東京国際ファンタスティック映画祭 '95
開会式および『暴走特急』関口治美 十一回を迎えた東京ファンタ。今年の開会式はちょっとゲストが寂しすぎ(去年の開会式よりも地味なくらい)で、これでも大丈夫なのかと正直言って不安になりました。今思えばそんな危惧は必要なかったくらい、例年通りに楽しかったのですが…。 まずは公式ポスターデザインの表彰式から。毎年凝りにこってるポスターですが、今年は一般公募(第五回目もそうでした)によるもの。採用分を始め入選作はどれもファンタっぽいムード満点。審査員(石川三千代、永井豪、寺沢武一、雨宮慶太、などこちらも凝ってます)も大変だったのではないでしょうか? 続いてファンタ好例ゲストゾロゾロの開会式へ。外国人ゲストはレザーフェイス(『悪魔のいけにえ』のあのスタイルで登場のプロレスラー)のみ、あとは日本人ばかりでした。白いワンピースでガメラとご一緒の藤谷文子ちゃん、『東京フィスト』でついに東京ファンタへ作品を持ってきた塚本晋也とキャストご一行(主演の藤井かほりは要チェック)、どうやらレザーフェイスがお気に召したらしい木村奈保子(木曜洋画劇場の売りはアクション、エッチ、ホラーですと)などなど。ファンタのゲストは常連が増えてきて、「またこの人か〜。」と思うような人もいますが、アット・ホームなところが魅力でもあります。 さて、オープニング作品はスティーブン・セガールの新作『暴走特急』。『沈黙の艦隊』の続編ですが、トミー=リー・ジョーンズというマッドネスでビッグな悪役がいないのがちょっとつらい感じ。セガールと同等とはいかなくても、魅力的な悪役や脇役がいないと、どんなにお金がかかっていてもB級パニック映画にしかみえないのです。今回の悪役達はスケールが小さすぎて(事件はデカイけど)…。それに私はどうしてもセガールが一流スターには思えないので、この映画の点はますます厳しくなってしまいます。ただ、いきなりエコロジーぶって拍子抜けした『沈黙の要塞』に比べればパニック映画に終始した分許せます。 実はファンタファンの間では、藤谷文子ちゃんが開会式に続いて登場し「パパの代わりに来ました。皆さん楽しんで下さいね」と舞台挨拶をしてくれるのでは、という期待が高まっていたのですが、残念ながらありませんでした。 《オールナイトイベント ホラーマニアは眠らない》関口治美 思えばファンタのオールナイトは99%(第6回のみリタイア)参加している私。今年の作品は例外になく小粒でオール続編物というのがツラかったけれど、ファンタファンとしては参加せずにはいられませんでした。 上映前には、開会式にも登場したレザーフェイスVS参加作品配給会社によるスーパー・ファミコン・ゲーム大会。レザーフェイスに勝てば映画の宣伝を出来るという『タモリ倶楽部』(そういえば以前この番組にファンタが登場したことも…)みたいなコーナーでしたが、レザーフェイスの全敗というオソマツさ。チェーン・ソー片手に登場した時の元気さが、負けるたびに暗〜くなってて笑えました。この人意外とマジメだったりして…。いくらマイクを向けても奇声を上げるだけで、まともな挨拶を聴かせてもらえなかったのが、心残りでした。その他、作品の合間にプレゼント抽選会(今年も当らず)とかオホホ商会(ワハハ本舗の子分達)によるパロディーショー・タイム(これがケッ作。お見せできなくて残念です)などが行われ、明日の映画に備えて半分寝るつもりだった私は結局最後まで眠れませんでした。 『キャンディマン2』鏡に向かって「キャンディマン、キャンディマン…」と5回続けて唱えた者は伝説のキャンディマンに殺されることとなる、というホラー映画の続編。「1」はヒロイン、ヴァージニア・マドセンの体当たり演技に圧倒されましたが、今回はキャンディマンがどうして伝説となったかの謎解きに終始したため、回想シーンが多くてややかったるい展開になってしまいました。『エルム街の悪夢』のフレディは同情の余地のないようなキャラクターでしたが、キャンディマンの場合はあまりにも悲劇的。ホラー・キャラクターに同情してしまうと割り切って観られなくなってしまうんですね。この映画の見所はヒロインの母に扮する往年の名子役ヴェロニカ・カートライトでしょう。かつて『噂の二人』で噂を流すこととなったあの子を覚えてますか?その後『エイリアン』『SFボディ・スナッチャー』で怯えてた彼女の久々の登場でした。 『チルドレン・オブ・ザ・コーン3(アーバン・ハーベスト)』このシリーズは前2作を観ていないし、私はスティーブン・キングのファンではないので原作も読んでいません。かといって“1”から観なければならないような話とも思えません。 ストーリーは『オーメン』の超マイナー版といった所。アホな兄にダミアンもどきの弟。二人を引き取る里親のオマヌケぶりにはあきれました。なんともダサダサでビデオが丁度良いでしょう。はじめからお休みタイムにする予定にもかかわらず、最後までしっかり観てしまった、義理がたい私でありました。 『アタック・オブ・ザ・キラートマト 完璧版』これまたオリジナル版を観ていません。あの伝説的アホらしさを、リアルタイムで体験できなかったのは残念でもあります。が、今回ので充分というのが正直な感想。面白いのは予告編にもなっているオープニング(こうして失われたフィルムが見つかったっていうヤツ)だけで、あとはひたすらアホらしいだけ。でも『エドウッド』ブームのおかげで、こういうアホッチイ映画がトレンドだったりして…。これだけ馬鹿馬鹿しいのに、大真面目(おおふざけ)でディレクターズ・カット版を作っちゃう人っていったい…?それにしても、今も耳から離れないテーマソングがいまいましい。油断するとついつい鼻歌してしまいそう。 『悪魔のいけにえ レジェンド・オブ・レザーフェイス』トビー・フーパーの手を離れ、現代版リメイクとして出来上がったのがこの作品。今回の4作品中最もつまりませんでした。ただ単に一作目をなぞっただけなんですもん。昔の東京ファンタにゲストで来日した時のトビー・フーパー(男子トイレはサイン会場と化した)が懐かしくてたまりませんでした。せめて、レザーフェイスが上映中に暴れてくれたらよかったのに…。 《妖精伝説 アニタ・ユン》関口治美 あっという間に香港映画のトップ女優の座についてしまった袁詠儀(アニタ・ユン)の作品を2本立て。舞台挨拶に現れたアニタは、いつものキャラクター通りにあっけらかんとしてものおじしない性格らしく、小松沢さんの持っていた資料を覗き込んだり、陽気なポーズをとったりでファンを魅了しました。この日はファンタと映画祭本体が提携したともいえるアニタ・ユン・デー。東京ファンタの会場パンテオンから『君さえいれば/金枝玉葉』の会場オーチャードホールまで、ほとんどの観客がゾロゾロ民族大移動状態でしたが、アニタも『北京より愛をこめて!?』上映中に帝国ホテルへ移動し、張國榮(レスリー・チャン)、劉嘉玲(カリーナ・ラウ)らと記者会見、その後オーチャードホールへ戻るという強行軍。ちょっとドスがきいたハスキーな声がチャーミングでしたが、お疲れ様。 『暴風眼』の監督リー・キンシャンも素敵(彼は最後までいました)で、私は上映後にサインをもらいました。 『0061北京より愛をこめて!?』アニタのというよりも、東京ファンタのみならず香港影迷待望の周星馳(チャウ・シンチー)主演映画。ようやく彼の作品が日本の劇場で観られるのですね。 さて、この映画、タイトル通りに全編『007』のパロディで、よく笑わさせていただきました。映画の作りも、メインタイトル前にまず事件を一つ、続いてシルエットの美女(?)が音楽に合わせてクネクネと0061にからむタイトル。Qそっくりの珍発明家、羅家英(ロー・カーイン)は出てくるし、ラストは、アニタ(つまりボンドガールなんですね)との熱〜いラブ・シーン、なんて所までよくぞここまでやってくれたものです。アニタはあくまでも相手役ですが、チャウ・シンチーとの息もピッタリ。『007』のパロディ映画としては『カジノロワイヤル』が有名で私は好きな映画ですが、今回の方がずっとポイントが高いと思います。 今年の東京国際映画祭審査員として、先代ボンド役者のティモシー・ダルトンが来日していましたが、彼にもぜひ観せてあげたかったと思います。でもまじめそうな人だったし、2作でボンド役を降ろされた人だから観たら怒るでしょうね。 『暴風眼』これだけ香港影迷が増えてきたのに、私の周りにはこの作品を知っていた人は皆無と言ってよく、期待と不安の板挟み状態でした。 ハイテク泥棒のアニタ(とその一味)対孤高の女泥棒、張敏(チョン・マン)。二人に職務をひっかき回される刑事は任達華(サイモン・ヤム)と、なかなか楽しいキャストです。この作品も実際の主役はサイモン・ヤムと言ってよく、アニタはチョン・マンと共に彼に絡む役柄。静のチョン・マン(アクション・ポーズが美しい)と動のアニタの対比も面白いし、アニタにたじたじといった感じのサイモン・ヤムがオジサンしているのも楽しいです。 香港女優でアニタと言えば、昨年ファンタに来てくれたアニタ・ムイの名が浮かんだものでしたが、これからはアニタ・ユンの時代になりそうですね。
見逃して残念だった『マッド・ラブ』今夏香港で観て、感涙してしまった作品に『神父同志』(原題・PRIEST)というイギリス映画がある。文芸ものなので香港(たぶん台湾でも)では単館ロードショーだったが、この作品が上映されていた影藝戯院という映画館が落ち着いた映画館だったので、とても気分よく観ることができた。 この『PRIEST』という作品、キネマ旬報に掲載された十数行の一記事だけで、日本では全然紹介されておらず残念でならない。この記事にある通り、この映画はアントニア・バードというイギリスの新鋭女性監督の作品。今秋ファンタで上映された『マッド・ラブ』も彼女の作品だったのだ。 以前電影雙周刊で、女性監督特集が組まれていたが、そこにも注目の女性監督として彼女が含まれていた。数少ない情報を繋ぎ合わせると、バード監督はBBC放送で数多くの作品を手懸け、昨年の劇場デビュー作で複数の賞を受賞している本国では評判の高い監督らしい。キネ旬の記事には、『PRIEST』はパリで大ヒットのイギリス映画として紹介されたいたが、それも納得できるほどの秀作だと思う。 物語は、主人公の若き神父がある下町の教会に派遣されるところから始まる。彼は神の道を真摯な思いで意欲的に広めようとするが、同僚の中年の神父は、世間を知り尽くしているせいか、布教にも批判的で神父らしからぬ自堕落な行いをする人間で馬が合わない。一方主人公の神父も自己の同性愛者としての意識に悩んでいる。そんな時、父親から近親相姦を強いられ苦しんでいる少女の懺悔を聞くが、少女を早く救ってあげたくても懺悔の戒律は破れない。遠回しに少女を励ます行動に出る彼だったが、彼女を粗野な父親から救出することは出来ないまま、この悲惨な出来事は母親の知れるところとなり、知っていながら救いの手を差し伸べなかったと、この若き神父は人々の非難の的になる。そして、彼自身が同性愛者であることも知れ渡り、彼は人々から完全にオミットされるようになる。理想と現実、天職としての神父という道、深く苦しい自己の葛藤の果てに彼が掴んだものは…。ラストの一シーンは今でも胸を締め付けるような感動を呼ぶ。 察するところ『マッド・ラブ』は、この作品の後作のようなので、ぜひ観てみたい。合わせて『PRIEST』が日本でも公開されて、アントニア・バードという監督が日本でも評価されるようになればうれしいのだが。(地畑) 『走らなあかん、夜明けまで』関口治美 『君さえいれば/金枝玉葉』を観たあとオーチャード・ホールから文字どおり走ってきた私。滑り込みでゲストの挨拶に間に合いました。主演の萩原聖人は映画やTVと変わらないイメージの人。線が細くてなかなか可愛いい男の子といった感じです。監督の萩庭貞明は『遊びの時間は終わらない』でファンタ登場済み。原作の大沢在昌も一昨年の『新宿鮫』以来ファンタでお馴染みの顔になりました。 出張で大阪に来たサラリーマン坂田が、大事なアタッシュケースを盗まれてしまう。盗んだのはヤクザだったからさあ大変。明日の朝の会議までに取り返すべく、坂田のヤクザとの戦いが始まった…。 通天閣の展望台でのんびり望遠鏡なんぞ覗いていたドジなサラリーマンが、これまたドジなヤクザの使いに、間違えてアタッシュケースを盗まれてしまう。これがコメディとして描かれていれば、後味もすっきりしたのに、だんだんシリアスなヤクザ物になってしまい残念です。 『光る眼』地畑寧子 かのスティーブン・キングにも多大な影響を与えた(『チルドレン・オブ・ザ・コーン』を観れば一目瞭然)60年に製作された『光る眼』。生まれながらに特殊能力を持つ子供たちが大人たちを支配するという、今見ても古さを感じさせないこの名作を、今度はジョン・カーペンター監督が撮った。60年作品は舞台がイギリスの片田舎だったが、95年作品は舞台をアメリカの片田舎の現在に移している。前作との比較は、あまりするべきではないのかもしれないが、このカーペンター版は、現代の生活様式を実に上手く取り入れ、前作を凌ぐ傑作に仕上がっている。 特に光る眼をもつ子供たちを演じる子役たちの演技を観れば誰しもが子供恐怖症にかかりそうなくらい、素晴らしい。また、前作では子供たちのリーダーになる子が男の子だったのに対し、本作では女の子になっており、前作になかった光る眼軍団から落ちこぼれる子供が男の子である点も現代を反映している。さらに前作では問題解決に奔走するのが男性ばかりだったのに対し、本策には政府から派遣された女医が登場するのも興味深い。 彼らと運命を共にする医師役には、クリストファー・リーヴが扮し、『スーパーマン』以外にも彼の名演があることを知らない人にも、彼に確固たる演技者としての資質があることがわかってもらえると思う。 SFホラー映画をさんざん観てしまい、決まりきったパターンに飽き飽きしている人でさえ、この作品の恐怖感は新鮮なものになるに違いない。 昨年同じファンタで上映されたカーペンター監督の『マウス・オブ・マッドネス』は、あれほど素晴らしいのにさして評判にならず、がっかりしていたが、この『光る目』は、ホラーファンならずとも理解納得できる作品なので、多くの人に勧めたい。 『サウンド・オブ・ミュージック』関口治美 ご存知、映画史上に燦然と輝く名作。昨年の『アラビアのロレンス』に続く70ミリでの上映です。 この日の為にアメリカでプリント、イギリスで録音され、今は亡き懐かしの高瀬慎夫版の字幕(よく原本が残っていたと感心しました)をつけるという、マニア泣かせのフィルム。なぜかジワジワッと字幕がわき出るような感じ(どう説明したらいいのかわかりません)で焼き付かれていて、それがよりノスタルジックな雰囲気を醸し出します。昨年のラストでのフィルム切れ事故を思い出して、最後までハラハラしながら観てしまいましたが、無事最後まで観ることが出来ました。 思えば、私自身70ミリでこの作品を観たことはなかったし、以前劇場で観てから20年近くたっています。その間、ジュリー・アンドリュースのコンサートを聴く機会があったり、宮本亜門&大地真央の映画を意識した舞台を観たりしたおかげで、以前はファミリー映画としてとらえていたこの作品に対するイメージが徐々に変化してきたものでした。戦後五十年の今年に観た『サウンド・オブ・ミュージック』は反戦映画の傑作でした。以前ドイツでは「エーデルワイス」の歌をリクエストするとイヤな顔をされる、という話を聞いた事がありますが、なるほど。ファンタファンの間でも、こんなにシビアな話だとは…という意見がありました。ミュージカルは歌と踊りが命で話は二の次、とは限らない。名作の名作たるゆえんをまざまざと感じさせられました。 『フランク・アンド・オーリー』地畑寧子 アニメをほとんど観ない私でも、ディズニー・アニメ映画はアニメの域をこえたジャンルとしてインプットされていて、ディズニーアニメだけは、進んで観ることにしている。そんな世界中の人に夢を与え続けるディズニーの世界をもっと好きになれるドキュメンタリー映画がこの作品。 フランク・トーマスとオーリー・ジョンソンは、このディズニーアニメの世界を支え成長させてきた立役者である。老いてなお友情は絶えることなく、夢を追い続けている。常に彼らにとってアニメーターという職業はまさに天職なのだと誰もが感じるはずだ。隣同士の家を行き来する画面に映し出される彼らの穏やかな日常こそが理想ともいえるほど、ディズニーの夢そのもので、観たあとも幸せな気分に浸ることができる。 フィルムには、故ウォルト・ディズニーも映し出され、仕事に厳しかった彼の姿を観ることができる。また、ディズニーアニメに登場する動物たちの動作が、どうしてあれまで巧妙に擬人化されたものであるかが、フランク&オーリーの研究の賜物であることだったことなど、驚きと共にアニメでしか実現できない魔力を教えてくれる。 この作品の監督・脚本はセオドール・トーマス。名前からもわかるように、彼はフランク・トーマスの息子である。父の偉業を優しく讃えるこの作品をたった一回の上映で終わらせてほしくない。劇場での一般公開を強く望んでやまない。 《本のお知らせ》
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『ターゲット・ブルー』は現在、ポニー・キャ二オンより発売中。 |
地畑寧子
ことしのファンタに李連杰の来日が決まったとの情報を聞いてから、妙に浮き足だってしまった私でしたが、ファンタでの二本の映画上映のあと、『フィスト・オブ・レジェンド 怒りの鉄拳』(『精武英雄』)をはじめとする発売・販売メーカーのコンベンションと、閉会式に参加とあっという間の一日でした。
彼とほぼ同年代の私は、ティーンエイジャーのころ『少林寺』を観て、自分と同じ年頃の人で中国にこんなにすごい人がいるんだといたく感動を受けたものの、その後彼がどうしているのかも気に留めずにいたのですが、新宿の某映画館で『ワンス〜天地大乱』を熱狂的なクンフーファン?の男性に囲まれて観て(なぜかその日そういうファン層が集まっていた)、「オォ〜」「すげ〜」の歓声の中で、(実は自分も声をあげていた…)すっかり興奮してしまい、普段は買わないパンフレットも買ってしまって、その後数日、映画好きの男性たちにこの感動をしゃべりまくっていたのでした。その興奮もさめやらぬうちに一昨年の東京国際映画祭で『天地大乱』の続編『獅王争覇』が上映され、舞台挨拶に来日した關之琳(ロザムンド・クアン)の言葉にいちいち相づちを打ちながら、そのままクンフー映画に興味をもつようになったのでした…。
そして今年ついに舞台に李連杰が!
取材取材と思いながらもカメラを持つ手も震えて、前述の関口さんと同様この時から、浮かれっぱなしの一日が始まりました。(そういえば中国人の記者の方の数人会場にきていました)小柄な人なんだろうなぁと予測していたものの、自身のある男の余裕か武術者たる者の威厳か終始ニコニコした笑顔を保ちながらも、背筋がぴんとして姿勢がよく小柄な感じは受けませんでした。『ラスト・ヒーロー・イン・チャイナ』はともかく、以前観た『ターゲット・ブルー』は、中国語字幕だったにもかかわらず、いたく感動してお気にいりの作品になっていたので、日本語字幕入りで大画面で観られたことに感激はひとしお。劇中に流れる王馨平(リンダ・ウォン)の甘い歌声にも酔ったりして、気分はすっかりヒロイン気分で劇場を後にしたのでした。
ちなみに数あるボディガードもの映画で、私がこの人に守ってもらいたいと思うキャラクターは、(1)『不機嫌な赤い薔薇』のニコラス・ケイジ、(2)『ターゲット・ブルー』の李連杰です。『ターゲット・ブルー』を観てしまった以上、『ボディ・ガード』のケビン・コスナーはお断りです(笑)。
コンベンション会場では、『黄飛鴻』のサントラが流れ、李連杰を迎える準備は万端。『フィスト・オブ・レジェンド』のテーマ曲をバックに、数々の取材を受けて疲れているだろうに、彼は例の笑顔をたたえて現れました。
周知の通り、李連杰は幼い頃から武術を学び、十代で中国武術大会5回連続優勝という輝かしい経歴を持つ人。ゆえに中国武術の魅力を最大限に活かせる古装劇(時代劇)アクションを彼が最も得意とするのは道理。彼自身も冒頭の挨拶でこの点に触れ、合わせて近年撮り始めた現代劇アクションについても広く認知されることを願っているとのことでした。以下は会場での簡単な質疑応答から。
———香港のアクション映画で多用されるワイヤーについては?
「特殊効果を狙うためにワイヤーを使うことはありますが、私としては使わないほうが便利ですので、できるだけ使用をさけるようにしています」
———拳銃を使う現代劇と使用しない古装劇の違いは?アクションなしの作品への出演予定は?
「武術を活かすという点では、時代劇のほうが利点が大きいと思います。やはり現代劇アクションでは、拳銃を使いますから、拳銃を取り去ってからクンフーを活かしたシーンに入ることになるからです。アクションなしの作品にも意欲はありますが、中国語圏以外の日本でも東南アジアでも私はアクション俳優というイメージが定着しているので、機会は少ないと思います。」
———正東製作有限公司(イースタン・プロダクション)というご自分の製作会社で俳優の他に製作者という立場にもいらっしゃるわけですが、世界進出を含めて今後の展開は?
「『フィスト・オブ・レジェンド』も『ターゲット・ブルー』も正東製作有限公司で製作したものです。プロデューサーとして仕事をする時は、脚本から俳優・監督のコーディネイトまでを自分でしなければなりません。
展望としては、世界というより、まず中国というマーケットを考えていて、中国から海外へと広げていくつもりです。周知の通り、中国は十二、三億の人口を抱えていますから、その点から考えても大きなマーケットです。しかも、中国の映画のマーケットは、オープンされて日が浅いので、将来性は非常にあると思います」
———『中華英雄』で監督を経験されていますが、今後監督の予定はありますか?
「監督をする予定はありません。というのも香港にはアクション映画を得意とする一流の監督が大勢いるからです。自分としては、プロデューサーと俳優の二本に絞っていくつもりでいます」
最後にこのコンベンションの一作『フィスト・オブ・レジェンド 怒りの鉄拳』について。
この作品は、94年香港で公開され、高い興行成績を残しました。日本では、現在ポニー・キャ二オンよりビデオ発売されています。原題は『精武英雄』。邦題と原題からもわかる通り、かつてブルース・リーが主演した『ドラゴン怒りの鉄拳』(原題・精武門)のリメイク作品です。巷で言われているように『ドラゴン怒りの鉄拳』は素晴らしい作品ではあるものの、反日感情が非常にこもった作品で、ある意味では日本人が観るときつらい要素も含んでいます。
しかし、私が観たところでは『フィスト・オブ・レジェンド 怒りの鉄拳』では、そういった反日感情の部分はかなり軽減されていて、中国人を卑下する愚かな日本人と人道的な日本人の双方がキャラクターに加えられていて、ドラマとしてもよくできた作品といえます。また、見せ場になるアクションシーンは、李連杰の研究の賜かブルース・リーの真似にならず、李連杰自身の陳真の武術と人間性がよく表現されていて、女性にもお薦めしたい作品です。
この作品には、日本からメインキャラクターとして、倉田保明さんと中山忍さんが参加していて、この会場にも姿を見せてくれました。李連杰演ずる陳真の恋人役を演じた中山忍さんは、この作品が初の海外映画での仕事とのことでしたが、武骨な男性が大挙出演している中で、可憐な味を出していて、印象的です。
一方、二十五年余り前に香港に渡り、日本人俳優としては特例といえるほどクンフースターとして名を馳せた倉田氏は、スクリーンで観るよりシャープな印象を受けました。彼の弁をもってしてもアクション映画の転機をもたらした作品は『男たちの挽歌』とのこと。この『精武英雄』撮影秘話については、“洋泉社刊/映画秘宝・ブルース・リーと101匹ドラゴン大行進”(小誌で毎号投稿して下さっている知野二郎さんがメインライターとして参加なさっています)に詳しく記載されているので、興味のある方はご覧になってください。
香港映画の大きな骨子としてクンフー映画というジャンルがあり、その中でも中国武道の名門・精武館同情を扱った作品は、ブルース・リーや李連杰をはじめ数多くあります。現在香港のテレビでも甄子丹(ドニー・イエン)主演の『精武門』というドラマが放映されていて、私も今夏香港に行った際、見ましたが、テレビの画面ではもったいないくらいの迫力で、人気を博しているわけがわかりました。
得意の武術を最大の武器として、香港映画の大舞台を圧巻しつづける李連杰。思わず予告編で涙してしまった梅艶芳共演の『給的信』、脇役の張學友の芸達者ぶりにも納得できる香港版“ダイハード”『鼠膽龍威』と李連杰の驀進は続いています。
あとは、日本での公開を待つのみ。配給会社の目に留まることを願ってやまない今日この頃です。
82年 | 『少林寺』(『少林寺』) |
84年 | 『少林寺2』(『少林寺小子』) |
86年 | 『阿羅漢』(『南北少林』) |
88年 | 『中華英雄』未/兼監督 |
89年 | 『龍在天涯』未 |
91年 | 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地黎明』(『黄飛鴻』) |
92年 | 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地大乱』(『黄飛鴻II之男兒當自強』) |
92年 | 『92黄飛鴻之龍行天下』未 |
92年 | 『スウォーズマン 女神伝説の章』(『笑傲江湖II東方不敗』) |
93年 | 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地覇王』(『黄飛鴻III之獅王争覇』) |
93年 | 『格闘飛龍』(『方世玉』) |
93年 | 『電光飛龍』(『方世玉續集』) |
93年 | 『ラスト・ヒーロー・イン・チャイナ 烈火風雲』(『黄飛鴻鐵鶏鬥蜈蚣』) |
93年 | 『マスター・オブ・リアル・カンフー 大地無限』(『太極張三豊』) |
93年 | 『カンフー・カルト・マスター 魔教教主』(『倚天屠龍記之魔教教主』) |
94年 | 『洪煕官』未 |
94年 | 『ターゲット・ブルー』(『中南海保』) |
94年 | 『フィスト・オブ・レジェンド 怒りの鉄拳』(『精武英雄』) |
95年 | 『給的信』未 |
95年 | 『鼠膽龍威』未 |
95年 | 『冒険王』未 |
関口治美
リー・リンチェイにポ〜ッ!としている間にいよいよクロージングへ突入。これまたポスターがすごくカッコよくて、面白さを予感させます。
この作品は昨年のゆうばりファンタで上映後公開された『エル・マリアッチ』の続編。主役はハリウッド入りしたアントニオ・バンデラス。長い髪の横顔がステキで、ガンさばきがまたスゴく(浮気者の私)、リンチェイと対決させたいなどと思いながら観ていました。共演にスティーブ・ブシェーミやクエンティン・タランティーノなどというのがまたニクイですね。ロバート・ロドリゲス監督はまだ26歳という若さですが、このはじけるような面白さに目が離せません。
アクション漬けの一日の最後は閉会式。まずはファンタスティック観客大賞の授賞式から。この賞は今年が初めてで、ノミネートされた5作品(私は一本も観ていない)の中から観客の投票で『マッシュルーム』(ブラックコメディ)に栄冠が。続いてゲスト登場。開会式に集まった人がほとんど揃い、さらにリー・リンチェイも。例年通りゆうばりファンタPRにミス・メロンを従えてやってきた中田夕張市長は、コメント後しっかりリンチェイの隣へ。恒例のサインボール投げとともに今年のファンタは幕を閉じました。一番前に陣取っていた私は、最後にリー・リンチェイとしっかり握手。彼の鍛えぬかれた厚くたくましい手を両手で握りしめてしまったのでした。
こうして、十一年目のファンタは無事修了。香港系はみんな昼間だし、レイト・ショーは邦画だし、オールナイトもたいした事ない、とチラシを初めて目にした時はがっかりしたものです。でも終わってみれば、通ってよかったな、と思わせる何かがあります。東京ファンタに通うたびに友人や顔見知りがどんどん増えています。一年にたった8日間だけ、時間を共有する仲間達がいる…。この幸せがいつまでも続きますように。
94年の東京ファンタスティック映画祭のオールナイトの一本目に上映され、好評を得た『新難兄難弟』が、『月夜の願い』と題していよいよ一般公開されます。
製作は90年代に入って新風を巻きおこしているUFO(電影人製作有限公司)。かの『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に題材を取りながらも、香港らしい世相を巧みに取り入れ、人の情に重点をおいたドラマは、決して浪花節にならないホロリとさせられる泣かせの部分と笑いの部分が微妙に溶け合い見事の一言につきます。また、月が導く東洋人らしいファンタジックな雰囲気が隠し味になっているのも魅力の一つ。
香港映画のファンには、うれしい楽屋落ちの部分も多分に含まれてはいるものの、この作品の中核をなすのは、どこの世界でもある父と息子のギクシャクとした関係と和解。他人の世話ばかりをして結局自分は貧乏なだけの老いた父親は、息子にとって、人生の敗残者のようにしか映らず、父親の生き方に反発を覚えてばかり。そんな時に神の助けか、息子は父母の若かりし時代にタイムスリップします。そこには、まだ若く、界隈の人たちから慕われている父親が。若き父と生活を共にすることで、息子は一人の男として父親がいかに尊敬できる人間かを身に染みて感じるようになります。
息子を演じた梁朝偉(トニー・レオン)はさることながら、この作品で素晴らしいのが父親役の梁家輝(レオン・カーファイ)。
一般には『愛人/ラマン』や最近では『南京の基督』といった作品での知的でクールな役柄で記憶されている彼のようですが、ここでは、陽気でバカがつくほどお人好しで、サンダル履きと下着姿が似合う下町の憎めないオジサンを実に魅力的に演じています。また、息子と父親を優しく大きく包む母親を演じた劉嘉玲(カリーナ・ラウ)も見事。冒頭に老役で登場する彼女は、本人とは思えないほど役にハマっていて、目を疑うばかりです。
また、脇役陣も揃っていて、袁詠儀の他にもUFO作品常連・鄭丹瑞や、アクション映画でお馴染みの周文健、李子雄など有名俳優・監督が少ない出番ながら、いい味を出しています。
最後に、この作品のラストシーンは本当に笑えます。こんなオチをつけるシャレっ気にも拍手を贈りたい、そんな作品です。
(以上地畑)
『月夜の願い』は、九六年一月二〇日より、シネマカリテにてロードショー公開されます。 |
女性を描いた作品で高い評価を得ている關錦鵬(スタンリー・クアン)の待望の作品が『赤い薔薇白い薔薇』。
某紙で書いたように彼の映像は静的で繊細。複雑な女性の心理描写に深く切り込んだ展開と美しい画は、まさに文芸芸術作品である。
中国語圏最大の女優といわれる阮玲玉の波瀾万丈の人生とその背景を描いた『ロアン・リンユイ』で日本では広く知られている彼だが、私は、大陸・香港・台湾の三国の女性のニューヨークでの友情と孤独感を描いた『フルムーン・イン・ニューヨーク』も忘れがたい。実際に三国出身の女優を起用したリアル感もさながら、彼女たちが酔って自分の国の歌を歌い合うシーンが一番記憶に残っている。また、あんなに美しいシーンが多いのについぞ日本では一般公開されなかった『ルージュ』の梅艶芳(アニタ・ムイ)といい、關錦鵬の女優たちは、新境地ともいえる演技を見せてくれる。
そしてこの『赤い薔薇白い薔薇』。昨年の台湾金馬奨で王家衛作品としのぎを削ったこの作品は、二人の個性的な女優を配している。が、その中心にいるのは、全くタイプが違うふたりの女性を好む男である。女性の立場からみれば、わがまま勝手のこの男は、官能的な人妻と火遊びはするが、結局貞淑な妻を得る。彼にとっての性の喜びはリスキーな遊びであって、愛情ではない。そして世間体を保つため、子をなすための過程にすぎない。
母親に期待され、社会的な地位も得、女の扱いにも慣れていると自負している男だったが、ある時自分から別れた、かの人妻と出会う。彼女はすっかり老け込んでいたものの、再会し別れ際に涙を流したのは男のほうだった。社会的地位のため愛情を感じない結婚をし、その妻にも悩まされ、気づいたときには愛情さえも逃してしまっていた。それでも世間体のため、社会的地位を保つため男は胸を張って歩いていかなければならない。ラストシーンで趙文演じる主人公の男が衿を正して出勤するシーンは、彼の姿勢のよさとは裏腹に男の哀れを感じ、苦笑さえわいてしまう。
男に期待をする母親、二人の女。彼の人生を翻弄しているのは女性ばかりである。そんなことさえ男は気づかず、何もなかったふりをして邁進していかなければならない。
東京国際映画祭の舞台挨拶で、主演の陳冲(ジョアン・チェン)が言っていたように、原作者の張愛玲の皮肉とも思えるこの物語に、興味がつきない。
よくよく考えると關錦鵬監督は、この行間を読むようなストーリーを、映像化するにはかなり苦心したのではないかと思う。ゆえに陳冲の言の通り、小説を読むような凝った映像になったのだろう。
ちなみにこの作品の難点をいえば、映像と音楽の不一致。(ラストに流れる林憶蓮/サンディ・ラムの主題曲は素晴らしいが)かなり前からサントラ版を聞いて気に入っていたのだが、なぜか物憂く美しい三十年代の上海の町にしっくりとこない。しかし、金馬奨ではオリジナル音楽賞を受賞しているので、単なる好みの差なのだろう。
国際女優である陳冲については、今さらいうことはないが、この作品で情熱的な彼女と相対する女性を演じた葉玉卿(ヴェロニカ・イップ)は、前述の女優たちと同じく、新境地を得たのではないだろうか。いわゆる色っぽい女優として達者な演技力も無視されがちだった彼女が、陰性の女の情念をもった女を演じたことに、私は感銘を受けた。
(以上地畑)
『赤い薔薇 白い薔薇』は、九五年のベルリン国際映画祭に正式出品された作品で、九四年の第三一回台湾金馬奨では、主演女優賞・陳冲(ジョアン・チェン)ほか五部門で受賞。九五年の第一四回香港電影金像奨では、四部門にノミネートされました。 |
日本では九五年一月下旬より渋谷シネパレスにてロードショー公開されます |