第8回東京国際映画祭
『アクセルの災難』関口治美 ハンサムでもマッチョでもないし、金持ちでも頼れる男でもない。 なのになぜかモテてしまうアクセル君の女難男難。 流れるままの生活を送るアクセルと、現実的で姉御肌の恋人ドロシー。 この二人を取り巻く人々が一癖も二癖もある人ばかりで飽きさせません。 特にアクセルが飛び込んでしまったゲイの一団のユニークさは 『Mr.レディ Mr.マダム』を思わせるものがありました。 下品な笑いに終始しないオフ・ビートのピンク・コメディ…。 こういうジャンルって私の好みです。 『KILLER 第一級殺人』地畑寧子 『告発』『ショーシャンクの空に』『理由』…と監獄を舞台にした傑作が 今年は続々と公開された。その後にこの作品を観てしまったせいか、 なにか物足りない。主演のジェームズ・ウッズは、彼の持味を活かして 鬼気迫る演技を披露してくれてはいる。しかし、少年時のわずかな罪で 踏み外した人生を転げ落ちて、凶悪犯罪者となっていく過程の表現がくい足りないのと、 すっかり心がすさんでしまった彼がなぜ人情味溢れる若い看守に 親愛の情を抱くようになるかの過程が希薄であるせいか、どうも素直な感動が得られない。 来日会見した監督のティム・メトカフの言からは、主人公と人道的な若き看守との 友情を主軸にした作品のようだが、合わせて二十年代という時代を反映させ、 反ユダヤの風潮、刑務所の改善を意図して製作したという。 その点は多いに認めたい硬派の作品ではあるし、必ずしも『ショーシャンクの空に』 のような心が晴れ晴れとする結末を期待したわけでもないし、実在の連続殺人鬼を モデルにした『ヘンリー』のような恐怖感を期待したわけでもないのだが、 看守たちの横暴を主軸にしたいのか、主人公と人道的な若き看守との友情を 主軸にしたいのかが不明瞭で、すっきりしない作品となってしまったのが残念で ならない。 ただこの作品での収穫は、若き看守を演じたロバート・ショーン・レナードの好演。 青春映画での彼の理知的な役柄しか観てこなかった私としては、この作品での彼の 熱情を押し殺した静謐な演技は、心に残った。 監督のティム・メトカフは脚本家出身。今やトップ俳優の仲間入りをしたブラッド・ ピット主演の『カリフォルニア』の脚本を担当していた人だが、こちらは、 理由なき殺人を繰り返すピットの怪演が光るロードムービーでなかなかの佳作だった。 ちなみに彼と旅を共にする共演者も渋く、ジュリエット・ルイスが純情で少々頭の弱い 彼の恋人を、「Xファイル」のモルダー捜査官でお馴染みのデイビッド・ドゥカブニーが 殺人現場の取材を試みる作家を演じている。 『南京の基督』志々目純子 前号で紹介しましたが、原作は芥川龍之介の『南京の基督』。 今回インターナショナル・コンペティションに出品され、その上映に先立って 記者会見が行われました。香港・日本の合作ということもあり記者会見場も 多くの人の熱気に包まれていました。
平日の4時という時間に上映されたのに人の入りが多かったのにはびっくりしました。 セリフのほとんどが広東語だったということもあり、国籍の違いはそれほど 気になりませんでしたが、富田靖子が演じる中国人娼婦「金花」には始終 違和感を感じていました。最優秀女優賞の受賞に相応しく、今までの富田靖子の 優等生的なイメージを破った熱演であり、また「金花」にかなりスポットを当てた 映画でした。しかし、芥川の分身である日本人の作家が日本の家族、さらに彼の 回りのいろいろなプレッシャーを忘れてまで彼女にのめり込んでいくにしては 彼女の「女」という部分に少々物足りなさを感じてしまいました。 美術は『夜半歌聲』の美術も担当した馬磐超(エディー・マー)、 監督は耽美もの、文芸ものを得意とする區丁平、最優秀芸術貢献賞も受賞した作品。 『ヤング・ヒットマン』関口治美 老人ホームの地下室に間借りしているコズモはノミ屋が商売。 ボスに気に入られた彼はヒットマン(殺し屋ですね)に昇進するハメに…。 マイケル・J・フォックス製作(出演もしています)による毛色の変わった青春映画です。 コズモ役には『ビバリーヒルズ高校白書』のジェイソン・プリーストリー、 恋人役に『花嫁のパパ』のヒロイン役だったキンバリー・ウィリアムズ。 この二人が地味なので日本ではせいぜいビデオ止まりという気もしますが、 ヒットマンの修行とか、実施(つまり“殺し”)のシーンなどがよく出来ていて、 アクション映画としての面白みがあります。修行のストレスを癒す為にヨガ道場へ 通ったり、殺す相手がノミ屋時代のお得意さんだったり。殺しの天才とも言える コズモが、女性に対しては超オクテというのがミソで、ギクシャクしたデートには 笑ってしまいます。残念ながら、私には主演のジェイスン・プリーストリーの 魅力が全くわからない為、そこそこ面白いのにちょっと乗りそこなった感じでした。 監督のM・ウォーレス・ウォロダースキー(なんて長い名前)は、上映後のティーチ・インで 名前を呼ばれる前にさっさと舞台へあがっちゃうというヘンな人でした。 『聖なる狂気』地畑寧子 映画ファンの中では、『柔らかい殻』という賛否両論がはっきり分かれる作品の監督として、 フィリップ・リドリーという名を知っている人はなぜか多い。私は、この監督の美しい 画のセンス(監督は画家出身)にぴったりとはまる人間なので、この『聖なる狂気』 もすんなりと観ることができた。厳しい戒律の元に精神的に抑圧されて育った青年が、 開放的な人々の中で次第に精神を歪めていくグロテスクさは、手足をちょん切るような 即物的な恐怖感よりも深く心に突きささる。 主演のブレンダン・フレイザーはアメリカの若手実力派俳優だが、この作品では 彼のギョロギョロした目が、狂気を一層盛り上げていた。『きっと忘れない』 などの学園ものや『原始のマン』などコメディなどのヒット作でスター街道を 驀進中の彼だが、ここでは背負った青年役で、新たな彼を観ることができた。 どうも日本でも若手俳優といえば、美形のブラッド・ピットに人気が集中しがちなようだが、 ブレンダン・フレイザーは、実力から言ってももっと注目されていいような気がする。 また、この作品には前作に引き続いてビーゴ・モンテンセンが出資している。 なんと東映Vシネマにまで出演している彼は、拳銃を振り回している悪役俳優だと 思われているようだが、ドラマでの演技もかなりのものだと思う。 そういえば、『クリムゾン・タイド』でのキー・マンになる役柄も良かった。 自称脇役ハンターの私としては、今後の彼の活躍が楽しみでならない。 ついでに脇役といえば、デビッド・リンチ作品の常連女優グレイス・ザブリスキーも 少ない出番ながら、出演しているのも見逃せない。 『息子の嫁』地畑寧子 兵役に行った息子のかわりに一家の長として嫁と幼い孫の面倒をみる父。いつしか 彼は嫁に好意を抱き、関係を結んでしまう。これだけではまるで志賀直哉の『暗夜行路』 のようだが、この作品には和解もなく、ただ感情がぶつかり合うままに悲劇的な最後が 待っている。 主人公の父アディは、日本兵として出征したこともある台湾人。日本刀を振り回して 野山を駆け巡る彼の姿や彼が酔って歌う歌が日本の歌であることで、彼を通して 台湾がいかに深く日本の支配を受けていたかがわかる。出征時の負傷で結婚もできず、 養子をもらった彼。しかし、義理とはいえ息子の嫁との間に子供をなしたことに 罪悪感よりも喜びを覚える彼の心情は、現代人にはなかなか理解に苦しむかもしれない。 だが一歩引いてみると、家庭をもつという男子としての誇り、血族を残したいという 男子の誇りに捉われた憐れな男の心情を読み取ることができる。 幽玄とも思える緑濃い台湾の田舎の美しい風景を背景に、ラジオから流れる民話と共に 流れていくある一家の歪んだ日常。日本の長く深い支配を受けていた台湾の複雑な思いや 後遺症を素朴な一家の中に凝縮してみせた監督の演出は見事としかいいようがない。 『烈火戦車』関口治美 ファンタのオールナイトが明けると朝7時。人気のない渋谷の街を走り抜け、 オーチャードホールへゾンビ状態でたどりつきました。追加上映にもかかわらず、 アンディ・ラウの舞台挨拶つきなので、二日前から並んでいるグループがいたことは 知っていましたが、すでに50組以上にふくれあがっていました。 ファンタと違ってここでは整理券をまくことはなく(東京国際映画祭の場合、 整理券をまくのはあっても開会式と閉会式だけだと思いましょう)、業を煮やした 先頭グループが自主的に整理券を配ったおかげで、混乱を避けることができました。 先頭の方々お疲れさまでした。私はオールナイトを途中で抜けてきた仲間のI君、 始発で駆け付けたA君達と交替で並び、入場と共にロビーを突っ走り一番前を 陣取るという快挙。この頃はもうフラフラでしたが、座って落ち着いたが最後 眠ってしまいそうだったので、ロビィをウロウロ。と、ボディ・ガードに守られた アンディが入場してきたではありませんか! あわててカメラで撮りましたが、 出来上がったのは彼の後頭部のドアップのみでした。 さて、狂乱の舞台挨拶(爾冬陞(イー・トンシン)のムッとした顔が忘れられません) に続きいよいよ上映。悲しいかな、一昨年のように舞台挨拶終了と共に退場した一団が…。 せっかくのワールド・プレミアなのに観てあげないとはアンディご一行に対して 失礼だと思います。難産の末ようやく完成したこの作品ですが、出来はちょっと… という感じ。『つきせぬ想い』のように人間ドラマに重点を置いた部分と バイク・アクションが見事に噛みあわないのです。アンディの相手役を演じた 梁詠[王其]が地味すぎて生活感たっぷりなのに、呉大維(デビッド・ウー。儲け役です) とのバイクレースなどは浮き世離れしていて別モノにしか見えません。おそらく、 香港や台湾で封切る時には再編集されると思われますので、貴重な作品を観た という意味では有り難いと思いますが、並んだ甲斐があったかといわれると、 つらいものがあります。上映後はさすがに頭がガンガンして、その後の予定は全てパスして しまいました。 『君さえいれば/金枝玉葉』関口治美 ファンタのアニタ・ユン特集からゾロゾロと民族大移動(地下道を歩くと早い!) してきた私達。この作品は“香港プロモーション・日本95”のイベントとして 上映されたため、場内の良い席は関係者席で占められ、あきらめた私は思いっきり 後ろで観ました。香港VIPアンソン・チャンを始め、映画のキャストご一行に 羽田元総理まで加わったセレモニーとテープカットに続いて、ようやく張國栄 (レスリー・チョン)、劉嘉玲(カリーナ・ラウ)、そしてファンタとは コスチュームを替えた袁詠儀(アニタ・ユン)の舞台挨拶。いつもの通訳さんでは なかったので、コメントの大意がよく伝わらなかった気がします。白いスーツで 一昨年より男っぽさが増してきたレスリー。昨年のファンタよりもスターらしく 振る舞っていたカリーナ。かなり疲れているはずなのに一生懸命はしゃいでいたアニタ。 セレモニーの物々しさもほぐれてきたところで上映開始。 さてこの作品ですが、昨年香港で観てきた方の意見は全てと言っていいくらいに 好評でしたし、私も以前字幕なしで観ましたが、言葉がわからなくても非常に 楽しめました。でも、字幕があると面白さは倍増です。なによりも主役三人の 息がぴったり合っていて、観ていて気持ちがいいし、脇でキラリと光っている 陳小春クンも見逃せません。オカマ演技がハマッている曽志偉(エリック・ツァン) も大好き。そして何よりアニタのはじける若さの魅力。この日観たアニタ3本立ての 中でも文句無しに一番の出来です。コメディの命である笑いのタイミングも絶妙で、 笑えない人はへそ曲がりだと自覚した方がいいかもしれませんよ。 スラプスティック・ラブ・コメディとでも名付けたいこの作品、日本公開用チラシや 予告編ではアニタとレスリーの純愛ドラマとして売っているような感じがするのですが、 これからご覧になる方はだまされないようにご注意。それにしても、ディック・リー 作曲のテーマ曲『追』共々何度でも繰り返し観たい作品です。 『コンゴ』地畑寧子 上映前の愛想の良いキャサリン・ケネディ&フランク・マーシャル夫妻の挨拶で、 すっかり気をよくしていたものの、とんだ肩透かし映画でがっかりの一言のこの映画。 天下のスピルバーグの愛弟子のふたりという余計な知識があったせいか、 『アラクノフォビア』『生きてこそ』の上をいく映画を期待してしまったせいか、 劇中半ばで眠気をもよおしてしまった。『ノーバディーズ・フール』でポール・ ニューマンと互角の演技を見せてくれたディラン・ウォルシュもここでは さして印象に残ることもなかったし、なんといっても言葉を話せるゴリラちゃんの 過剰な演技が鼻についてしかたがなかった。 そしてこれは私ごとだけれど、あのブルース・キャンベルに 単なる犠牲者(出演時間がたったの十分ほど)で、 ラストクレジットにしか名前がでない役を当てるなんて…。 サム・ライミ映画が好きな私には、どっと疲れた作品でしかなかった…ノデス。 …オワリ 『好男好女』関口治美 この映画祭の好企画〈アジア秀作映画週間〉のオープニングは、なかなかリキが 入っていました。舞台挨拶には『好男好女』のスタッフやキャストがゾロゾロ。 侯孝賢(ホウ・シャオシエン)監督はもちろん、ヒロインの伊能静、彼女の相手役を 演じた林強(リン・チャン)と高捷(ジャック・ガオ)。その他はゴチャゴチャしすぎて 私には分別がつきかねました。 もともと侯孝賢の作品は、どれも私の好みではなく、この作品も話題性で来てしまった という感がありました。が、この所台湾史に興味を持つようになったという事もあったので、 今回は面白く(楽しいという意味ではない)観ることができました。 この映画の魅力は、なによりもヒロイン(二役)を勤めた伊能静の体当たりの演技に 尽きるでしょう。大半を下着やそれに近いような衣裳で通し、大胆な濡れ場 (懐かしのにっかつロマンポルノを思い出すほどエロティック)にも挑戦。脱アイドルに 見事に成功したと思います。が、悲しいかな会場には彼女のことを知っている観客は ほとんどいなかったよう。侯孝賢ファンで「アジアン・ビート」も観ている人なんて 一握りにすぎなかったのですね。上映後のティーチ・インでは監督に対する質問ばかりが 集中し、同席した彼女には司会者の「伊能さんにも…。」という一言がなければ、 誰も質問などしなかったのではないでしょうか。義理の父は日本人で、学生時代を 日本で過ごした彼女。当然質疑応答はわかっているので、始めはニコニコしていた 表情がどんどん固くなってきます。その後東京で芝居デビューを飾り、どうやら 本格的に日本進出を狙っているらしい彼女ですが、このままでは前途多難という気も。 ところで、この映画を観た人なら「ティーム・奥山」製作だという事に気が付いたはず。 つまりこの作品は松竹なんですね。ようやく日本も正しいお金の使い道がわかったようです。 観るたびにがっかりするような駄作邦画を作るよりも、このような良い映画に投資する方が 得策なのは確か。ただし、日本映画の明日を担うような新人も発掘してくれないと 困りますが…。 『私からあなたへ』地畑寧子 主演のアン・ソンギの猛烈社員の演技が印象的な人生喜怒哀楽映画『成功時代』 で大いに笑わせ、ずっしりと哀感を味わわせてもらったチャン・ソヌ監督の94年作。 韓国映画を見慣れていない人には、ちょっと面食らうほどの性描写(一部劇画で 表現している部分もある)はあるものの、盗作の疑いをかけられ三文ポルノ作家に 成り下がっている小説家と押し掛け女房よろしく彼の元に転がり込んでくる女性、 そして、小説家の唯一の親友である銀行家の三つ巴の人生ドラマがコミカルに描かれ、 興味深い作品である。 作家と関わる助平なえせ文学協会の男たちや女工だった女性をたぶらかす 精神が荒廃している学生運動家など、上っ面だけ立派だが本質は堕落している人々を 登場させることで、主人公三人がいかに世の中の理不尽の中でもがいているかを 強調し、秘かな社会批判をしている点も面白い。 生真面目な小説家と彼を信じ自らはしたたかに出世していく女、飄々としながらも 棚ぼた式に夢を実現してしまう銀行員の男。決して明るいタッチの作品ではないが、 なぜかすがすがしさを感じさせる結末といい、テンポよく展開していくストーリーといい、 韓国映画を知る入門として、そして現実の韓国を知る手立てとしても一見の価値のある 作品だと思う。 『血斗竜門の宿』関口治美 特別上映されたこの作品は、胡金銓(キン・フー)監督のまぼろしの傑作として、 長年観たかったものでした。が、上映前の監督によるトークでイヤな予感が…。 実は私はキン・フー映画が苦手で何を見ても眠ってしまうのです。今回は トークが始まったとたんにウトウト。奇妙な座り方(よっぽどバランス感覚が 良いのでしょう)でバランスを保ちながら、穏やかな話し方でも目が恐い、 こんな監督に興味はあるのですが…。 映画は『ドラゴン・イン』(大好き)のモトネタですが、ツイ・ハーク版とは 比べない方がよいでしょう。アクション・シーンはずいぶんとゆったりしていて、 ますます眠くなってしまいました。クライマックスの決闘には笑いをこらえるのが 大変で困りました。大真面目だと思うのですが、喘息持ち(?)でアクションの 合間に薬を飲み、自分の血を見ておののく悪役なんて、真面目に観ろと言われても ムリです。 今や大プロデューサー(『さらばわが愛/覇王別姫』)となった徐楓(シー・フン) の初々しさが微笑ましかったり、珍しい右から読む中国語字幕にびっくりしたりと 見所はあるのですが、キン・フーに対する世の評価には疑問がわいてきます。
『カルディオグラム』関口治美 カザフスタンの映画を観るなんて、さすがの私も初めての経験でした。 心臓病の治療の為に田舎から首都郊外のサナトリウムへやってきた少年の生活を 描いたものですが、首都はロシア語圏でカザフ語しか話せない少年は苦労します。 ソ連圏の映画には、時々ハッとさせられる事があります。たとえば昨年公開された 『コシュ・バ・コシュ』とか。この作品は話自体はどうこういうものではなかったのですが、 崩壊したとはいえソ連という国がいかに大きなものだったかを、改めて実感しました。 映画で世界を巡ることが出来る自分が幸せな気がします。アジアは予想以上に広く、 まだまだ私達の知らない世界があるのですね。映画はその国の内情を世界に報せる 最も有効な手段。たまには見知らぬ国の映画を観てリフレッシュするのも 良いのかもしれません。 『カジャール王朝の様々な映像/サラーム・シネマ』関口治美 アジア秀作映画週間のクロージングは、モフセン・マフマルバフ監督作品の二本立て。 アッバス・キアロスタミ監督のおかげか、今年はイラン映画の上映が全部で3本 (この2本とヤングシネマの『白い風船』)もありました。 『カジャール〜』の方は短編。タイトル通りに18〜20世紀にかけて栄えた カジャール王朝の宝物などの記録映画です。私はイランの歴史にはうといので、 どうこう言う事ができませんが興味のある人にとってはこの上ない貴重な記録だと思います。 『サラーム・シネマ』は映画オーディションに集まった人々をとらえたドキュメンタリー・ タッチの作品。どうやらキャストのほとんどは素人らしいので、どう見ても 記録映画なのですが、ひょっとしたらみんな演技だったりして…と思うことも。 これが全部演出によるものだったら大したものだし、ただオーディション風景を カメラに撮っただけなら手抜きもいいとこ。出てくる人々のユニークさには 笑いました。すごいゴツイ顔の男性が「俺は悪役づらだと思う」と気弱そうに しゃべる所はケッサク。イランにはこうした俳優志望の人々が多いのでしょうか? だとしたら、イラン映画はどんどん面白くなるかもしれません。 『赤と白のバラ』関口治美 以前東京ファンタで観た『ルージュ』の素晴らしさ。この時關錦鵬(スタンリー・クワン) 監督の名前を初めて知りました。『ロアン・リンユイ』には期待しすぎてちょっと がっかりしたのですが、今回の作品は気にいりました。 まずは主演の陳冲(ジョアン・チェン)の舞台挨拶から(開演前のBGMは『天と地』 でした)。この人は『ラスト・エンペラー』以来ハリウッドで活躍している方が多いので、 どうしても香港映画でこの人を観るという心構えができません。舞台上のジョアン・ チェンもどう見てもハリウッド女優そのもの。背中が大きく開いた黒のドレスに 豊満なボディを包み、バストはノーブラだとはっきりわかるという色っぽさ。 映画ではいつも爬虫類的な色気を発散する人ですが、本人はもっとカラッとした感じでした。 でも着こなしといい、やっぱり香港女優のそれとはどこか違うんですね。 映画の方は、とってもエロチックな文芸作品でした。エゴイストでイヤな男だけど 魅力的な趙文[王宣](ウィンストン・チャオ)がよくぞここまでと言いたいくらいに 脱ぎまくり。『愛人/ラ・マン』みたいに売れば日本でも人気沸騰しそうな気がします。 彼に絡む赤薔薇ジョアン・チェンのねっとりとした色気。細い眉の彼女は蛇を連想させます。 対する白薔薇の葉玉[喞のへんを卿のへんに取り替えた字](ベロニカ・イップ)は 損な役柄で、お人形みたいでしたが、文字どおりのヘア・ヌードには驚きました。 私はもともと色気でゾクゾクするような映画が好みなので、こういったラブ・シーン、 ベッド・シーンの多い香港映画が現われた事には大賛成なのですが、面食らった人も 多いのではないでしょうか。音楽が大げさすぎて浮いてはいましたが、杜可風 (クリストファー・ドイル)のカメラが古き時代の上海ムードたっぷりで 飽きさせません。 このフィルムはどうやら映画祭用のプリントらしく、スクリーンの下の方の黒い部分に 英語字幕が出る(日本語字幕はスライド)という凝ったものでした。おかげでより 格調高い感じがしました。私はあまり映画の原作を読む気にならないのですが、 こんなにもエロチックな話ならぜひ読んでみたいと思います。 閉会式および『蔵』関口治美 映画祭のタイム・テーブルを初めて見た時には、正直言ってびっくりしました。 『蔵』がクロージングなんて…。これじゃ、益々東京国際映画祭のイメージが 悪くなりそう。3本の作品を観たあとオーチャードホールに来てみると、 案の定例年に比べて列が短く楽勝状態。でも混乱をさける為に観客をブロック分け (遅く入場した人は2〜3階にしか座れない)をしていました。 開演まで例によってロビイをウロウロしていると、ティモシー・ダルトンが美女 (正体不明)と共に現れました。すかさずオバチャン客が「『007』観ましたよ」 と通訳さんを通して話しかけるなどという光景もありましたが、意外と群がる人が いなかったようでした。場内で一番人気だったのは、なんといっても梁家輝 (レオン・カーファイ)でしょう。落ち着いて席につき、始めのうちは一人一人 丁寧にサインをしていたのですが、スタッフが飛び込んできてサイン会はあえなく中止。 カメラを向けると気がついてくれ、微笑んでくれたり手まで振ってくれるとっても きさくな人でした(でも興奮のあまりピンボケ)。 授賞式はNHK衛星で生中継されたのでご覧になった方もいるでしょうが、 該当者無しの部門が多くて拍子抜け。これでは、某映画評論家が「こんな映画祭は 早くつぶした方がいい。毎年どんなにひどいか観に行ってるみたい。」と雑誌に 書きたくなる気持ちもわかります。が、いつでもタダで映画を観ている (これが職業だから当然ですが)評論家とは違って、映画ファンにとっては 低料金(通常当日料金の半額以下)でいち早く話題作などを観る事ができるという 有り難い企画なのですから、これからも続けてほしいものです。 なお、受賞結果は以下の通りです。
さて、授賞式が終わると場内はだいぶすいてきます。クロージング上映の舞台挨拶は、 主演の浅野ゆう子、一色紗英、プロデューサーでもある松方弘樹、そして降旗康男監督。 一色紗英の「私、まだ女優さんになるかわかんないんですけど〜。」というコメントには 大笑いでした。 すったもんだがあったこの作品は、いつもの東映・宮尾登美子(原作を読んでいないのですが) 路線のドロドロもエロスも皆無。ヒロイン烈の純愛映画といった感じが強く、 私にはもの足りませんでした。浅野ゆう子も勘違い演技で、貫禄がなく (十朱幸代あたりでなくちゃ)てB級の感が否めません。烈役はやはり宮沢りえの方が 良かったのではないでしょうか。 今年は『蔵』ブームらしく、TV、舞台そして映画と競作されたくらいですが、 原作を含めて全部観た人はどれだけいたのでしょうか? 東京国際映画祭で思ったこと宮崎 暁美 『好男好女』32号で私の一番好きな監督は侯孝賢と書いたし次作に期待しているとも書いた。 でも、もう期待しないことにした。この『好男好女』、全然わからないし、 好きになれない。白色テロの時代を描きたいのならストレートに描けばいいのに、 現代の女優と絡めて描いて何の意味があるの?と思ってしまった。 そりゃあ、今までと同じじゃ進歩がないけど、少なくともこの描き方じゃ、 言いたいことがわからない! 『烈火戦車』劉徳華、観たさに来た人がほとんどだろうけど、舞台挨拶では爾冬陞監督が 先に挨拶をするべきだったのではないかな? あれでは監督に失礼。 監督の険しい顔が忘れられません。作品に関しては、後の方たちと同じ。 香港版では編集を変えたかしら? 『サラーム・シネマ』オーディション風景だけで映画ができてしまうなんて驚き。でもおもしろかった。 |