TF 二時間ちょっとの『花の影』を見終わって、一番最初の感想は“あー、長かった”。 何ととんでもないことを! 監督は今や「巨匠」の 呼び声高い、陳凱歌、主演は人気絶頂張國榮・レスリー様(“レスリーの宮様”とも 言うらしい)・プラス、アジアのNo1女優、鞏俐……。こんな豪華なメンバーで 面白くないと思うなんて、と自分を叱りつけたけれど、何度思い返してみても、 やはり“酔えなかったナ”という違和感が増すばかり。三時間近い『さらばわが愛 〜覇王別姫』は少しも長いと思わず、終わった時には“ああ残念、もっと 見ていたい”と感じたのに……。 ○歴史が描けていない ○クリストファー・ドイルの撮影が内容と合っていない ○鞏俐にこの役は無理 ○そして最後、張國榮(レスリー・チャン)が綺麗に撮れていない! 一月にあったレスリーのコンサートを見たけれど、そのオーラは圧倒的だった。 その後、しばらくはボーッとなっていて、もう一度『ルージュ』『欲望の翼』 『さらばわが愛〜覇王別姫』などのビデオを見返し、『夜半歌聲』は二度も 見に行ってコンサートの余韻を味わい、ついには夢にまで見る始末(モウケた! と思った)。この物凄い影響力は“美貌”だけでは説明できない。レスリーの 内側から溢れだしてくる強烈な自意識によるものだと思う。「自分は美しい。 自分はスーパースターなのだ」という確信からくるナルシズムが伝わった時、 見る側もレスリーの魔術にはまる。 レスリーに似合うのは“光りモノ”“ヌード”“豪華な背景”など。 『さらばわが愛〜覇王別姫』の時の京劇化粧、豪華衣装、金銀アクセサリーの 数々の中で、彼は妖しく輝いていた。『欲望の翼』のトランクス姿のけだるげな ダンスは、その色っぽさでゾクゾクさせた。『夜半歌聲』では壮麗なオペラハウス (この炎上シーンはすごい。『風と共に去りぬ』のアトランタ陥落シーンを思わせた) を背景に歌いまくり、“歌のうまさ”を強烈に印象づけた。 前述したどの映画でも、“これぞレスリー”というシーンがありそれにはまって レスリーは自意識を全開して光を放っていた。しかし、『花の影』のレスリーは、 終始眉の間にシワをよせ、暗い顔でどの女もあしらい切れず悩んでいる。こんな 設定のレスリーが美しく見えるはずがないし、オーラも漂わない。着ているものも よくない。肩巾のない華奢な体つきに、現代的なスーツは似合わないのに着せるから 貧弱に見えてしまうし、アースカラーのチャイナ服なんてド地味な服やマッサージ師 みたいな丸黒眼鏡…みんな似合っていない。衣装係はクビにすべきだ。コンサートの 時のラメラメの服や赤いハイヒールは(好き嫌いはあるだろうけれど)レスリーの 本質をよく理解したステージ衣装だったと思う。とにかくレスリーを“その気”に させて内側から光を放たせること、これで映画の成功は約束されたも同然なのに、 それができていないから、この『花の影』には魅力が感じられなかったのだと思う。 “なぜその映画がつまらないか”なんて証明してみせるなんて、実は虚しい。 この映画はスゴイ、面白い、見所はここ、と興奮して書きたい。美しさの 絶頂期の役者を充分美しく撮って、私たちを陶酔させてほしいと切に願っている。 |