女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
27号   pp. 23 -- 27

1993
TOKYO INTERNATIONAL
FILM FESTIVAL
September 24 -- October 3, 1993
第6回東京国際映画祭
第一弾

 今年もスタッフが仕事の合間を縫ってこの映画祭に出掛けた。開場を待つ長蛇の列に 交じって、出品作品の全体的レベルはともかくとして、この映画祭もこんなに活気が あったのかと驚くばかり。

 前評判の高い作品を網羅出来なかったは口惜しかったが、全体的に中国・香港・台湾の 作品の出品作が各部門に出品され、その質の高さやエンタテイメント性の高さを 再確認できたというのが、スタッフの大方の意見だ。

 各々の感想は次号にも掲載します。

 受賞状況は以下の通り。

インターナショナル・コンペティション部門 東京グランプリ
青い凧』(田壮壮監督)
最優秀監督賞
テイラー・ハックフォード(『ブラッド・イン・ブラッド・アウト』)
最優秀脚本賞
ピョートル・トドロフスキー(『アンコール・ワンスモア・アンコール』)
審査員特別賞
ボビー・フィッシャーを探して』(スティーブン・ザイリアン監督)
最優秀芸術貢献賞
マニエル・デ・オリベイラ(『アブラハム渓谷』)
ビンセント・ウォード(『心の地図』)
最優秀女優賞
呂麗萍(『青い凧』)
ロリータ・ダビドビッチ(『ヤンガー・アンド・ヤンガー』)
最優秀男優賞
本木雅弘(『ラストソング』)
ヤングシネマ部門ゴールド賞
北京好日』(寧瀛監督)
ヤングシネマブロンズ賞
青春神話』(蔡明亮監督)
オリンピック・サマー』(ゴルディアン・マウグ監督)
どうして、なぜ?』(アルト・パラガミアン監督)


青い凧と北京好日がグランプリを受賞

宮崎 暁美

 インターナショナル部門では田壮壮(ティエン・チュアンチュアン)監督の『青い凧』、 ヤング部門では寧瀛監督(ニン・イン)監督の『北京好日』、共に中国の映画が グランプリを受賞した。今回の映画祭では日本の枠で出品された『青い凧』と、 香港枠で出品された『北京バスターズ』が中国当局の許可を得ないで製作されたとして 中国の代表団がこの二作品の上映に抗議して、途中で引き揚げてしまった。 そんな中でのグランプリ受賞である。

 私はインターナショナル部門では『青い凧』しか見ていないし、ヤング部門も 『北京好日』と台湾の『青春神話』しか見ていないので、比較することができないけれど、 私にとってもグランプリを受賞した二作品はどうしても見たいという思い入れがあった 作品。そして二作品はその期待を裏切らなかった。二作品のテーマは違うけど、どちらの 作品にも共通していたのは北京の街の人情がにじみ出ていて、味わい深かったことである。

 しかし『青い凧』のグランプリ受賞は、やっぱり主催者の思惑を感じる。撮影が 終了し、編集段階で感性を禁じられたこの作品は、友人たちの協力で東京で 完成を見たという。監督自身は出国出来ず完成には立ち会えなかったという。 そんな経緯のある作品なので、主催者側はやはりグランプリを与えたかっただろうし、 中国側はそれを認めてはメンツが立たない、ということなのだろう。 この作品のグランプリを喜びたいけど、もしかして田壮壮監督の中国での立場がよけい、 微妙なものにならないかと心配である。

 『青い凧』は反右派闘争、文化大革命など、時代に翻弄され、けっきょく三人の夫と 結婚することになった女性が主人公の物語。ひとりの女性を通して中国の現代史を たどったともいえる。これを見て、この映画の原点は田壮壮監督が学生時代に作った 『小院』(撮影張芸謀)にありと思った。この映画も舞台は北京の四合院(日本で いえば東京下町の人情が残る長屋という感じ)で、結婚した女性と夫との葛藤を描いていた。 『鼓書芸人』にも通ずるものがある。

 『青い凧』の脚本は肖矛(シャオ・マオ)。日本で上映された作品は『女人故事』 『ファイブ・ガールズ・エンド・ア・ロープ』『血祭りの朝』など意欲作ばかり。 私は彼女にとても期待している。

 主人公を演じたのは呂麗萍(ロー・リーピン)。『古井戸』では張芸謀演じる主人公と 結婚することになった未亡人の役を演じていた。また彼女のほんとうの夫で『覇王別姫』 では張国栄の相手役をやった張豊穀(チャン・フォンイー)も一場面出ていた。

 『北京好日』は定年退職した老人たちが京劇のサークルを作る騒動?を巡り、 仕切りたがりの主人公と他の人たちとのぶつかりあいの中にバイタリティ溢れる老人たちを 描いていた。でも騒々しさの中に老人たちの淋しさも漂わせていた。

 主人公を演じていた黄宗洛(ホァン・ゾンルオ)は、胡 (フー・メイ)監督の『戦争を遠く離れて』でも老人の心の揺れ動きを絶妙に出していた。 不器用な老人を演ずるのが上手い俳優だなと思った。

 監督の寧瀛は七八年北京電影学院入学の第五世代の女性監督。中国には女性監督が たくさんいるけど、録音科出身で監督になった人は彼女くらいではないだろうか?  日本で上映されたことのある第五世代の女性監督は、胡、 『女人故事』の彭小蓮(ポン・シャオリエン)、『血祭りの朝』の李少紅 (リー・シャオホン)など。『青い凧』『北京好日』の感想など、この続きは 次号で。





第6回東京国際映画祭

出海

今年もやってきた東京国際映画祭。映画ファンとしては、一度に世界の気になる映画を どどっと見ることが出来て嬉しい。

 私の見たのを記すと、21歳、双子のブラックの兄弟アレン&アルバート・ヒューズが 監督し話題となった『ポケットいっぱいの涙』、イタリアの誘拐事件で家族の皆殺しを 目撃して追われる少年を主人公にした『小さな追跡者』、東宝のお家芸 『ゴジラVSメカゴジラ』、『バグダッドカフェ』、 パーシー・アドロン監督の『ヤンガー・アンド・ヤンガー』、 台・中のユー・ウエイイェン監督『月光少年』、 もちろんモックンだけがお目当てで見た『ラスト・ソング』、 『ディスイズマイライフ』で好調、大好きな女性監督ノーラ・エフロンの『めぐり逢えたら』、 はちゃめちゃお腹がよじれそうになった香港のジェフ・ラウ監督『黒薔薇VS黒薔薇』、 『黄色い大地』のチェン・カイコー監督、レスリー・チャン主演『さらばわが愛〜覇王別姫〜』。 このうち劇場で見たのは『ラストソング』以下のもの。あとは試写会とプレス試写を 利用させていただいた。とにかく、仕事の合間に渋谷に走るわけでくたくた。 『ボビーフィッシャーを探して』『ワンス・アポン・ア・タイム/獅王争覇』 『青い凧』『北京好日』は、ほかのスタッフが見るというので後にした。 『アビス』『ダンス・ウィズ・ウルブス』のディレクターカットは昨年の 『ブレードランナー』同様、人気が高くチケットを手に入れるのが大変。 またアジア映画は発売日にソールドアウトがいくつか出た。この中からいくつか ピックアップしてみよう。


ぜったいお薦め『めぐり逢えたら

 妻を亡くした建築家・サムは一年過ぎても立ち直れない。 心配した8才の息子が深夜のラジオ番組『眠れぬ夜の君に』に電話をかけ、 父にいい女性を紹介してほしいと精神科医に相談する。 医者に促されて電話口にでたサムは「シアトルの不眠症男」として女性たちの涙を絞り、 何千通もの手紙やプレゼントがラジオ局に届く。新聞記者のキャリア・アニーも カーラジオで偶然これを聞く。「この手の話はウンザリだわ」と思いつつ 引き込まれるアニー。彼女は申し分ない男と婚約したばかり。幸せ最高なのに 何かしっくりこない。結婚って何?運命的な男女の出会いってあるの? アニーは自分でもおかしいと思いながら、仕事の特権を利用して「不眠男」 のプロフィールを調べ、とうとう会いにいくが…。

 劇場は笑いの渦。とにかくおもしろい。女が、いかに一途な愛に憧れているか。 一途な愛に生きる男はひっぱりだこ。人気抜群。女の涙についての会話も笑える。 どんな映画で泣くか男女がパーティで会話する。女はケーリー・グラント、 デボラ・カーの心もとろける恋愛映画。男は戦争物。敵をバンとやってグッときたぜと 涙ぐむ男たち。日常の中の男女の違いをなるほどとユーモアの中に描き、 ロマンチックな楽しいストーリー、美しい映像、スタンダード・ナンバーの 心地よい音楽を有効に使って、心暖かい映画に仕上げている。 終わったら劇場内に大きな拍手が上った。まるでファンタスティックの会場にいるみたいに お客様が乗っている。とにかく文句なしにおもしろい、女性必見、 エンターテイメント映画でした。


笑いのパワー、もう圧倒されっぱなしの 『黒薔薇VS黒薔薇

 92年香港で公開され、香港史上初の175日間のロングランとなったコメディ。 偶然殺人事件を目撃し、追われる身となった女性と、彼女を慕う刑事、 伝説の盗賊黒薔薇の弟子たちの活劇。まず目をみはるのが立ち回り。 ストリートファイター風でスッゴクおもしろい。あくが強くてついていけないなんて意見も あるかも知れないが、わたしはあの展開の早さは好き。めちゃめちゃぶりも好き。 もう、会場内は香港映画ファンの女性や、香港の人たち、それに若いアベックとか、 すごい盛り上がり。立ち見もいた。ギャグのたびに笑いがドッとおこる。 笑いの山が終わってもまだ止まらなくてくっくっと取り残された人の声に、 また会場は笑う。全編が往年の広東映画のパロディともいえる作品らしいが、 わたしのように香港映画に詳しくなくても役者がスゴイ達者なので飽きない。 とくに黒薔薇の女弟子が、鈴がなるとカンフーを始めるのには笑った。 それから二枚目、刑事役のレオン・カーファイのおかしさ! これもラストの クレジットタイトルになるとものすごい拍手が上がった。


中年男のセンチメンタリズムにウンザリ『ラストソング

 モックンとロック音楽映画というので、時間の重なる『男ともだち』をすててこちらを見た。 なのに、もう最初の無国籍風ライブハウスの長ーいシーンからウンザリ!  次第に腹が立ってきました。入り口にズラリと並んだフジサンケイグループののぼりを 立てた人々にではない。もちろんモックンにでもない。ピントはずれの感覚で 中年おじさんのノスタルジーを今の子供の世代との共通の思い出とかなんとか 理屈をつけて押し付けてくる良心的なテレビドラマ、および叙情的な映画をとると 定評の高い監督にたいして。たくさんのお金をかけ、百人以上のスタッフで (本人が記者会見でおっしゃっていた)、ステキな役者を使って、期待させておいて! 『北の国から』『並木家の人々』をつくっていればいいのに! こういう素材は 同世代の若くてなんとか一本映画を演出したくてのたうちまわっているハングリーな 監督に振れば良いのに! 見てる間中、胃の端が痙攣するような感覚で苦しかった。 ズレだろう。説明しがたい現実と映画のずれ。組織で守られて、情報で現実を掴むような 生活を送る人のすごいリアルタイムとのズレ。子供との共通の会話を映画でもとうと 発想した企画だそうだが(記者会見でいっていた)これでは子供に陰で嘲笑されるだけ。 それがわからないオジサンなんだから。暗くて長くて台詞がしつこい。 つまらない点の箇条書き。

○なぜあの監督がロック映画をの危惧が的中。この種の映画によくある どこかでみたような映像の連続。歌うシーン、ドサまわりの旅のシーンは特に。

○ラストのステージで歌うのはモックン、故郷へかえるのは吉岡君。誰がみたって それが妥当。首を切られて故郷にかえるモックンがピアスなら、 大スターへの道をのぼる吉岡君は、工場のアンチャンではいけない。 鼻輪くらいつけなくちゃ。比較ってものがある。もう大前提をはずしちゃってるんだから!

○長すぎるファーストシーンの極めつけは革のブーツ、革帽子、革ズボンの スナフキン吉岡の登場。なーにこのもったいぶった衣装は! わたしも笑ったが、 後ろの席の外人女性ふたりもクスクス笑いっぱなし。これは悪夢だ。続いて 叫び合う会話。胸の片隅がこそばゆい。都会風のモックンが九州のヒステリック男を 重々しく演じれば演じるほど白けて来る。

○電話ボックスの中の唐突なキスシーン、ああされると女は男にコロリといくとでも 思っているふしがある。モックンのアパートでの強姦まがいのセックスシーンで うしろの外人女性がブーイング。わたしだって怒った。あの安田成美のふがいなさ。 でも最後までどうしてモックンと成美さんが好き同士になったかわからなかった。

○しつこいぞ!『いつか浜辺で〜』

○しつこいと言えば、フンドシ男の群がるお祭りシーン。ずいぶん出て来ましたね。

○しつこいと言えば、何度もいう冒頭のライブハウス、ギターをやっていた仲間が 東京へ行くモックンたちを駅に見送りにきたシーン、ラストの盛り上がりも華やかさもない 野外音楽シーン、みーんなしつこいぞ!

○なんでも台詞でかたをつけるな。連続テレビドラマじゃない。

○意味ありげで、キャリア風女性、世間を知った大人の女、倍賞美津子のよくある使われ方。

外人女性ふたりは途中で席をたってしまった。


それでも国際映画祭は楽しい

 読み返すとわたしって『ラストソング』についてすごいこと平気で書いているみたい。 日の当たらないところで同じ映像の仕事をしている者の半ば近親憎悪かも…… でもね、本当に楽しい、ステキな映画をつくれる環境にいるのだから、 もう少し喜ばしてよ。『青春デンデケデケデケ』と比較してはいけないかな。 ああいう楽しいのを期待していたのに。くらーいノスタルジーでは、今を語れない、 と思うのですが。

 でも、映画祭ってやっぱり好き。渋谷で感じたアジア映画のパワーは刺激的。 舞台挨拶のレスリー・チャンはすごく格好よかった。フラッシュと花束。 テレビづけのわたしとしましては、生で味わう目の前の光景にしばし興奮。 そう言えば、こういうことって生活に追われて忘れていた気持ち。 スタッフを誘って、絶対香港、中国へ映画旅行するぞ! それから、記者会見場で見た モックンもやっぱりステキ! 背筋がピンとのびて、身のこなしが良い。スターだな。 町のお兄ちゃんと映画スターの差は何だろうと、くいいるようにモックンをみてしまった。 全然気が付いてくれなかったけど。開場前の長蛇の列もすごかった。 『めぐり逢えたら』は向いの歩道まで列が伸び、わたしもその中にいたのだけれど、 整理の背広姿の職員は様子を見に来たおまわりさんに「困るよ、みんな迷惑してるよ」 と注意され、トランスシーバーで「こちらヤバイ状況です。早く入れないと本当に ヤバイっすよ」だって。いろいろ問題もあるみたいだけれど、映画ファンとしては 続けてほしいのです。

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