女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
40号   pp. 70 -- 73

CINEMA HUNT -1-



MIWA OKADA

【サバイビング・ピカソ】

監督 ジェームズ・アイボリー
出演 アンソニー・ホプキンス、ナターシャ・マイケルホーン

 20世紀を代表するスペインの天才芸術家パブロ・ピカソ。ドイツ占領下の パリで芸術活動にエネルギーを注ぐ彼はとても魅力的で、たくさんの人々を彼の 虜にする。ピカソの強烈な個性は人々のエネルギーを吸い上げつくし彼らを 破滅へと導く。

 そんな彼に出会った二十二才のフランソワーズもこの運命の出会いに身を投じる。 この時ピカソは既に六十一才である。

 彼女の他にも本妻と愛人4人を自分の元から離さない彼にフランソワーズは悩む。 しかし、他の女性達と違い、彼女は彼の世界の奴隷にならずに燃え尽きる前に生き残った (サバイビング)。

 映画を見るまでは、その作品を通してしかピカソの存在に触れたことがなかったが、 こんなにもエネルギーに溢れた生涯を送っていたとは知らなかった。 長生きの秘訣だろうか? また彼を取り巻いた愛人達の彼への壮絶な思いはスクリーンを 通して見ている者をまた悩ませる迫力があった。

 その中で唯一ピカソが虜になった女性フランソワーズ。彼女の生き方は現代女性の 生き方に非常に近くたいへん共感がもてる。自分の意志を見失いそうになりながらも、 持って生まれたたくましさと力強さでしっかりと自立の道を選ぶ姿に感動した。 ピカソとの間に2人の子供を持ったが、西洋とはいえ1940年代で未婚の母の 生き方は波乱に富んだものだったといえるであろう。彼女が芸術家として活躍したか どうかは知らないが、その娘パロマ・ピカソは皆さんご存じのとおり、世界的に 有名なジュエリーデザイナーとして大活躍している。

 この映画はアンソニー・ホプキンスのそっくりさんシリーズ(ニクソンを見よ!) なんてうまい事を言ってる人もいたが、彼だけではなくパロマ・ピカソの顔を 思い浮かべると、きっとフランソワーズ役のナターシャ・マイケルホーンも本人に 似ているのではないかしらと思った。そんなふうに実在の人の顔を思い浮かべながら 見ると、さらに臨場感が増して楽しめると思う。


【エキゾチカ】

監督 アトム・エゴイアン
出演 ミア・カーシュナー、ブルース・グリーンウッド

 夜更けとともに怪しげなナイトクラブ「エキゾチカ」に集まる人々。そこに スクールガールのコスプレでストリップをする美少女クリスティーナがいる。 毎晩彼女を目当てにやって来る常連客フランシス。彼らを何故か嫉妬に狂ったような 目で見守るDJエリック。一方、フランシスの昼間の顔はお堅い税務検査官で 密輸の疑いのあるペットショップを調べるためにオーナー・トーマスを訪ねる。

 まずタイトルが怪しい!そして怪しいクラブの怪しい雰囲気の中でなんのことはない 話しと思っていたが、奥が深かった。テーマは「癒し」。ビールのCMで深津恵利ちゃんが 「ヒーリング、ヒーリング」といっておいしそうにビールを飲んで自らを癒していたように (?)、彼らはここ「エキゾチカ」でヒーリングする。

 フランシスは失った娘の姿をクリスティーナに求め、DJは失った愛をクリスティーナと 客の間に感じ、クリスティーナは自らをコスプレすることによって癒す。いろんな 癒しかたがあるのだ。トーマスはここの常連ではなく、彼はゲイでバレエ鑑賞に 癒しを求める。

 しかしこれは口実で相手を探すためにバレエを観に行く。(彼は密輸で儲けてリッチ! 相手の分も払います。)

 アメリカなら癒すためにはまずセラピーを受けるだろう。日本ではあまりこの手の 療法は馴染みがないが、精神を癒すにはこんなエキゾチカ式も男の人にはいいのかしら と思った。

 テーマは「癒し」と前述したがそれだけではなく実はサスペンスも盛り込まれており、 話しが前後しながら進むので時々判らなくなりそうになった。

 全体にどんよりとした暗い感じが全編に漂っているのだが、見終わった後は頭の中に ぽっかりと空白ができたような感じのする不思議な映画だった。癒されたのかしら? 私はアロマテラピーでもやってリラックスしよっと!


【マイルーム】

監督 ジェリー・ザックス
出演 メリル・ストリープ、ダイアン・キートン

 公開を楽しみにしていた映画のひとつ。キャスティングを見ただけでその出演者の 豪華さに圧倒される。みんな演技過剰で観た後疲れそう・・などと不謹慎な事を 思ってしまったがその逆で、さすがアカデミー賞受賞俳優達。感動満載のすばらしい 映画だった。特にメリル・ストリープは今まで優等生的な役が多かったと思うが、 今回は正反対のハスッパな役に挑戦し、さすが実力者の貫禄十分の演技で 安心して観ていられる。ストリープの演技と、不器用な感じのするキートンの演技が いいコンビネーションでお互いをうまく引き立てていた。

 年老いた父と叔母の看病に生涯を捧げた献身的な姉ベッシー、彼女とは 正反対の生活を送ってきた妹リーは、ベッシーが白血病を発病したため20年ぶりに 再会する。白血病の治療には骨髄移植が一番有効であるが、これは他人では まず適合することはないため身内であるリーの家族は姉に助けを求められ、 実家へとやって来た。

 家に縛られるのが嫌で、実家にはほとんど寄りつかなかったリーはベッシーに問いかける。 「結婚もせず、やりたいことのできなかった人生に悔いはないのか?」と。 すると彼女は「愛情を人生を捧げる人たちがいて自分は幸せで満ち足りていた」 と答える。ありきたりのことばのようだが、自分自身も死に直面し「人生の 喜びとは何か?」ということを悟った者の満足感が感じられた。

 原題の「マービンズルーム」のマービンが気になってしょうがなかったが最後に判って すっきり。お父さんの名前だったんですね。


 

【セイント・クララ】

監督 アリ・フォルマン、オリ・シヴァン
出演 ルーシー・ドゥビンチック、ハリル・エロハフ

 1999年のイスラエルのある町、不思議な力を持つ13歳の少女クララは家族と 共にソ連からこの町へ移住してきた。彼女の予知能力は家族の宿命ともいえるもので、 初恋が実るまで続く。そんな便利な力をクラスメートは試験問題の透視に利用しようとする。 予言が的中し喜ぶ子供たちと、カンニングの主犯を捕まえようとする校長。どこの国にも ある普通の学校の出来事である。

 この映画の二人の監督はそれぞれアメリカとポーランド出身でイスラエル育ちである。 さらに、登場人物はソビエト人やフランス語を話すインテリ校長などで、実に 登場人物が多彩だ。いつも米国製のSFXのたっぷりとほどこされた映像に 慣らされているせいか、未来の話なのにどうみても今と変わらない風景に心が和んだ。

 また超能力を使う時もつい派手な変化を期待してしまうのだが、変化らしい 変化は全編を通じてほとんどなく、未来を感じるというより素朴なイスラエルの 人々の姿にほっとするものがあった。

 現在、イスラエルの情報は政治か戦争からみのものがその報道の多くを占めていて、 普通の人々の生活はあまり知られていないと思うので、設定は未来ではあるがイスラエルの 現代文化のひとつを表現しているこの映画を観ることによって、彼らの今を 垣間見ることができるのではないだろうか。たとえば言葉。英語が公用語だと思っていたが、 映画の中で使われているのは今まで聞いたことがない言語だし、その合間にフランス語が 入ったりして、その複雑な国の背景がうかがえる。


1997年6月 中野武蔵野ホールにてロードショー


 

【101】

監督 ジョン・ヒューズ
出演 グレン・クロース、ジェフ・ダニエルズ

 ご存じディズニーの傑作101匹わんちゃん。子供の頃に誰もがそのアニメを 観た記憶があると思うディズニー作品のひとつである。本物のダルメシアンを 101匹集めて挑んだ撮影は迫力満点で本物に優るものはないと思った。 今回の場合は101匹のダルメシアンを軸に人間の馬鹿げた欲望と、 魔の手から犬達を救う人間の戦いがテンポよく展開する。

 実写のダルメシアンたちはとってもかわいいが、最後の方でアニメで大挙して 現れるのだが、不気味な目がとっても恐かった。それまで本物のダルメシアン 実演でうまく話しが出来上がっていたのに、最後でこれは必要だったのかしらと 思った。それから制作者が同じためか、ホームアローンとベイブを足して 二で割ったような感じは避けられない。(ベイブの制作は異なります。)

 動物を主人公にした映画を観ると人間の演技が大袈裟だったり、わざとらしかったり するのが好ましくないし、演技をさせられている動物の表情は私には悲しそうに しか見えないのであまり観ない。

 今回のこのディズニーは101匹のダルメシアンがメインではあるが、人間の 迫力がすごい。毛皮収集家で悪の代表グレン・クローズ演ずるクルエラ・デ・ビル (この名前いいですね)は凄みを越えて思わず笑わずにはいられない。そんな 彼女の演技力に感心した。それからちょっと背中を丸めた後ろ姿はまるで 原画のアニメそっくり。 絢爛豪華な光ものの衣装で身を包み、欲しいものを手に入れるまでは決して諦めず、 泥塗れ、芝草まみれになりながら走りまわる彼女の根性は、とってもポジティブである。 変な感心のしかたかもしれないが、やる気や元気はこのパワーが大切である。 この映画の主人公は彼女でしょう!

 動物を使って愛らしくまとめるのもディズニーの力、ハリウッドの名優を使って 大人も楽しめる映画にするのもディズニーの力。楽しい映画でした。

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