女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
18号 (1991.04)  pp. 24 -- 25
試写室

『マッチエ場の少女』

1990年/フィンランド/70分
製作●クラウス・ヘイデマン、ヤーコ・タラスキヴィ
監督・脚本・編集●アキ・カウリスマキ
撮影●テイモ・サルミネン
出演●カティ・オウティネン
製作会社●ヴィレアルファ・フィルムプロダクション
配給●(株)アルシネテラン


物語

●主入公のイリスはマッチエ場で働くごく平凡な女である。 なまけ者の両親と一緒に住んで、少ない月給はほとんど家賃に消える。 それなのにある日、高価なドレスを衝動買いしてしまう。 人並みのロマンスを単に求めたに過ぎなかっただけなのに、両親はそれを許さず、ののしる。 しかし、彼女は反対を押し切ってディスコヘいく。 運よく、一流企業で働くアールネに誘われ、豪奢な一夜を過ごす。 所詮遊びだった一夜もイリスには忘れられない一夜となり、彼女は深く傷つく。 凶事は重なるもので、その一夜で彼女は妊娠する。 当然、アールネは始末しろという。 心の傷はさらに深くなり、放心のうちに彼女は交通事故に遭う。 体の傷が癒えると、イリスは復讐を決意する。 まず、アールネに。そして両親に…。


●アキ・カウリスマキの映像には不思議な間がある。 人がなにかを演ずる時一番難しいのは間だといった人がいた。 彼の間は、心地よく、悲しいのにほほ笑みを誘う間だ。 『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』 で大の男たちがそろいもそろって小さな器械を前に生真面目にクルミを延々と割るシーンがある。 観客はそのすっとぼけたシーンを笑っていいのか、 普通の顔して観ていていいのか宙に浮いた気分にさせられる。

そして、真面目なのか不真面目なのかわからない。 『パラダイスの夕暮れ』を観た友人はいっていた。 「彼はきっと生真面目な人なんだと思う。夜のシーンは本当に真っ暗なんだもの。 観客まで真っ暗。普通は夜という設定でもちょっとは光があるじゃない、それがまったくないの」

彼は稀有な映画監督だけれど、瓢々として映画を愛している。 独学で映画を学び、多くの映画を観て、多くの書物に接して映画人になった。 そして、絶大なる映画狂らしい。 兄のミカと製作会社と映画館をもっていて、映画祭も開催する人である。 たしかに自分で公言するようにペシミストかもしれないが、その実、 映画に精力的に取り組む元気なひとなのかもしれない。 作品のようにアイロニーのきいた言葉で相手を戸惑わすこともする。

それにしても、彼が一番気に入っている 『ハムレット、ビジネスをやる』(87) というだいたいストーリーが読める面白そうな映画を是非観てみたいものである。 この映画のカティ〜がオフェリア役らしい。


『マッチエ場の少女』は 『パラダイスの夕暮れ』(86/東京国際映画祭87に出品) 『真夜中の虹』(89/90年日本公開、モスクワ国際映画祭で批評家連盟賞と最優秀男優賞を受貰) に続く彼の「激情三部作」というそうだ。 人並みの幸せを求めても得られぬ人達が登場する。 とはいうもの肩に力のはいった社会派でもなく、 『罪と罰』を描いても不思議と宗教的なところがないらしい。 福音協会賞とカトリック教皇庁賞を受けたこの作品でも同じことがいえる。

主演のカティ・オゥティネンはアキ・カウリスマキの作品に4本出演している実力派の女優。 この作品には出演していないが、 『真夜中の虹』と『レニングラード・カーボーイズ・ゴー・アメリカ』 に出ているマッティテ・パロンパーは彼の作品に優に5本出演している、 フィンランドではお馴染みの芸能人だそうだ。 ちなみにふたりとも『パラダイスの夕暮れ』にも出演している。

現在公開中の『コンタクト・キラー』 は監督が好きなヌーヴェル・バーグのなかでも大好きなジャン=ピエール・レオが主演。 ここでは彼のブラック・ユーモアが炸裂している。(初の本格海外での作品)



90年ベルリン国際映画祭国際プロテスタント賞
カトリック協会OCIC賞受賞
90年ニューヨーク・フィルム・フェステイバル正式招待上映作品

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