1991年カンヌ国際映画祭批評家連盟賞(FIPRESCI Prize) リフ・ラフイギリスの建築現場の労働者群像R. 佐藤 『眺めのいい部屋』 『アナザー・カントリー』 『モーリス』 『炎のランナー』 そして最近では 『ハワーズ・エンド』、 出てくる男はビシッとしたスーツを着こなした英国青年。 貴族もしくは上流階級出身。今まで輸入された英国映画の主流はこんなのが多かった。 イギリスにだって労働者はいるんだろうし、失業者が多いと聞くのに… と思っていたところ、建築現場の労働者を描いた映画が輪入されたという情報が入った。 監督はBBCTV出身のケン・ローチ。 タイトルのリフ・ラフは最下層の人々という意味だそうだ。 痩せぎすの主人公の青年は、刑務所から出所したばかり。 ロンドンにでてきて路上に寝ていたが、病院のビルの改築現場の職にありついた。 ここに集まった労働者は日雇いで組織労働者のようなきちんとした労働者意識をもたず、 家族のあるものも少ない。日本でいえば山谷の労働者に似ている。 だから、彼らを使う現場監督やその上司たちは、彼らを人間扱いしない。 若造が年長労働者に横柄な言葉使いをしたりする。 随所で現場監督たちはこの労働者に対してクズだ、たいした仕事ができん、 すぐ怠けるというようなことをいう。 アフリカに行って住みたいという黒人労働者もいれば、 ちょっとした盗みなんて日常茶飯事という男もいる。 未組織労働者のオルガナイザーのような中年男(リッキー・トムソン) はその中で一番心に残る労働者像を演じている。 みんながバカにして真面目に聞こうとしないのに、住宅政策の不備を述べたり、 サッチャーなんかに俺は一度も投票したことはないなどと説き、 事故だといっては捨てられる労働者の身分の不安定さの解消のため、 産別労組(たぷんそういうの)に入るべきだと言う。 主人公の青年はこの中年男の紹介で閉鎖しているビルに不法侵入して住み込んでしまう。 住宅が不足しているのだからこういうこともせざるをえないという説明にも 妙に納得してしまう。なんらかの抗争で使っていない大きな家やビルをみるたび、 家のない人に一時的に開放したらいいのにと思うことが私にもあるから。 この青年に恋人ができる。ベジタリアンの売れない歌手。 仲間で酒場に行き彼女の歌を聞いている時、彼女が歌をとちって 観客から返れコールをあびる。その時、彼女を支援してやろうと言うのもこの中年男だ。 だけど、この中年男、仲間のために上司にたてついて結局首になってしまう。 と、どうなるか。俺はお節介なとこがあるんだとか言って未練がましくなく、 去っていってしまう。色々仲間同士で助け合ってきたのに、 青年をはじめとする労働者たちはどうすることもできないし、しない。 特別気負った人間を描くこともしないし、清く正しい人間が登場するわけでもない。 そこらにいる労働者群像を軽蔑もせずさりとて美化もせずありのままに描いているというなんか不思議な映画だった。 |