広島の女性の“映画を本当に愛してほしい”という言葉 は映画館を本当に愛していきたい、 全ての映画ファンの願いだと思います。この〈映画館百景〉では、 そんな映画愛にみちた映画館を訪ね歩いてみたいと思います。 第一回は、知る人ぞ知る名画座最後の砦?大井武蔵野館の小野善太郎さんにお話を伺いました。 |
小野 「僕なんかは、名画座育ちですね。名画座の一番のポイントはまず安いってこと、 必ずしも名画がかかっていた訳じゃないけど、とにかく安いってこと。 それが今やロードショウだと一六〇〇円、 うちあたりでも一二〇〇円、昔だとロードショウの三分の一から五分の一の料金ですから、 そういう意味では、今は名画座はないんじゃないかって思います。 一昔前の名画座っていうのは、今はビデオ屋さんがとって替わっちゃった。 名画座とは何かっていうのが、まずありますね。 名画座ってなんだと思いますか?」
小野 「ある程度古い ? 一度世に出た作品を独自の視点でプログラムし、 上映してるっていうことだと、まさしくうちは名画座だと思っています。 そういう方針が、伝わってくれるといいですね。」
小野 「(僕が)ここへ来て五年になります。 オープンしてからは、十年位ですが、まだ名画座が生きていた頃です。 最初はこの建物の上と下に二館あって、上の館では日本映画の新しめのを、 下の方は洋画をやっていた。 最初のうちはよかったけれど、そのうちビデオがでてきた。 それでまあ、生き残るためにいろいろやってかなくちゃいけない、 (日本映画の)新作がだめなら、ある程度古いのをという訳で ー僕がくる前ですけどー 新作の間にイベント的に今のようなプログラムをやっていた。 当初はやはり小津とか黒沢とかをやってました。 僕が来たときは更にビデオの普及が進んでいて、苦しいときでね。 それならいっそ、時々やるのではなくて、一館は全部それ(古い日本映画)でいきましょうとね。 僕は、日本映画好きですしね。日本映画の古いのってガイドがないんですよ。 それで最初は、入門篇みたいな、それこそ黒沢とか小津とかをやってましたが、 結局それだといつも同じ映画になってしまう。 ここでかけているのは昭和三〇年代のが多いですが、いろいろな企画をして見てみると、 日本映画の古いのって、結構素晴らしいのがある。 日本映画に対する今の若い人のイメージってあると思いますが、つまりあまり優れたのが、 ないっていう。それは見るチャンスがないからなので。 今見直すとスゴイ映画がいっぱいある、まあスゴクないのもいっぱいあるけど(笑)。 埋もれていたわけですよ。 そういうのをやっていきたい。そういうのを見に来る人は、きっといると思った。 そうして、お客さんを絞り込んだ、一館の方が結果的に生き残ったわけです。 (*編集部注1) ここまでやったから更に知られていない方をやって行きたい。 変な映画も含めておもしろい映画、あっと驚く映画がいっぱいある。 だからなるべく“なるべく”埋もれた方に目を向けたい。」
小野 「一番最初は、小学生の頃の『ゴジラ』とかですね。そのあとやっぱり外国映画、 アメリカ映画ね。(『俺達に明日はない』以降の)ニューシネマの時代です。 すごく面白くてこれこそ、自分のためにつくられた映画だと思ったんですけど、それでも、 やっぱり外国人のつくった映画っていうか、何かもうちょっと迫ってこなかった。 (育ったのは)そこそこの田舎で、映画館は十館位あった。 新しいの全部見ちゃうと残っているのって、東映のやくざ映画か、日活のポルノでしょ。 一応見てみたら、そしたらやくざ映画でも、 <実録もの>といわれる作品に、かなりピンとくるものがあった。 健さんの<仁侠もの>じゃなくて『仁義なき戦い』以降の文太のものですね。 不思議と、外国映画じゃあまりのめり込まなかったのが、かなりのめり込んだ。 日本映画みてなかったらこういう商売についてなかったと思うから、 今の若い人にももっと日本映画を見てもらいたいですね。 日本映画の古いの見るのって、かなり別世界のものをみるような、 誰もごく普通に解ってないっていう気がしませんか。 古い映画を「古い」ですませちゃうような。 昔があるから、今がある。 阪妻、アラカンがいて、戦前のチャンバラ映画があって、そこからずっと繋がっていて、 今に至るっていうのが普通でしょ、小説だってなんだって同じでしょ。 日本映画にはそういう流れがないんですよね。 まあ、そういうの自分の仕事とからめていうと、やはり見せてく側の責任というか、 (必ずしもそればっかりじゃないけど)うちで見せていけるところは、ちゃんとやっていきたい。 あとは見てもらうだけですけど、それがなかなか・・・。 最近アジア映画に人気があるけれど、多分うちでよくやる、昭和二〇年、 昭和三〇年代の日本映画の活気って、今のアジアに似てたと思うね、パワフルでね。 そうした、量的にも質的にも豊かだった時代の伝統が、断ち切れちゃっている。 今見られている古い日本映画って、黒沢、小津とか、海外でまず評価されたような、 逆輸入みたいな形のものが多くて、それが残念だね。 僕が目指してるのは、日本人による日本人のための日本映画っていうか。 日本映画がすばらしかった、いいも悪いも含めた、 トータルとしての日本映画の豊かだった時代の映画をどんどん提供していきたい。 とにかく見れないことには話にならない。 やはり、日本にすばらしい映画があってほしい。 一本でも多くみてもらえて少しでも力になれれば、という期待もあるんです。 ただ、昔話するために古い映画をやってる訳ではない、ということをわかって見てもらいたいです。 随分、(大井の姿勢というものは)浸透してきたと思いますが、まだまだ足りないと思います。 特に、若い女の人はね。 なかなか来てくれるようにならない。うちでは女の人が一人で来ても安心してみてもらえると思う。 わかっている人には、かえって喜んでもらってます。 過去、女の人が多く来てくれた企画が、これでいうと優になる (*注2)。 女の人が今の二倍来てくれれば(一人のところが二人になっても二倍ですからね)。 世の中の半分は女の人なのに、一割しかこっちに来てくれないのは、ハンディですよ。 鈴木清順とか岡本喜八は、女の人がまだ目立つほうです。 ここは場所としては貴重だから、なんとか続けていきたい。僕もサラリーマンですから (*注3)、 お客さんこないとダメになっちゃう可能性もある。 今もう一歩なのね、ほんとうに。 そこで、女の人がみたい企画ってどんなあたりでしょうね。 それを教えていただくと大丈夫ですね。 お客さんも、只見るのじゃなくて、一緒に考えていきましょうということです。 今、日本映画はいろいろ問題あってね、見るほうにも問題ありますよ。 せっかく日本人に生まれたのだから、自分の肌で感じることのできる日本映画にもっと目を向けて、 日本映画を良くしていこうという、志をもってほしいですね。」
小野 「六月の命日にあわせて、美空ひばりで、七月は松竹の新作『クライシス2050』。 うちらしい企画は、その後、八月半ば位からです。 今まだ、未定なんですけど、『映画宝島』って、うちの視点とおなじように日本映画の古くて、 有名じゃないけどかなりオモシロイ作品を集めた雑誌がでる。 それに合わせて、『映画宝島映画祭』というのを、口約束してます。 それから九月ごろから年末まで時代劇を大々的にやっていきます。 日本映画の日本映画たるところは時代劇にあると思う。内容は、とりあえず全部時代劇です。 『鴛鴦歌合戦』まだみてない?! それは幸福ですよ。これから見る楽しみがあるんだから。」
★★★(インタビュー岩野・大牟礼)
Web版入力者注:大井武蔵野館は1999年1月末、閉館しました。 ▼入門!!大井武蔵野館他では見られない!これまで大井武蔵野館で企画された、オモシロ日本映画の一部をご紹介!!!
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