姿が たまらなく好きなサド人間なので、いやいや冗談抜きで本当にコハルはもう ひとつの味を持っている。助演者にはぴったりかもしれない。 ただ助演で光る人は主役になりきれないという懸念もあるが、彼は今始まったばかり、 いらぬ心配というものだ。

 さて、話は電影金像奬授賞式の会場に戻る。助演女優賞の次はいよいよ助演男優賞。 プレゼンテーターは去年の影后袁詠儀(アニタ・ユン)と 楊采女尼(チャーリー・ヤン) 「第14回香港電影金像奬助演男優賞は、陳小春。」と名前が呼ばれた時のコハルの何 とも言えぬボーゼンとした顔。記者室でも、うーんと納得の声が上がる。 プレゼンテーターの二人はコハルに意地悪をして、何か気の利いた事を言わないと 賞をあげないと言っているが、コハルはのぼせて「多謝」しか言えない。 やっとのことで「全世界の人に感謝する」と言ってトロフィーを手にした。その後、 インタビュールームで報道陣の共同インタビューを受けるのだが、写真を撮る間も うれしくてたまらないのかトロフィーにキスしまくっている。完壁にナチュラルハイ状態。 ようやくインタビューとなる。以下その全文。


 「舞台に上がった時は、すごく緊張してて、事前に一応コメントを考えていたけど、 結局何も言えなかった。自分が助演男優賞をもらえるなんて考えても見なかったヨ。 ひょっとしたら新人賞はとれるかなあとは思っていたけど…すごく意外、 (この時点では新人賞はまだ発表になっていなかったので)新人賞は、 劉雅麗(アリス・ラウ)…ずっとうまい人と思っていたから、本当に。 一度も僕の方が演技がうまいって聞いたことないヨ。どのように役を演じているか? 自分の映画に対する知識や経験なんて薄っぺらい皮のようなもんで、 何も言う資格ないよ。今の自分に出来ることは、監督の言うことを聞いてそれをやるだけ。 この賞が大切かだって?もちろんとても大事さ。賞はみんな大事だけど。 本当にいいものだよね(とニャ〜ッと笑う)。好きな俳優はえーっと名前忘れた。 『ブラックレイン』に出てたんだ。えーっと (こらっ!さっき教えたろうが…思わず「松田優作!」と叫んだ私だった。) そうそうマツダユーサク。 (記者達はそれが誰か何かわからず、それ以上話は続かなかった。) これからギャラが上がるかって?えーっ!?賞を取ったら上がるの?ハハハ。 まあ上の人が決めてくれるでしょう。もちろん上ったらうれしいし受け取るヨ。 君だって(とレポーターにふる)ボスが上げてくれれば うれしいでしょ。断らないでしょ。まぁ自然にアップしたらいいと思うよ。 僕に合ったレベルでね。 泣いた?泣く?僕は男だよ!女の子じゃないんだよ。さっき舞台に上がった時、 本当はたくさんの人にお礼を言いたかったけど、忘れてしまったんだ。 本当は一人一人みんなにお礼したいんだけど、特に監督の陳徳森に。 (記者に促され)陳徳森、UFO(電影人有限公司) のみんな、プロデューサーの許願に感謝します。ありがとう。」


 新人賞はコハルの予想通り劉雅麗の手に渡ったが、今回の授賞式でみんなに一番 喜ばれた受賞者は彼だと思う。授賞パーティでも彼の回りには自然に人が集まってくる。 私の頭の中にも、作品賞は『恋する惑星』だ、男優賞は梁朝偉だ、女優賞は袁詠儀だ という分別はあっても、今のこのコハルから目が離せないのである。 ちょっとした隙をついて通訳の男の子をドンとコハルの前に押し出した。


———風火海と二足の草鮭ですが、本当は歌と映画どちらを重視しているんですか?

 「歌、でもどっちかに決めなくちゃいけないの?やっぱりどっちも大事だし、 やっていきたいね。」

———2つの事をするのは辛くないんですか?

 「僕は辛くないよ。しんどいのはこっちでしょう。」(と、マネージャーを指差す。)

———これからどんな役をやりたいですか?

 「僕は特に選ばないヨ。映画会社の人が、この役が僕に相応しいと言えばそれをやるよ。 何でもやるよ!」

———最後に日本のファンにメッセージお願いします。

 「スイマセーン!香港陳小春、どういうの?えーアリガトウ。えーっとバイバイ。」


 余りにも人気者の為、十分に話を聞くことは出来なかったが、彼の気が ビシビシと伝わって来て、私達はこの短い間にすっかりコハルにはまってしまった。 『晩9朝5』はIII級映画ではあるが、是非ビデオを見てコハルをみんなに知ってほしいと思う。 目の肥えたシネマジャーナルの読者ならきっと彼の良さがわかるはずだ。

 コハルが私に聞いた。「ねえ、小春って日本語で何て読むの?」 「コハルだよ。でも女の子の名前だけど。」「えっ女の子。へぇーっ。」 とシナまで作って見せてくれたお茶目なコハル。「でもかわいいから、 これからあなたのことコハルって呼んでもいい?」「もちろんいいよー!」だって。 うーん決めたぞ。「コハル我永遠支持ni!」


本誌掲載写真キャプション:
pp.16--17
  • 晩9朝5』自然体で新鮮だった。
  • 授賞式の舞台の時とは打って変わってハイテンションな陳小春。



最佳新演員(新人賞)

☆★ 劉雅麗 (アリス・ラウ) ☆★


 「とても我儘で失礼な言い方だけど、陳小春が取らなけれぱ私だと思っていました。 私達二人しかないと。本当にそう思っていました。私は演技をすること、ステージに 立つことが大好きだから、絶対舞台劇を捨てません。私の願いは、賞やお金ではなく メーリー小姐(終身成就奬を受けた黄曼梨のこと)のように80才まで 演じ続けることです。

 私は、この役を3年やっています。舞台で92年に一度、93年に一度、 そして映画です。ですから演技は完全に把握してます。このキャラクターは、 もうすでに体の一部になっているんです。」

 共同インタビューを聞く限り、これはかなりの自信と見た。演芸学院出身で 舞台方面では、かなり経験を積んでいる様子だった。

 この『我和春天有個約曾』は、60年代後半の香港のキャバレー(夜總會)の歌手から スターとなり、引退後カナダに渡った主人公が、十数年ぷりに香港に戻り慈善コンサートを開く。 そこで会う懐しい友人達との深い愛情を60年代と今とを交差させて描いた秀作だ。 舞台劇の映画化で、香港では珍しくロングランとなった。派手さはなく 大スターが出ているわけではないが、シナリオもまとまっていて脚本賞を取ったし、 作品賞でも『恋する愁星』の対抗だったと思う。

 さて、主演を演じた劉雅麗を受賞パーティで捕まえた。さっきの共同インタビューでは 自信たっぷりだったが、私達にはちょっぴり本音や秘話も聞かせてくれた。


———映画と舞台では、どんな違いが在りますか?

 「カメラがあるかないかで演技が違います。舞台ではゆっくりキャラクターを 理解して、相手と練習できます。役者と役者の間が大切なんです。映画では 余裕がありません。すぐに対応して要求に答えないといけないんです。でも、 舞台はいくらやっても有名にならないんですヨ。例えばある時、舞台が終わってから 化粧を落としてショートパンツを履いて地下鉄に乗っていたんです。 そうしたら隣に座った人が、私のパンフレットを持っているんで “この舞台を見て来たんですか?”と聞いたら、“貴方も見たんですか?” って言うんですヨ。私は“見たんじゃなくて、演って来たのよ。”と答えました。 そうしたらその人はパンフレットを見て“へえーっ、これがあなた。 パンフレットより生の方がいいね。”なんて言うんですよ。(笑) 彼にはわざと話しかけたんだけど、とてもおもしろかったわ。 たまに劇団員のみんなで外に出て、見た人がこの舞台に対してどんな感想を持っているか、 自然に聞いていたんです。」

———映画の方に移行するのですか?

 「どちらもやっていきたいと思います。ステージに上がるのがとても好きだし、 舞台映画ともそれぞれの為の勉強になります。内容が良ければどんどん舞台にも出たいです。 でも舞台には限界があります。いい芝居というのは今、少ないからなかなかチャンスが ないとは思いますが、演技ということについては、舞台の方が自分の演技を 出せると思います。」


 その舞台劇『我和春天有個約會』が、6月に再演される。舞台から映画そしてまた 舞台で、今度は有名になった彼女がどんな演技を見せてくれるか楽しみである。


本誌掲載写真キャプション:
p. 19
  • 舞台でも再演される『我和春天有個約會
  • この日がちょうど誕生日だった劉雅麗。



最佳導演(監督賞)

☆★ 王家衛 (ウォン・カーワイ) ☆★


最佳電影(作品賞)

恋する惑星

 今年の香港電影金像奬には彼の作品の『東邪西毒』と『恋する惑星』がノミネートされ、 それぞれ4つと3つの賞を獲得した。

 作品賞を取ったのは『恋する惑星』である。しかし、彼は『東邪西毒』に対する 思い入れが強いと言う。「実は僕がこの世界に入って、一番困難な作品でした。 作品の内容以外にもいろいろな事情や問題があったからです。時には投げ出したい衝動に 駆られました。」と。『恋する惑星』は、たいした機材も、大掛かりなロケも 使っていない自然に撮られたものである。2つの作品とも、興行的には大成功という訳ではなく、 香港人に理解されたとは言いがたいが、『東邪西毒』は王家衛の全精力を込めた作品であり、 『恋する惑星』は彼の全感性をちりばめた映画であった。彼の感性が俳優の感性をも 引き出したからこそ、作品賞を受けたのだ。アクション、コメディがまだまだ全盛の 香港電影界に、もっともっと彼の感性を投げ掛けてほしい。彼がそうしなけれぱ、 香港電影界の本当の黄金時代はやってこない。

 受賞後のパーティーで7つのトロフィーを背に取材陣に囲まれていた王家衛。 合間をぬって一つだけ質問に答えてくれた。


———王監督おめでとうございます。主演男優賞をとったのは梁朝偉ですが、 この作品には4人の主役がいます。それぞれの俳優についてどんな感想をお持ちですか?

 「それぞれ素晴らしかったです。出色の出来だと思います。まず梁朝偉は経験のある いい役者です。王靖[雨/文](フェイ・ウォン)は初めての映画出演にも拘らず、 いい表現をしてくれました。金城武は前途有望ですね。とても頭の良い人ですし、 今も映画を一緒に撮っています。 (『LOVE IN 1995』中国語題名『堕落天使』のこと。) そして林青霞(ブリジット・リン)は大スターでカリスマ性があります。 彼女と映画を撮れるのはとても光栄なことです。 彼女は本当のプロフェッショナルですから。」


本誌掲載写真キャプション:
p.20
  • 王家衛チームの机の上に並べられたトロフィー。
  • 最後まで取材が絶えなかった王家衛。



最佳男主角(主演男優賞)

☆★ 梁朝偉 (トニー・レオン) ☆★


 長い間この賞を待っていたと彼は正直に言った。前回、助演男優賞に ノミネートされた段階で自分は主演男優賞に列せられるべきだと物議を醸した彼だった。

 「実際あの役をどのように演じていいのか分からなかった。撮影所に行って、 監督からこのような性格の人と言われて、それを家の中でやっているように 普通にしただけなんだ。金馬奬、金像奬を取れたので次の目標は香港以外の映画の賞を 取りたい。
 長い間この賞を待っていたヨ。何でも縁が大切だと思う。努力と運気が重要だよ。 このタイミングが一番大事だ。
 しばらく自分の進む方向を失っていた。何故なら自分の発展はとりあえず一つの 段階まで辿り着いたと思っていたから。この後どうしたらいいんだと。でも去年 金馬奬をもらった時、すっと霧が晴れたんだ。自分の努力が間違っていないと。 今回金像奬を取れるとは心の準備が全然なかったけれど、今更に確実に感じたんだ。 この十数年、ほとんど毎日3時間しか寝ることができない日々もあり、他の時間は 全て演技することに捧げてきた。僕の努力と費やした時間は無駄ではなかったと。」

 受賞の瞬間、隣に座った劉嘉玲(カリーナ・ラウ)に熱烈なキスを送った梁朝偉。 最近自信を増し男として光り輝いていることは確かだが、演技もやる事もあまりに カッコ良すぎてちょっと憎たらしいなとか思っているのは私だけか。


本誌掲載写真キャプション:
p. 21
  • 自然に口元がゆるむ梁朝偉。 透明のYシャツに白いネクタイ。 足元はスニーカー。



最佳女主角(主演女優賞)

☆★ 袁詠儀 (アニタ・ユン) ☆★


 「実は今年は本当にプレッシャーを感じていました。今年のライバルは皆 とても新鮮で実力のある人ばかりで、自分が追い抜かれるのではと。自分が努力をして、 そして賞を取れるものだと信じていたので本当にうれしいです。でも私自身は許芬 (ホイ・ファン、『伴我同行』の主役)が取ると思っていました。
 彼(張智霖“ジュリアン・チョン”のこと)にはとても感謝しています。 いつも励ましてくれました。私は小さいことを気にするので、もっと遠い所を見て 心を軽くしなさいと言ってくれました。だからこの1年で私は変わったんです。 物事にあまり執着しなくなりました。
 私はどちらかというと来年に希望を持っていたんです。いろんな人が、 去年取ったんだから今年はダメだろうって。だから今年賞を取れたのはとても意外です。」


 実は袁詠儀が受賞した瞬間、記者室ではブーイングにも似た声が上がった。 このブーイングの意味が何なのか正確には分からないが、後でこの話を聞いた彼女は とても悲しい思いをしたと言っている。悲しがることは何もないと思う。彼女の他に ノミネートされた面々を見ても遜色ないし、コメディ作品で受賞したことも、 張國榮(レスリー・チョン)を相手にしての演技も評価できる。とにかく彼女は、 今までに誰も成し得たことのない「2年連続主演女優賞受賞」をやってのけたのだ。 胸を張っていい。今香港で一番愛されている女優は間遺いなく彼女なのだから。


本誌掲載写真キャプション:
p.22
  • 授賞式終了後、舞台に勢揃いした受賞者達。
  • カメラの猛烈なフラッシュを浴びた梁朝偉と袁詠儀。




香港金像奬レポート番外編

小春は今が「はしり」もうすぐ旬

山中 久美子

 行ってきました金像奬、会ってきました陳小春。「學友、學友」とつぷやきながら 香港に入国した私なのに、出国する時にはすっかり「小春、小春」になっていた。 来年のファッションを知りたければミラノコレクション、明日のスターに会うなら 金像奬である。

 1週間の滞在中は周潤發の舞台「花心大丈夫」を堪能し、おまけに發仔の歌まで 聞かせてもらった。(學友の持ち歌だったけど誰も途中まで何の歌だかわからなかったっけ) サニー・ウォンとのダンスがセクシーだった梅艶芳(アニタ・ムイ)のコンサートも 楽しかった。映画は3本しか見なかったけれど、『和平飯店』は無国籍西部劇風で 發仔の演技は既に殿堂入りものという感じ。一方の『狂野生死戀』は監督トニー・オウが 画面の美しさを追及するあまり主役の男女(關之琳“ロザムンド・クワン”、 王敏徳“マイケル・ウォン”)を美形で揃え過ぎたのが難だったが、 梁家輝(レオン・力ーファイ)の芸達者ぷりが光っていてまあまあの面白さだった。 なのになぜか印象に残ったのがUFOの最新作『歡楽時光』に出ていた陳小春なのだ。

 もちろん物語そのものがテンポのある展開で飽きさせない。陳小春、 許志安(アンディ・ホイ)、張智霖(ジュリアン・チョン)の3人が ディスコで知り合った女性にいきがかり上レイプ犯だと訴えられるところから始まって、 保身、裏切り、不倫、面子と人聞の醜い面が裁判のなかでさらけだされていく。 といっても香港映画だからそこはあまり深刻にならず、適当に笑いもとって 過剰報道のマスコミをパロディったり、なあなあの裁判の裏を皮肉ったりも忘れない。 くせのある弁護士役の劉青雲(ラウ・チェンワン)もよかった。 そんな中で小春は大人になりきれずちょっと頼りない、でも人のいい男の子を好演していて、 彼のキャラクターを通してすっかり映画に引き込まれてしまった。 こうしていつのまにか金像奬のターゲットは、小春に絞られたのであった。

 4月23日当日は数時間前からホテルに集まって、インタビュー内容の打ち合わせをする。 これは仕事だというのに、髪を洗っている奴(実は私)あり、 最後まで衣装の決まらない者ありで落ち着かない(招待者ではないので めかしこむ必要はないのだが。昼に会った日本の某雑誌クルーも、これから美容院へ 行くと言ってたっけ。どうも勘違い気味の私タチである)。 あっという間に時間になってしまった。授賞式の前のカクテルパーティー目指して 会場へと向かう。

 演芸学院にはもうたくさんの取材陣が集まっていた。その中を分け入って進む私達 5人の背には「使命」の文字が浮かぷ。一列横隊にこそならないものの心は 「大江戸捜査網」、観衆注目度は飛行機に向かうスッチー集団といった状態である。 91年から、この時期は香港に通っているが、会場内の取材は初めて。 独占インタビューをものにしようと思わず気合いが入る。だが中は、 次々に入ってくるスターで混雑し、ラッシュアワーのよう。写真を撮るのも難しい。 そうこうしているうちにいよいよ小春の登場だ。続いて大物アンディが来て 会場は騒然となる。騒ぎがおさまってふと見ると流小姐とJ子さんがVサイン。 なんと飲み物を取りにきた小春をつかまえて早速インタビューしたという。 さすが香港在住の流小姐、通訳なしでもOKなのである。早々と接触できたのは嬉しいげど、 その場に自分がいなかったのは悲しい…。女心は複雑だ。 とそこへ今度は小春がトイレに入ったとの情報。 早速トイレ前にて通訳の家文君と待機する。男性の特権を生かして彼は偵察に 中へ入っていった。しばらくして出てくるなり「マダヤッテマス」(なにを!)。 スターはおちおちトイレにもいけないのね。やっと出てきたがもう時間切れ。 取材をせまる中文台のクルーにフェイントで答えるふりをして、あっという間に会場へ 消えてしまった。結構ひょうきんものなのだ。

 いよいよセレモニーが始まる。J子さんはカメラマンとして会場へ、 残り4人は記者会見場へと向かった。ここは賞を取った人が順番に現れて、 質間に答えることになっていたので、民主的に進むのかと思っていたら大間違い。 香港人記者は所定のマイクの真ん前まできてスターをブロックするし TVカメラの前にもみんなお構いなしに立ってしまう。TVのカメラマンがたまらず 「小姐、ちょっとどいて」と叫ぷけど、香港小姐はそんなことでどいたりしないもんね。 スターがいない時は雑談しつつ遊んでいても、モニターで賞が発表されるやいなや ダッシュ、瞬発力が勝負の場であったのだ。3時間のセレモニーが終わる頃に ブローした髪もバサバサ。取材陣にGパンの人が多かったわけがよーくわかりました。 先程J子さんにドレッシーな服を勧めてしまったことを後悔する。大丈夫だったかな。

 午後9時過ぎ、助演男優賞に小春の名が呼ぱれると、皆一斉に歓声を上げた。 彼は既に人気者のようだ。インタビュールームに入ると金像奬のパネルを背に 写真撮影をするのだけれど、なかなか終わらない。嬉しさと照れ臭さからか おどけたポーズで応える彼。そしていよいよインタビューだ。 早いテンポの広東語なので内容はついていけなかったが、 松田優作の名を忘れた小春に、流小姐は遠慮がちに「松田優作」とささやく。 その声を聞いて小春の目線が彼女の所へ。その目は「なんだっけ?」と訴えているよう。 たまらず今度は大声で「ま・つ・だ・ゆ・う・さ・く」。すっかり彼女に マインドコントロールされた小春は「マツダユウサク」とオウム返しに答えたのでした。 その間、テープ録音担当のS嬢は彼の後ろに回ってきちんと声を拾っている。 ちょうど小春の横に顔を出しているので、まるで背後霊のようではあるけど…。 そういう私も資料用にホームビデオをまわす係なのでTVカメラの真下に入り込んで 撮影していた。まるで親ガメの下に子ガメといった雰囲気だったかもしれない。 チームワークはばっちりのプロ集団を目指したつもりが、ただの変な日本人になってたな?

 後日の雑誌や新聞では、もちろん主演男・女優賞、監督賞、作品賞の記事が メインだったが、記者会見場で一番盛り上がったのは小春のインタビューだった。 誰もが新しいスターの誕生を歓迎していた。(因みに記者達が一番ガッカリしたのは、 劉徳華“アンディ・ラウ”が主題歌賞を逃した時。 皆、彼が受賞するものと待ち構えていたようだ。アンディはやっぱり「旬の男」だと 実感した。それにくらぺて梁朝偉の受賞の時のクールなこと。本人の喜びようとは 対照的な記者室だった。)

 式後のパーティーは受賞者を囲んで和やかな雰囲気。王家衛組のテーブルには トロフィーがズラリと並ぷ。でも、心は既に小春の身内気分の私達は、 つい彼の回りをうろうろしてしまう。日本へのファンのメッセージももらうことができた。 J子さんが信和中心で仕入れてくれたとっときの写真を出して、サインを頼むと 「これいつ撮ったんだっけ」というように、まじまじとみていた姿が可愛かった。 モゴモゴっとした話し方は映画と全く同じだ。どこにでもいそうな男の子という感じで 親しみがもてる。彼のコメントにも表れているように、演技に対する素直な姿勢が 自然な演技を生んで、今回の助演男優賞の受賞につながったのではないかと思う。 發仔や華仔のように絶対崇拝(?)の対象になりにくいけれど、現在進行形の香港を 描く作品には欠かせない存在になりそうだ。


本誌掲載写真キャプション:
p.23
  • 大丈夫日記』の舞台版『花心大丈夫』。主人公は劉青雲だが、爽仔のコメディアンぷりが注目の的。
  • 観客のリクエストに答えて熱唱する發仔。あまりのうまさ(?)に邵美棋もびっくり。
  • マドンナ風の梅艶芳。
p.24
  • 歓楽時光』彼女にふられた小春は、この後大変な事件に巻き込まれて…。
  • 狂野生死戀』美しすぎるふたり、關之琳と王敏徳。
  • トイレの前でもマイクを向けられる人気者の小春。
p.25
  • 小春がサインしてくれた信和中心のアイドル写真。
  • パネルの前ですっかりハイテンション。サービス精神満点。




香港金像奬レポート番外編

金像奬 夢うつつ日記

マリリン・スミタ

 昨年の1月、劉徳華(アンディ・ラウ)の『神鳥伝説』をビデオで見て 香港映画に興味を持ち、見始めてから1年とちょっと。 見た本数は、ビデオ中心に300本ぐらい。 知らない俳優、監督がまだまだたくさんいるビギナーの私が、まさか1年後に 金像奬の授賞式に来ているなんて…。とても貴重な経験ができました。

 6時半に会場に着き、受付けを済まし、エスカレーターの昇り口付近でスターを 待つ取材陣、そして私達。1階ロビー入口から入ったスターが金像奬の看板をバックに インタビューを受けて、そのまま会場中央付近のエスカレーターに、 フラッシュの嵐を浴びながら登ってくる様子は、ハリウッ ドの様? 建物がちょっと地味ですが、さすがスターが来ると一瞬にして会場が 盛り上がり、緊張も増します。邱淑貞(チンミー・ヤウ)が輝くばかりに美しかったのが 印象的でした。私のお気に入りのアンディは、同伴者なしの一人でしたが、 さすが大スター。ひときわ取り囲みが多く全く近づけません。 昨年よりちょっと健康的になったみたいです。白いスーツがりりしく、 相変わらず美しい横顔でした。

 プレスの私達は、会場に入った一人とは別に、受賞者のインタビュールームに。 会場とは天と地の地味な裏方といった感じの所で、モニターで受賞を見るので 今一つ実感はありません。香港のプレス中心に100人ぐらいはいたでしょうか。 広東語が分からない私は全くチンプンカンプン。でも、受賞の度にため息や歓喜が 会場に響いて、その熱気がひしひしと伝わってきました。 金像奬って想像以上に大きな出来事なんだと改めて感じてしまいました。 次々に来る受賞者にすっかり気分はミーハーに!

 おもしろかったのは、香港のプレスは若い女性が多くてみんなお気に入りのスターが いるみたいで、受賞の度に歓喜やブーイングが起こります。やっぱり注目は主演男優賞と 助演男優賞。一番歓声が上がったのは、陳小春の時です。受賞で陳小春の名前がでると、 モニターに食い入るように見ていた女性群が一斉に片手を上げて「イェーイ」という感じ、 彼は今最も注目されているという話にうなづけました。お笑い風だけど、 すっごくチャーミングな人で何か只者ではない、という感じを受けました。

 意外だったのは、袁詠儀の時、あちこちでプーイングが上がっていました。 何を言っているのか分からないけど、呉倩蓮(ン・シンリン)や 王靖[雨/文](フェイ・ウォン)を推していたのでしょうか?  主演男優賞の時も梁朝偉がとった瞬間、半分くらいはエーッという感じ。 周星馳(チャウ・シンチー)にとらせてあげたかったのかも、本命はレスリーという噂も あったし。トニーは本当に嬉しそうで、ずーとニヤケッぱなし。 私は以前からいろいろな人にトニーの目は吸い込まれそうにステキと言われていたので、 カメラを片手に50センチくらいの所でトニーの目をずーっと覗いていました。 が、あまりに目尻が下がっていたので、カメラを覗かれても残念ながら 全然吸い込まれそうにはなりませんでした。

 最後のパーティーでは『いますぐ抱きしめたい』ではまり、『欲望の翼』 で膚になった王家衛監督にミーハーしてしまいました。派手なステージを 生で見る事はできなかったけど、裏方で香港の映画界を見ることができて、 本当に感激です。益々香港にはまりそうな今日この頃です。





香港街歩きのおすすめ

〜誰かがあなたを待っている〜

志々目 純子

 4月19日午後1時ちょっと前。友人と1時に「皇后飯店」で待ち合わせしていたため、 銅鑼灣のSOGOの前の横断歩道を渡っていた。渡り切ったところに人だかり。 何だろうと覗き込むと映画の撮影をしているらしい。1時といえば香港のランチタイム、 しかも一番人通りが多いところで…なんと大胆なのだろう。見物人に混じり、 じりじりと前の方に行ってみると、なんと任達華(サイモン・ヤム)が!  2年ぐらい前に見た時は、変態やゲイの役が多かったせいか、 顔がテカテカしていたのであるが、すっかり脂がとれて、色黒でナイスガイ。 隣にいたおじさんが、親切にもその隣はミスターローだと教えてくれた。 サングラスをしてバンダナをすっぽり頭にかぷっていたので 一瞬分からなかったのだが、それは紛れもなく羅家英(ロー・カーイン)だった。 撮影の合間に回りの見物人と話をしたり、カメラをむけるとポーズをとってくれたり、 香港のスターは本当に気さくである。この映画(『九紋龍的[言荒]言』)の撮影は、 その後上環などでもゲリラ的に行われていたそうだ。

 以前にも萬梓良(アレックス・マン)のテレビ撮影(今回テレビを見ていたら 偶然再放送をしていた)や張學友のMTVの撮影に偶然出くわしたりしている。 狭い香港、街の中を歩いているだけで思いがけないところで、思いがけない人に 出会うのである。映画を見たり、カラオケをしたり、香港滞在中はいろいろ 忙しいことでしょうが、街の中をブラブラすることもお勧めしたい。 カメラを忘れずに!!


本誌掲載写真キャプション:
p.27
  • 九紋龍的[言荒]言』の撮影風景(銅鑼灣にて)
  • カメラ目線のMr.LO
  • 小さい顔、すらりとのびた肢体、さすが元モデルなのだ、ホレボレ



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