2011年 2月5日(土) 渋谷ユーロスペースにて
あなたも急に気がつくかもしれません。
忘れている何かを、さがさなくちゃいけないってことを。
この映画は、愛をみつけることを怖れているあなたのための処方箋。
つながりたいけどつながれない、現代の関係性をテーマに一尾直樹監督が描く長編第二作。
両親と実家で暮し、ピアノを教えているだけのアイ(尾野真千子)。妻子と別れ新しい恋人と暮らす会社員のユウ(郭智博)。母親と恋人を他人事のように眺めている女子高生のケイ(菊里ひかり→現 桜井ひかり)。「こんなことをしたいんじゃない」。「ほんとうは違う」。思いと裏腹な現実が充満しはじめた心に天空から"それ"が飛来した。内面生活は現実社会から乖離し、現実を呑みこむ。行き場のない思いが世界に充満し周囲を変えていく…。
襟川:初日を迎えましたが、この映画の取材に奮闘している尾野真千子さん、どのように伝えていただけますか。
尾野:脚本を読んだ時に一度では理解できませんでした。できあがってはじめに観させてもらった時、郭君と一緒に観たんですが、帰り話し合った時に「いゃあー」ってこうため息というか、これを観てもらう人に、どのように伝えなきゃいけないのかな?」と話し合いました。いつもなら映画を観てワクワクして楽しかったねっていう感じなんですが、今回ばっかりはどうしよう。どう伝えればいいのかなって相談しました。
襟川:その結果、初日を迎えました。どのように伝えてくださいますか。
尾野:そうですね。私の見方では、幼い頃に体験したことや、思ったことが心の中でウズウズしている感じの映画なんです。幼い頃、こんなこと思ったかもしれない。今いる自分がほんとはいないのかもしれないとか、そういうちょっと不思議な気持にさせてくれる映画だと思っています。
襟川:ん~ん。皆さん、ヒントその1、使わせていただきました。それでは郭さん、この役を演じるにあたって、ご自身の実際のリアルな部分とかを演じる役と重ね合わせたり、あるいは役を作ったりということで挑まれたのですか?
郭:僕は役作りはしないんです。自分ではそんなことないと思っているのですが、人にはよく孤独っぽいねって言われるんです。そういうところはリンクするんじゃないかなと思います。
襟川:この映画で観る限りなんですが、意外とダメっていう感じの男子に映るんですが、そのあたりはもちろん作っていらっしゃるんですよね。
郭:実生活でも結構ダメです。(会場爆笑)
襟川:そんなにいっぱいあるんですか? ひとつくらい教えてください。
郭:いえ、普通にダメです。(笑)
襟川:尾野さんから見て、どんな部分がダメでした?
尾野:いや、カッコいいですよ。ダメと言われるのですが、手品ができて現場を盛り上げてくれる素質があります。それで私たちを盛り上げて、陰に入る気持を明るくしてくれたのが郭君でした。
襟川:全然ダメじゃないですか。自分でダメっていう人は違うんですね、実は。
郭:でもほんとにダメなんです(会場爆笑)。
襟川:大丈夫ですから。ありがとうございました。
それでは、とてもとてもお若いひかりちゃんお願いします。今、17歳です。大人たちの中で仕事するというのはどんな気持でしたか?
桜井:まわりはうまい方たちばかりなので、自分がちゃんとついていけるか不安だったんですけど、間の取り方とか、ほんとにいろいろな共演者の方に助けていただきました。私も共演者の方の間に合わせて安心してできたので、すごく楽しかったです。
襟川:桜井さんの演じられたケイというキャラクターですが、彼女はどんな女の子なんですか?
桜井:ケイは周りに起きている出来事というのを客観的に見ている。先生とか家族との関係を、全部自分なりに受け止めて生きている女子高生なんじゃないかなと思っています。
襟川:ご自身との共通点はどこかありますか?
桜井:私はけっこう自分のことで手一杯なことが多いので、客観的に見るという面では、自分とは違う性格なのかなと思うところがあるんですが、私自身も時々、自分はなんでここにいるんだろうかとか、以前は何だったんだろうかとか、この後どうなっていくんだろうとか、結構考えることが多いので、そういう部分ではこの映画のテーマにちょっと似ているものを自分の中でも持っているのかなと思いました。
襟川:実はひかりちゃんはインターナショナルスクールに通っているんですが、ほんとに潔いというかストレイトに物を言うし、はっきりしていますね。この映画に出演したのは2年前ですよね。全然変わっていないんですけど、そのあたりの秘訣は何ですか?
桜井:え~~と、何だろう。取り合えず、自分の好きなことをやってるからかな?
襟川:自分の好きなこと? 真千子ちゃんなんて、全然変わっていないですよね。どんどん会う度に減っている(若くなって)かもしれない。やっぱり仕事が充実していらっしゃるんでしょうね。
実は、この映画の舞台は愛知県なんですが、愛知というと「金のシャチホコ」とか、「ういろう」とか、「ミソカツ」とかが有名ですが、そういったご当地系の有名物産、名所旧跡とかは入っていません。監督、この映画の中ではなぜこういう部分は入らなかったんでしょう?
一尾監督:元々、ご当地映画ということで、そういう観光映画を企画したものではないのです。 私がずっと名古屋を拠点に活動しているということと、出資してくださった会社も名古屋だし、スタッフも名古屋が多かったので、名古屋で撮影したんです。ですので、非常にディープな名古屋が写っているという感じですね。
襟川:ディープなね。
監督:ええ、名古屋に住んでいるからこそ、撮影できた場所が写っていると思います。
襟川:どのあたりで撮っているのかな?ということに興味がある方は、映画が終わった後、パンフレットをお買い求めいただけると、詳しく書いてあります。
さあ、実はこの作品に参加している俳優さんのお一人である万田久子さんからメッセージが届いています。「初日を迎えられておめでとうございます。そしてご来場いただいているお客様ありがとうございます。名古屋の撮影は暑い夏の頃でしたね。深夜まで続いたハードスケジュールの中での撮影、一尾監督始め、スタッフの皆さまの熱気溢れる撮影現場が、より一層に暑い夏の記憶として印象に残っております。まるで悪夢のように(笑)。でも映画はまるでそんなことなど感じさせない透明感溢れる瑞々しい映像でした。観終わった後には言葉では言い表せない「夏休みのお昼寝」のようなノスタルジックな気分が残りました。一尾監督とは初めてご一緒させていただいたんですが、まさにこの映画のテーマのひとつである無意識の中の出会いだったと、ご一緒できたことを嬉しく思っています。この『心中天使』、観る人によって形を変える、繊細で傷つきやすい作品だと思います。優しく丁寧に扱ってくださいませ」ということです。ありがとうございました。
それから、もうひと方、國村隼さんからも届いていますが、監督への個人的なメッセージなのでここでは披露を控えさせてもらいます。実は國村隼さんは監督とは不思議な縁で結ばれているそうですね。
監督:はい。ご出演をお願いした時に、ものすごく脚本に興味を持ってくださいまして、いろんな解釈を提示してくださって、それが私の思っている通りだったり、ああこういう解釈もあるのかというものもあり、すごくお話しをさせていただきました。
襟川:実は監督の劇場用の1作目の作品(『溺れる人』)、この主演が…、えー、どなたでしたっけ?
監督:塚本晋也監督。
襟川:そうです。塚本晋也監督とは、実はその、なんとなく繋がりがあるんですよ。お気づきでないですか?
監督:えっ?
襟川:國村隼さんは『ヴィタール』(塚本晋也監督)に出てて、塚本晋也監督が映画に出た主演作が一尾監督の初めての劇場作品だったというわけです。というわけで、不思議な輪ができているということです。ちょっと言い方がめんどくさかったですが…。という関係でございます。
それでは、皆様からお薦めコメントやメッセージいただきたいと思います。
尾野:えー、ほんとにわかりずらいかもしれませんが、その中で幼い頃を思い出してください。この映画を観て感じたことをいろいろな人に話してみてください。そうするときっと、このお話し以上に楽しいことがあると思います。楽しんで行ってください。よろしくお願いします。
郭:最近、原作物が多い映画界に、珍しくオリジナルの作品ですが、公開できたことに意味があるのかなっていう気がします。ほんとに不思議な映画で、なんかすごく暖かい作品ですし、透明な作品でもあります。ぜひその世界観を90分間堪能していただけたらと思います。
桜井:私の年齢の方がたぶん持っているテーマだと思います。自分が何でここにいるのかとか、そういう不安みたいなものを同じ年代の人たちは持っていると思うので、そんな疑問をちょっと心に持ちつつ観ていただければ、きっと楽しい作品になると思います。ありがとうございました。
襟川:それでは、この作品を長い間、深く深く考え、やっと作り上げることができたという思いを、今ここで出しちゃいましょう。監督からの最後のメッセージをどうぞ。
監督:完成、公開まで大変時間がかかったんですが、まだ、道半ばだと思っています。ぜひ、今日を初めとして観ていただいて、この作品をできましたら育てていただいて、広げていただければ、それで初めてこの作品は完成するのかなと考えています。
正直申し上げて、物語を観て、感情移入して何かを感じていただく作品ではないと思います。そうではなくて、ご自分の心に照らし合わせて、何かをこの作品から感じていただくという作品になっていると思います。ぜひとも皆さんの力で育てていただければと思っています。
今日はどうもありがとうございました。
襟川:以上で舞台挨拶は終了です。
* 確かに不思議な作品でした。舞台挨拶の発言を見て興味を持った方、ぜひ劇場に足をお運びください。王家衛(ウォン・カーワイ)の世界が好きな人はきっと共感できると思います。