女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
37号  (June, 1996)   pp. 90 -- 93

CATVに振り回されて
あいち国際女性映画祭96に行って

見たり、読んだり、働いたり日記

E.I.

4月○日 練馬区のわが家の一角は難視聴地域に指定されている。 神宮のNHKから直線を引くと、真ん中に新宿の高層ビルがあって、 電波を妨げるのだそうだ。そこで、この辺では一番高い建物である 労働省研修所が屋上に集中アンテナを設置し、一括管理してきた。 テレビの映りが悪くなると、すぐ近所中から研修所に電話が入る。 この度、労働省のお役人たちは苦情処理にウンザリしたのか、 管理を今や飛ぶ鳥を落とす勢いのケーブルネリマに移管した。 だから大変!移管承諾を取りにケープルの営業マンが回ってきて、 今判を押せぱお得です、だってタダでケーブルテレビの設置ができちゃうし、 一カ月間はタダで基本料金分が見られる上に、有料チャンネルの WOWWOW、スターチャンネル、衛星劇場、グリーンチャンネル (競馬専門)など10チャンネル以上が見放題なのです、とか。人の 弱みをくすぐるようにプログラムを置いて行く。なによ、これ、 なんてペラペラめくりはじめて、たちまちその華々しい映画タイトル に目がくらんでしまった。ちょうど、仕事も3月いっぱいで一段落。 15年も使っているビデオデッキが動かなくなり、これじゃレンタル ビデオも借りて来れないじゃないのと困っていた時だから、 タイミングがよすぎた。わが家にケーブルテレビのサービスブースが 置かれたらどうなるか…、そうなんです、テレビのON状態が何昼夜も 続く結果となったのです。もちろん、見ている家族一同の目はまっかっか。 一番赤い目は私である。何しろ、空が白み始める明け方まで、 ついついブラウン管と向かい合い、6時には子供達のお弁当をつくり、 7時に送り出し、少し寝れぱいいのにケチ意識が先に立ち、 また次の映画を見始める。コマーシャルがないし、字幕を見ないと 意味が分からないからトイレにも立てない。定期試験の時間割のごとく 何度もプログラムを確認し、見るべき映画のランクづけをし、 時間を確認してやっと寝る。でもすでに10時すぎだから世の中は動き始めており、 仕事の電話がなるわ、回覧板はくるわ、犬が餌を催促するわ、 でゆっくり寝てられるわけがない。だから起きて、またケーブルネリマ。 いったいどうなっちゃうのだろう私の身体は…。

5月○日 やっと4月が終わった。ケーブルテレビのプログラムは もう手垢だらけ。それだけでもすさまじい一ヵ月を物語っていた。 ノートを元に見た映画の一覧を紹介…『ストラップレス』(英89年) サギ男にひっかかった女医の話し。『フランケンシュタインの逆襲』 (英57年)改造人間のフランケンが馬みたいに縛られたりして、アナログさが面白かった。 『レッドドラゴン/レスター博士の沈黙』 (86年)トマス・ハリス原作の映画化は『羊たちの沈黙』が有名だけど、 これが第一作目。一家惨殺事件を追う刑事物。その異常心理の犯人が、 最後には刑事の家族を狙ってくる。 『クーリンチェ少年殺人事件』(台91年) 4時間は長いけど、見てしまったあ。エドワード・ヤン頑張る。 『スピード』(94年)ゆっくり映画の後にはスピードで。 冒頭のエレベータの見せ場で、劇場で見たときこんなのあった?、って次男につぶやくと、 ボケたんだと驚かれた。 『逃亡者』この月に2度見ちゃいましたけど、 見ればみるほど面白くできてると感心。 『GONIN』(95年)これは誤認でなくて5人の話だったのだ。 『心の扉』(米92年)自閉症の女子をもつ母の話し。 ここにもトミー・リー・ジョーンズが精神科医の役で登場。すごい活躍。 『ミラグロ奇跡の地』(88年)監督はロバート・レッドフォード。 道路開発を豆畑を作って阻止した実話。考えたらすごい住民パワー。 『夫たち、妻たち、恋人たち』(仏89年)避暑地で過ごす 幾組かの家族たちの姿を面白おかしく描く。 『夕やけ雲』(56年)監督は木下恵介。 少年が、嫌だった魚屋の稼業を継ぎ自立するまでの家族劇。 もう、望月優子の母親が泣かせ、東野英二郎の父親が泣かせ、 醤油顔の田中晋二君の健気さが泣かせる。純日本式家族の中で唯一ドライで 家庭からはみ出た久我美子がまた、生き生きと美しい。 ラストにタ焼けに向かって晋二君が「僕の愛するものたち、サヨウナラ」 と独白するところでもう私、号泣しました。大人になるってツライ。 『野菊の如き君なりき』(55年)木下監督の名作。 まわりが白のソフトエッジに包まれた伝説のスクリーン。 かなわぬ恋に引き裂かれた田中晋二君と野菊のような有田紀子さん。 泣いて泣いて、ここ5年分くらいの涙を一挙に放出してしまった。そうなの、 耐えることは永遠の日本人の美学。それにしても、木下恵介はすごい監督だ。 『青春神話』(台92年) 台湾も日本も受験戦争で屈折していく若者の気持ちは共通する。 『ダメージ』(英仏92年)互いにパートナーがいるもの同士の男女の恋愛は ラブスーリーとは程遠い、究極のサスペンス。もう、心臓がとまるかと思ったわ!! ルイ・マルも頑張る。 『くちづけ』(57年)増村保造監督の処女作。 今は亡き川口浩・野添ひとみのくちづけのアップを雑誌平凡のグラビア見開きで見た時の衝撃。 小学生だったオマセな私は親に隠れて何度も何度も開いてはため息をついた。 今みるとそれほど刺激的でないけどフレッシュなふたりが輝いている。 『親不孝通り』同じ増村監督、川口・野添共演作品。 慶大生らしき大学生たちの就職を前にした青春。金持ちにたかって車を買い、 社会に反抗的態度をとるのも学生のときだけ。社会に出たらただの大人になっていく若者。 作品が新しさを出そうとした分だけ今見ると色あせている。 増村監督は生まれるのも死ぬのも早すぎたのかもしれない。 『五人少女天国行き』(中国香港91年)緑の山々、 野原にカラフルな色の服を着た美しい少女五人。天国を夢見て心中するが、 映像が美しいだけに生活の中で味わう女性の辛苦が浮き彫りにされていた。 『恋はデジャブ』(米93年) なるほど、男も恋を経験すると魅力的に変身するんだ。 『見えない恐怖』(米71年)リチャード・フライシャー監督。 ミア・ファーロウ主演。タイトル通り盲目の女性が殺人鬼に追われる見えない恐怖を描く。 『ダブル/W』(米87年) 『ステップファーザー2』(米89年) 家庭に異常な思い入れを持ち、主人である自分に従わなくなると皆殺し。 変装して別人になり次なる餌食を探す中年男の話し。 『ブラックライダー』(米66年) トミー・リー・ジョーンズが若くて、ジェリー藤尾にそっくり。 『ミーンストリート』(米73年)マーティン・スコティッシュ監督。 『カジノ』のコンビの記念すべき一作目。 デ・ニーロもハーベイ・カイテルも若い若い。 『硝子の塔』(米93年)シャロン・ストーン主演。 ビデオの覗きマニアが殺人を目撃しても覗いてることがバレルとやばいので黙認。 どこかの国で同じことがあった。 『忘れられない人』(米93年) このオーソドックスなラブロマンスが忘れられなくなってしまった私。 そしてナチュラルボーイ、クリスチャン・スレーター様が忘れられない人に。 野生、繊細、知性、腕力、病弱、シャイ、無口、情熱、 男の美点をすべて備えた彼って感激 。 劇場で見た『トゥルーロマンス』を除いて、 『告発』 『インタビューウィズバンパイアー』 は5月のスターチャンネルでしっかりチェックしたもんね。 『隣人』ケビン・クライン主演。 隣りに越して来た家庭愛に飢えた男に狙われ、保険金サギに巻き込まれるケビン。 最後は悪が負け、ハッピーエンドに。 『フォー・ウエディング』ヒュー・グラント主演。 次々結婚していく友達を見て結婚とは、愛とはを考える青年。 やがて「結婚は約束できないけど、いつまでも一緒にいてくれる?」 「もちろん」という女性に巡り会うまで。ラストクレジットにチャールス皇太子の写真が。 皮肉っているのかな。 『裸の銃を持つ男33 1/3 最後の侮辱』レスリー・ニールセン主演。 最近の映画のパロディーが次々と登場。人気シリーズだけに笑わせてくれる。 『スパイハード』も楽しみだ。 『マスク』(米94年)ジム・キャリー。 ストーリー自体はすごくオーソドックスで仮面の扱いも基本的。 なのにこんな面白く作っちゃうのはさすがにアメリカ。 日本では人の欠点をあげつらって笑いを取る芸人がほとんど、ジムは若くてハンサムで、 その彼がとびきり全身で笑わせてくれるのだから嬉しい。さっそく、息子と 『エースにおまかせ』を見て来た。 『男が女を愛する時』(米94年)ルイス・マンドーネ監督。 アンディ・ガルシアとメグ・ライアンが夫婦役。 女を守ることが男の役目と疑わない優しい夫に耐えられなくて、 アルコール中毒になっていく小学校教師の妻。このすれ違いを埋めるのは 大変だけど二人は試練を経てやり直しに。 『華岡青洲の妻』雷様の人気は若い女性を中心に上昇中とか。 母と妻の女の争いを利用(?)して自分の医学的野望を遂げて行く男を 市川雷蔵はクールにセクシーに演じる。 初夜のシーンなんて妻にそっけなくてステキだったわ。これこそ究極の嫁姑映画。 『天と地』(米93年)オリバー・ストーンのベトナム物。 戦争と平和、ベトナムとアメリカ、男と女の狭間で生きたベトナム女性が主人公。 帰還して戦場での殺人に苦しみ自殺する夫のトミー・リー・ジョーンズ。 彼の顔の大きさが東洋女性と並んではじめてわかった。 『ウルフ』(米93年)ジャック・ニコルソン。 変身しなくても十分ウルフっぽい顔。ベアウルフなんてロマンチックね。 『プリンセス・ブライト・ストーリー』(米89年)ロブ・ライナー監督。 ピーター・フォークの祖父が孫息子に読み聞かせる昔話の形でストーリーが展開。 これが又面白い。剣とか城とか、お姫様、盗賊などロビンフッド、怪傑Zの世界。 バカらしいと言いながら高校生の娘に大受け。 『薔薇の素顔』(米94年)ディレクターズカット版。 2度の再編集のすえ公開に。これは完成当初のノーカット版のせいか、 ブルース・ウィルスの大切なものを見てしまった、どうしよう。 『ギルティ 罪深き罪』(米93年)シドニー・ルメット監督。 有能な女性弁護士が悪知恵のきく依頼人のワナにはまって、絶対絶命… もちろんラストは女性の勝利、いまいち男に魅かれる女の気持ちがわかりにくいな。 『依頼人』はトークを見てね。 このほか『カリブ愛欲の罠』 『おかえりなさいリリアン』 『きっと忘れない』 『エイジオブイノセンス 汚れなき情事』 『チャタレ夫人の恋人』も見ましたが 誌面の都合カットします。あ〜目薬をつけなくちゃあ。

6月☆日 6日からはじまったあいち国際女性映画祭'96へ行ってきた。 愛知県(財)あいち女性総合センターのウィルあいち開館記念のメーンイベントとして 催した映画祭。日本、海外から女性監督を招き、 上映とシンポジウムを行う気合の入れ方だ。女性センターはソフトピンクと白。 霞ヶ関のような緑と堀に囲まれた名古屋の官庁街にしなやかにたっている。 地下鉄『市役所』の階段を上がると外はのどかな初夏の陽気。 つい美しい木々と青空につられて名古屋城見物でもしちゃおうかなと思ったが、 11時に『女人、四十』のアン・ホイ監督とのインタビューがあったので、 センターへ急ぐ。一緒にくる筈だったMさんが仕事で夕方到着になったため、 ひとりでビデオカメラを回しながらのインタビューだった。アン監督は気さくに テキパキと答えてくださった。日本では連作する女性監督がまだ少ない、 数ある職種の中で映像の世界は特に男性主導の職場、女性進出が遅れているなど話したら 「それで?」とカメラを向けてる私の方をさして笑った。私が必死に見えたのかな。 ボヤキ女に見えたのかな。 「香港でも映画状況は日本と同じ。いかに資金を集めるかが問題」 「団塊の世代は香港でも上下から突き上げられて、苦悩している」 「映画をとれなかったここ5年間は生活が苦しかった」など、 今年、ベルリンでも香港でも映画賞を総ナメにした話題のアン監督、 絶好調の監督ですらこうなのかと少し意外だった。素顔の彼女は飾り気がなくおおらかで、 親しみやすいバイタリティー溢れる女性。 ジーンズのスカート、ジャケットにTシャツ、靴はバスケットシューズのような スニーカーをはいていた。通訳を通してなので正確に彼女の言葉を理解できなかったが、 その自然体の姿に困難を乗り越えながら仕事をこなしている人の自信と余裕が感じられた。 歓迎レセプションでは、取材よりパーティの食べ物に興味が…、言葉は悪いが 手当たり次第食べまくってしまった。ま。新幹線の往復代はじめ、子供への食事代、 宿泊代などが嵩み、朝からヤキソバ一杯だけでしのいできたから、 並ぶごちそうに目がくらむのもしょうがないんだ。しかし、パーティ料理で もとをとろうなど考えるあさましい根性が人間を小さくしてるのか。 レセプションといえば挨拶に立たれた役人の方が「万博、万博」と連呼されていたのも おかしかった。それが、イヤミでなくユーモアに聞こえてあちらこちらで笑いが。 わずか2日間いただけの映画祭でしたが、印象に残ったことをいくつか。 映画館ではあまり見ることの少なくなった60、70歳代のお年寄りが多く参加され、 感激しながら映画をみている姿。これは新鮮な感動だった。 県内の女性ネットワークに声をかけたということだが、 亡き母と同年代の女性たちがモンゴルの『天の馬』を見て ハンカチを取り出し目を拭う。私は涙もろかった母と一緒に映画を見た日々を 懐かしく思い出した。映画は若者だけ、映画大好き人間だけのものではない。 人生を十分知った人だって感激するすばらしいエンターテイメント。 皆なで見たいものだ。 その夜は私たちがこの映画祭にくるにあたって散々お世話になった高野さんに連れられて ステキなバーヘ。高野さん本当にありがとうございました。映画祭で見た映画 『天の馬』(モンゴル/ナンサリーン・オランチメグ) 『少年の叫び』(フランス/アニエス・メレ) 『画魂/愛、いつまでも』(中国/ホァン・シューチン) 『ツーフレンズ』(ニュージーランド/ジェーン・カンピオン)

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