2009年6月24日 於 東京日仏学院 13:30~
登壇者: ジャン=ポール・ジョー監督(62)、藤田志穂さん(24)、ツルネン・マルテイさん(69)
東京日仏学院において、11時より『未来の食卓』試写に引き続き、記者会見が開かれました。前半30分は、監督への質疑応答、後半15分は、藤田さんとツルネンさんを交えてのゲストトーク。司会は、アップリンクの露無さん。
拍手で迎えられたジャン=ポール・ジョー監督は、3月のフランス映画祭でも来日したばかり。
司会:監督にとって2回目の来日になりますが、日本の感想はいかがですか?
監督:まずは、ありがとうございます。こんなにたくさん私の映画のために集まってくださって、何よりいい印象です。来る前は、アキラ クロサワの国として、黒澤明監督の映画を通じて素晴らしい印象を持っていました。よく言われるようにパラドックス(逆説)の国。確かに実際に来てみたらそうでした。日本はほんとに美しい国。自然は美しく、人々は優しくて、気候は温暖で、フランスと同じような感じです。日本もフランスのように、文化があって、歴史のある洗練された国です。それなのに、なぜハラキリしようとしているのでしょう? 自らの文化を台無しにしようとしています。
司会:フランスで30万人を動員し、社会的ムーブメントを起こしたと聞いています。どんな人たちがご覧になったのでしょうか?
監督:通常の公開でなく単館でしたが、7ヶ月で30万人が観ました。一番大きな観客層は、環境問題に興味のある組織の人たち。こういう映画が必要だったと言ってくださいました。次第にさほど環境問題に興味のない人にも口コミで広がりました。農家の方で有機でない方法でなさっている方や、議員の方も観てくれました。皆、「ありがとう」とおっしゃってくださいました。上映される度に満員になり、お帰りいただいた方もありました。映画のあとにディスカッションをし、その後で若い女性が泣きながら私のところに来たことがありました。それは感動の涙でした。「環境問題に苦しんでいるのは、私1人ではないのがわかった」と。もちろん彼女1人でなく、大勢の方が感動してくれました。
司会:興味のある方だけでなく。オーガニックって何? と思っている方にも観ていただけるといいですね。
― 「食」というテーマも勿論ですが、フランスの美しい風景と音楽が印象に残りました。監督のこだわりをお聞かせください。
監督:警告を発し問題を知らせるために作った映画ではありますが、同時に自然に対するオマージュ、人生に対するオマージュにもしたかったのです。フランスの美しい村や風景も描きたかったのです。映画とはそういうものだと思います。私が思うに、映画は我々にとって最も必要な芸術だと思っています。素晴らしい力があると思います。美しい自然や音を最大限に伝えられるツールです。音楽を担当してくださったガブリエル・ヤレドは、オスカーを2度も取った素晴らしい方です。
― 日本は切腹しようとしているというのは、何を見て感じたのでしょうか? また、合鴨農法を選んでご覧になったのは?
監督:日本に限らず、産業の発達している国すべてに言えることです。日本は国の遺産である素晴らしいものを壊そうとしています。他の地域でも、地球にある素晴らしいものを壊しています。サンテグジュペリなども言っているのですが、「地球は私たちのものではない。子どもたちのために借りているだけ」という格言があります。子どもたちに伝えるべき遺産を壊していると思います。毎日、子どもに食べ物を与えることによって、毒を与えています。世界の温暖化に対して、大きな責任があります。国は残るでしょうけど、今まで培ってきたものは、明日にも壊れてしまうと思います。こういう状況の中でも、素晴らしいアクションを起こしている方もいます。例えば、日本ではお母さんたちが色々な運動を起こしています。1つは、農家や生産者と提携して直接購入する方法で、これはアメリカや他の国でも広がりつつあります。生産者にも汚染などに意識の高い方たちがいます。例えば、九州に住むふるのたかおさんは、生物多様性を守るのに有効な有機農法をなさっています。環境を守ることも勿論、経済的にもペイすることを証明しています。
― 4年前に1人旅でアルルにゴッホの風景を訪ねていきました。ポンデュガールで食のジャーナリストのルッカスさんの存在を知りました。この映画には、ゴッホの絵の情景が映像に表れていましたが、ゴッホに対するオマージュでもあるのでしょうか?
監督:アリガトウゴザイマス。ゴッホは私の最も好きな画家です。10年程前からゴッホのドキュメンタリーを撮っています。まだ完成していないのですが、ゴッホの絵を身近に感じて貰えるものにしたいと思っています。この話をするのは、とても楽しい! エリック・カントナという、元サッカー選手でケン・ローチの映画にも出ている俳優と一緒に手かげています。エリックにとっても、ゴッホについて語ることができるのを誇りに思っています。ゴッホはアルルで名作を描きました。ゴッホがパリにいる兄弟テオに宛てた手紙をエリックが朗読するシーンを撮ろうとしているのですが、エリックがイギリスに行ってしまい中断しています。
― 監督はパリに住んでいるそうですが、どんな食生活をされているのですか?
監督:完全には難しいのですが、パリにもオーガニックのチェーン店もありますし、なるべくオーガニックのものをいただくようにしています。病気になってから特にその必要性を感じています。(注:2004年、結腸癌に侵される)
食や農業に関心を持つゲストとして、藤田志穂さんとツルネン・マルテイさんが登壇。監督と共に食を考えるトークを繰り広げました。
“元ギャル社長”として知られる藤田志穂さんは、19歳で起業しギャルの特性を活かしたマーケティングを展開した後、昨年12月に社長を引退。現在は若者が食や農業に興味を持つきっかけを作るための「ノギャル」プロジェクトを立ち上げ、秋田県で「シブヤ米」作りや、イケてる農作業着企画などを展開している。
フィンランド出身でキリスト教会の宣教師として来日したツルネン・マルテイさんは、現在民主党参議院議員。超党派の有機農業推進議員連盟の設立を呼びかけ、事務局長として活動されている。
司会:食に関心の深いお二人から、映画の感想をお聞かせください。
藤田:率直に難しい問題。もっとちゃんと考えなければと思いました。若い人たちが考えるきっかけが少ないのですが、踏み込みやすい映画だと思いました。秋田でシブヤ米を収穫予定なのですが、少しでも安全に食べられるものをと、虫が嫌うハーブを回りに植えたりしています。小さなことから巻き込んでいければと思っています。
ツルネン:一言で言えば、「感動!」。今までにも多くの有機農法に関する映画を観てきたのですが、なぜ感動したか、2点の理由があります。1つは、頻繁に「健康を維持するのによっぽど良い薬である」と語っていること。もう1つは、民主主義的な形で、小学校や町で人々の食卓に上ったこと。子どもたちも参加してオーガニックなものだけを食べようと決めたことは素晴らしい。
監督:私も共感。映画をよく観てくださって、いい感想をありがとうございます。2人とも問題に瀕している社会で重要な役割を持っている方。市民と行政のコミュニケーションが状況を打破する1番の方法だと思っています。今すぐにアクションを起こしましょう! 地球温暖化の問題は急を要するものです。
藤田:わかりました! 若い人にわかりやすく伝えるきっかけになって、ほんとの情報が発信できればと思います。
ツルネン:2年前に議員立法。草の根で何十年も関わってきた方たちの力がなければできませんでした。
司会:監督から最後にメッセージを
監督:これが始まりにしたいのです。1人1人の方にアクションを今すぐ起こして欲しい。地球の為、子どもたちの為、今日から始めてください。1992年リオデジャネイロで開催された環境サミットでスピーチした12歳の少女セヴァン・カリス・スズキさんの感動的な言葉があります。 「各国のリーダーの皆さん、言葉だけでなく行動を起こしてください」。どうぞ、皆さん、今日から実行してください!
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監督やゲストの方たちの言葉に、いかに自分が食に関しても環境に関しても無頓着な生活をおくっているかを反省させられました。一気に有機農法のものだけを食べるようにすることは難しくても、少しずつ変えていければと思いました。常日頃、食糧品を買いすぎないようにして、廃棄するような無駄を無くすように心がけているのですが、家族全体でみると、冷蔵庫はいつも満杯で、結局は食べ切れません。一方で、地球上には飢えに苦しむ人たちも大勢います。今回の記者会見では、安全なものを食べるという観点での話に集中したように思います。身体にいいものを食べることと同時に、世界中の皆がお腹を満たすことのできる社会の仕組みはどうやったら実現できるでしょう・・・ 色々なことを考えさせられた記者会見でした。