女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
35号   pp.48 -- 52

東京国際映画祭、ファンタスティック映画祭
番外編〜読者の手紙から〜







3本の劉徳華作品を観て

木口

9/24『烈火戦車』:私が悪うございましたの巻

もれ聞こえてくる監督の発言やイメージから思いっきり期待していました。 香港映画を楽しむポイントは決して期待しないことだとあれだけ何度も肝に銘じたはずなのに、うっかり期待してしまいました。

 良質の作品だけど、華仔(ワーチャイ/劉徳華の愛称)がイマイチの作品なのかなと想像して観にいったのですが、全然違うではないですか。 でもよくよく考えてみたら誰もそんなことは言ってないわけで、華仔本人もまだ観ていないというのだから、私が勝手に妄想を膨らませていたにすぎないのです。 どちらかというと《地方局発、良質のドラマを目指して。NHK番組放送局作》とでも銘打ちたくなる雰囲気でしたね。 「フジや日テレとは違うんだ!僕たちは良質のドラマを目指しているんだ!」 エライぞ、そうだ、がんばってね!期待してるよ! 涙もいっぱい用意してるよ! 期待せずにいればそれはそれで十分に楽しめたのです。 華仔も、その友人も、おばあさんも、マスターも良かったし、地味な彼女も可愛かった。 終わって帰る道すがら友人に「あの彼女、昔のあなたに似てたじゃない」と言われ、 「どうして!似ていないよ〜」という私。 普通ヒロインに似ていると言えば喜ぶでしょうに。でも私は似ていない! 私はあんなに彼氏にツンケンしないぞ。私はあんなに屈折してないぞ。 と、とにかく似ていない。眼鏡かけてるところだけよ、似てるのは。 相手がアンディならやさしくするわい!でも彼女の心のヒダをもっと描いて欲しかったな。 きっと彼女はほんとはいい娘なんだと思うよ。 もう少し描いてくれないとヒステリックなヘ〜ンな性格にしかみえなかったです。

 この街にバイク屋は一軒しかないのかな? いったいバイクって幾らぐらいなの。私にはなぜバイクを自分で買わないのかわからない。 なんで父親にバイクをもらいにいくのでしょう。自分で買わんかい!自分で!  義母はほんのちょっとの出番で気持ちが良〜くわかったけれど、 父親の気持ちが最後までわかりにくかった。 中国系の親子関係って私にはわからないことばかりですマザコン・ファザコン気味だし。 あ、間違えた、親孝行の方が多いのでした。

 おちゃらけ映画にはおおあまの私も(だって好きなんですもの)、 こういった感じの映画にはガゼン点が辛くなってしまいます。いかんなあ。 日本人体質そのものです。映画は楽しむものだ、粗捜しするためのものじゃないって、 いつも自分で言っていたのに。深く反省。

 親子のドラマなのに父親の気持ちがわからない私。皆、わかったのかな? エッわかったの!わかって楽しんだの!そうか、わかんなかったのは私だけ? そうだったのか、私が悪るうございました。  P・S 香港の方へ。良い映画らしいのでいっぱい観にいってネ。

(この上映がワールドプレミアでした)



9/25『天與地』:邪魔するやつはポアしてでも観るぞ!の巻

 観たいよ観たいよ指数が針がふりきれるほどに充満していた『天與地(天と地)』。 あちらこちらでこの映画のせいで天幕がつぶれたと見聞きし、 この作品を挿入した華仔の「忘情水」のMTVはお耽美で心誘われ、 予告編の美しさに圧倒され、そのうえ、観る直前には賛否両論あったとトドメまでさされ、 あ〜禁断の映画がもうすぐ観られるよ〜お。もう一回トイレに行っておけばよかったなあ。 あ〜胃が痛いよ〜。心がつぶれそ〜。で、始まった映画。

 たとえ、家の子供たちから『人造人間ハカイダー』の方がおもしろいと冷たく言われた 『神鳥聖剣』みたいでも決して恨まないぞ!という強い決心のもとに、この日朝早くから 並んだのです。天幕のマークが出ただけでついつい盛り上がってしまいます。 期待してるんだけど期待しないように努めていた私の努力が報われたのかとっても 楽しめました。映画ってやっぱり期待しちゃだめってことでしょうか。 期待しなくて良かった(なんじゃそれは!)。急用で来れなかった夫に「残念でしたネ」 と笑える余裕がありました。「あ〜よかった。心配してたんだあ!」というのが ひとまずの感想です。

 香港映画らしく、また、よりいっそう体中が痛い。残忍で、そして美しい。 途中奥さんが死んだ場面でバックに「纒綿」が流れた時いつもよく聞いている曲だけに 現実に引き戻されましたが、それ以外は期待をうれしく裏切ってくれて本当によかった。 なぜこれで会社が潰れたのだろうという詮索などはいっさいいたしません。 観せていただけるだけで有難いことです。ずいぶん前日と態度の違う私。

 『天與地』は他の人が好きでなくても私は大好き。毎日観てもいいな、 たとえ主人公が華仔でなくても。ビデオになったらまた観よう。友達にも観せて、 まったくしかたのない人ネって言われよう。生きてて良かった。し・あ・わ・せ。 あんな悲惨な映画を観て幸福感に浸れる異常性格の私。華仔様の数々の映画のお陰で こんな体になりました。こんな自分がこわい!(笑)



9/25『雷洛伝・炎の青春(アンディ・ラウのリーロック)』:安心して観られて嬉しいぞの巻

 なにも言うことなし。ただ、黙って楽しむのみ。文句など言わない。 精神状態も万全、華仔も若い! みんなも若い! 映画祭さまありがとう。 一生ついていきます。



反省:皆様にあやまりますの巻

 劉徳華さま、あんなにあなたさまの映画を映画館で観たいと言っていましたのに 愛が屈折している私をお許しください。世界プレミアの栄に浴したことを光栄に思います。 この『烈火戦車』をあなたさまと同じ場所で、一緒に鑑賞できたことを一生忘れることはないでしょう。 この幸せに気づくのに時間がかかった私をお許しください。大画面で観られるなんて 本当に夢のようでした。諦めていた舞台挨拶まであって一月は 夢見心地でいられました。



 爾冬陞(イー・トンシン)監督さま、あなたさまが一年もかけて創られた作品を 観せていただいたにもかかわらず、私の勝手な思い込みによってENJOYの仕方を 間違ったことをお許しください。おバカ映画ばっかりじゃイヤだという私たちの声を お聞きくださったことに深く感謝しております。前半のツボにあわせてちゃんと アクビもしましたし後半のツボではちゃんと涙を流して泣きました。 ありがたいことです。次の作品も必ず観ますのでお許しください。



 香港映画FANの皆さま、どんな時も深〜い愛で我慢強く香港映画をもりたてて いかれることに敬服しています。私は修業が浅くマインドコントロールが浅いことを つくづく感じました。私はなんといっても辛抱が足りません。 屈折した愛をどこにぶつけたらよいのか、まだツボを押さえていません。 この気持ちを皆さんはどう昇華されているのでしょうか。修業をするぞ! 修業をするぞ!  あ〜あ、また長い時間、ただ祈るように待ち続ける日々を過ごすしかないのですね。



※ファンタは来年も華仔の作品を上映してくれる! 四年連続の華仔特集! 来年が待ち遠しい。願わくば平日の昼は止めてね。(宮崎)





突然訪問記
本物のアンディに会いに広島から…

山本

 この秋、5年ぶりに東京へ行きました。会社に気ィ使いつつ、漸く取った1日の休み故、 夜行で行って次の日帰るというほとんど日帰りの強行軍。 この夏死んでた私がそーゆーことを言い出した日にゃ、友人達もだけど何より自分が 一番驚いてしまいました。『狼』だ!ダニー・リーだ!それ〜とばかり東京へ、 發仔白昼の大宴会だ!行け〜と東京へ結構身軽に行った頃もあったけど、 万年疲労の最近、遠出はほとんどナシ。毎年、国際映画祭の香港電影の噂を聞いては 多いに羨ましがる私続行中だったのです。そんな私の今回の東京行き、 理由は勿論アンディ!嬉しかったのは、また自分にそういう、アンディが来る→会いたい!→後先考えずにGo! な行動力がしっかり残っていたこと。仕方ないけど情ないことに、ほとんどのことを 行けー!一つで決めていた○年前とは違う現実的な自分を少しイヤだなと思っていたので。 こうして私は台風で遅れた‘富士’を‘はやぶさ’に変更して東京に向かいました。

 曇天なのか小雨なのかハッキリしない天気。珍しく大して迷わずに オーチャードホールについた私は。既にずいぶん並んでいる人々を「流石東京」 と思いながら、色々な方にお会いしながら開場を待ったのでした。 それにしてもこの多彩な人々が皆アンディファンなのか!?「やっぱりスゴイゾ東京。」

 入場。並んでいる時も、「わぁーお久しぶり!元気?」とか「こっちは○人いる」 とか言い交わす声が聞こえていたけど、ファンの間にも様々なグループがあるらしく 席取りにも皆大胆!アッという間に椅子にはかばんが並びます。 でも何より私をボーっとさせたのは、皆さんの有名人来るに慣れてる動きと、 持ってるカメラの立派さ!ノンキに「写るんです望遠」片手に突っ立ってた私が ドドーッという民族大移動に遅れてついて行くと、「今アンディが手ェふってくれた! キャー」といかいう声。「お・遅い…」と悔しがるより、「皆スゴイゾ!」 と感心してしまうのでした。

 広島から来たのだからと、前の方の席を譲っていただいた私は、 しばし皆の手にする文明の利器に感心する原始人といった格好で、会場をうろつき… そしていよいよアンディの登場!

 イー・トンシン監督とプロデューサーのチャールズ・ヒョンが一緒でしたが、 当然視線はアンディに釘付け!初めて見る本物のアンディ。や…やっぱりカッコイイ!! 黒のスーツの胸元に紅が。ああっイヤでもアンディの美貌を引き立ててしまうっつ! と思わず大興奮!

 監督も一緒なので、アンディは少し気を使って 「監督がいるのに僕ばかり喋るわけにもいかないので」なんて言っていましたが、 まぁとにかくアンディはキラキラ・ピカピカ!後光がさして、 薔薇も星もトンでいるような、後で思い出してもホンの何分かだったけど、 夢のような時でした。(イー・トンシン監督は『野獣たちの掟』が凄く良かったし、 香港本で見掛けてたけど、銀幕時代風の男前でした。)



『烈火戦車』

 タイトルを聞いたときは、「おっ、またまたバクダン背負ったアンディか? かっこいい!」などと勝手な想像をしてしまいましたが…

 いきなり言うと、恋人役の女優のマレに見る大根さ! (杉本彩が眼鏡を掛けたみたいで可愛いのだが) アンディが演技してんだからキンチョーせずに甘えろよ!と激しく批判する私。 それにこの恋人、好きな男がスピードに憑かれて、 命のやり取りをするかのようなレースをすることが不安で不満なのは わからなくはないけど、速い男アンディに思い入れる私はすっかり感情入っており、 イライラしてしまう。わかれよオマエ、アンディは速いんだから、 それは背負った宿命であり勲章でもあるのだから、背負えよ共に! と心の中でわめき散らすのであった。

 私は大体バイクのレースを観るのも好きで、 平忠彦全盛期などは夢中で見てたクチナので、バイクー速いとなれば、 アンディは(汚れていない)英雄なのだ! 気分はアンディを慕うデヴィット・ウーと同じ。ラストのレースシーンなどは、 正にのめり込んで前傾姿勢で見てしまったのでした。

 アンディが自分にとって本当に大切なものを悟り、またそれを妙にわかった風に語る デヴィット・ウーはとても好感の持てるキャラクターであった。しかし恋人が心配、 だからいつも不機嫌で彼の友達にも今一歩打ち解けられない彼女の、 深みのない型どおりの演技のためにアンディの決心が生きてこない。なんで好きなの! こんなわからずや女!アンディが九死に一生のケガをしたときに、 急にボロボロ泣くのもいやだった。

 文句の雨アラレですね、ごめんなさい。

 少し冷静になりますと、この映画はちょっと変わった視点を持った映画だと思います。 ヒーローが困難に打ち勝ち、恋人は心配に健気に耐え、最後ヒーローは勝負に勝ち、 恋人と結ばれるというようなよくあるストーリーに少々ヒネリをキかせてあります。 アンディに最後に勝たせない役を演らせたところが、ちょっと新鮮なのですね。 死にもせず、勝ちもせず、ただ恋人だけを手に入れるアンディも幸せでいいのですが、 やっぱりラストのレースで激烈に散るとか、華々しく勝利するアンディのシーンが 何処かにインプットされている自分に気付いたりもしたのでした。 細かいところではアンディの髪が短い(もうちょっと長い方が好き)。 バーのマスター役はチョイ・ガムコン!それからアンディの父親役はイイ味出しきれず… でも監督の兄ですよね、など何か監督のまじめさの反映しているような映画でした。

 こうして念願の本物のアンディにも会え、一足早く『烈火戦車』を観て、 シネジャの方にもお会いして、帰りには佐藤さんにシネシティ香港に 連れていっていただきました。のぼせてボーッとしたままの頭でポストカードなどを購入し、 『恋する惑星』のパンフまで我慢できずに買ってしまい (前日から広島公開中だというのに)アンディボケのまま、帰りはゴーカにのぞみだ! と叫びつつ、ビールに弁当を持ちこんで、大食いかつ夢見心地な帰途につきました。


(P.S.)この1週間後の日曜日、うちの映画館に(山本さんは映画館にお勤めです。)突然、 赤井英和様が「ダイハード3」を観にいらっしゃいました。ジーンズにセッタだし、 気負いもないし、結局従業員がひそかに騒いだのみ。プライベートなんだからとか、 何も言われないのも寂しいんじゃ?とか言った揚げ句、結局ざわざわと赤井さんを 送ってしまいました。これにもかなり興奮して、友達にアンディ話も合わせて喋っていたら、 彼女に言われた。「うーん、激動の2週間じゃったねー。」おしまい。




(編集部より)
 映画祭の後、CLUB香港仔の催しにアンディがやってきたことは皆さんご存知かと 思いますが「私も年です。」とか「今まで映画では賞を取っていないので、 皆さん応援してください。」と彼は言いました。今年アンディが香港に作った 「アンディ・ラウ記念館」には、映画祭のトロフィーを置くスペースが リザーブされています。すごいユーモアがあるなぁと思うんですけど、 このままではだんだんジョークにならなくなってしまいそうです。 今年公開された『大冒険家』と『烈火戦車』はファンとしても手放しで 「いい映画だね。」とは言えないと思うのですが、どう思われましたか?

 私はアンディの歌も映画もみんな大好きです。だからこそ、どの分野でも ナンバー1でいて欲しいと思います。今のアンディはとにかく忙しすぎるんでしょう。 もっと仕事を減らして、いいものだけに集中すれば映画も、 CDもヒットするのになぁなんて思います。

 アンディはアイドルを脱して‘実力派’俳優、アーティストになりたいんだと 思うんです。だから最近は派手な衣装も着ず、眼鏡を掛け、MTVも白黒のシンプルな ものにしているんでしょう。そして今年の2本の作品はどちらも、最後に人が死んだり、 勝負に勝ったり負けたりすることなしに終わります。 きっと彼はエンターテイメント性よりも、人の心のひだに触れるような映画を 作りたいんでしょう。でもそれは常にエンターテイメント性を求めている香港映画では 受け入れられにくいし、しかも心の動きを表現しようにも、脚本、編集といった その前提でコケちゃってるから、ますます賞が遠のいちゃうんだろうなぁと思います。

 どなたかアンディのために最高の脚本を書き、監督し、編集してあげてくれないかしら。 映画ファンとして、あの才能が生殺しになっているのは残念極まりないのです。

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