『旅するパオジャンフー』羽原 美紀 パオジャンフーとは中国語で〈足+包〉江湖と書き、流しの芸人や占いをやって各地を 渡り歩くことをいうそうだ。(光生館・現代中国語辞典より)現在でもパオジャンフーは 台湾全土に約50グループ、台湾中部・南部におよそ15〜20グループあり、 薬を売って生計を立てている。(薬を売るだけのグループも20〜30存在している)私は、 こういう人々を実際には見たことがないのであるが、「『寅さん』のような人々」 といったところだろうか。 この映画は、このパオジャンフーを日本人が撮影したドキュメンタリーフィルムである。 この映画に登場する3つのパオジャンフーは、台湾で最も古い歴史を持つ嘉義市を 本拠地としている。見たところ薬はあんまり(全然?)売れていないようだが、 人々の集まる夜市でのパフォーマンスはすごい!おねえちゃんの歌とセクシーダンス、 大将の火を吹く芸、特にすんごいのが毒蛇に腕を噛ませる芸で、大将の腕は毒で真っ黒に 変色している。やかましい口上にまくしたてられて、映像を見ているだけで 熱くなってしまった。 今年の夏、私は高雄からまず最南端の墾丁を訪れ、北上して嘉義を通り、 台北に行く旅行をしてきた。あいにくの雨続きで、台湾南部のいわゆる南国の雰囲気は 味わえなかったものの、墾丁からの田舎道は、両サイドに高い檳榔の木が続き、 時間がゆっくりと流れているかのような穏かな旅だった。嘉義は阿里山のふもとにあり、 登山鉄道で阿里山観光をする人々の玄関口になっている。市街地を離れて車を走らせれば、 緑の鬱蒼と生い茂る山々が私を待っていた。急に大雨に降られたのも、 さすが山ならではの良い思い出だ。 こんな異国の山の中で細々と生きる人々にスポットを当てた映画があるとは! 観る前はいささか地味に思えた。しかし、彼等は小さな存在では在るが、実に大きな パワーを持っていたのだった。監督が彼らに魅せられたのも納得できた。 パオジャンフーの大将は台湾語を話し、若者は北京語を話していたのも、 今の台湾の様子を端的に表しているといえる。香港、東京に追いつこうと近代化に努める 台湾の、TVや新聞報道では知ることの出来ない昔ながらの部分を私たちに伝えている。 ただこの映画は、1時間35分の劇場版のために30時間分ものフィルムを 編集したそうであるが、お陰でか、なんだかまとまりのない作品になっていたのが残念だ。 3つのパオジャンフーの物語が交差する形で構成されているが、それぞれが突然現れ、 ちょっと紹介される程度で終わってしまう。1つ1つのパオジャンフーをもっと深く 追跡した方がよかったと思う。彼らの将来がとても気になるが、続編は無理だろうか。 |