女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
37号   pp. 88 -- 89

レスリー・チャン新作ビデオ案内!!



M. 片岡

 『君さえいれば/金枝玉葉』以後まったく日本で新作が上映されていないと、 ご不満のあなた、日本でも中国人向けのレンタル屋で、レスリー様の新作ピデオ (もちろん旧作も)がいち早く借りることが出来ます。ただし産地直送のため、 台詞は中国語のままですが、観ているうちには、ストーリーもなんとなく解って来ます。
そんな中から私の独断と偏見による、お薦めの三本をご紹介したいと思います。



『大三元』監督ツイ・ハーク
共演ラウ・チンワン、アニタ・ユン

 これが一番の最新作で、今年の香港のお正月映画として上映されたものです。

 レスリーの役は、女性信者に超モテモテ人気アイドルのようなカソリックの神父様。 (したがって間違えてブチッという以外はキスシーンもラブシーンもありません。 濃厚ラブシーンをお好みのむきは『キラーウルフ/白髪魔女傳』をお薦めします。)
 今回は役柄の上からか、とても静かで、落ち着いた演技をしていて、 やっぱりレスリーって芝居が上手だなあと思わせる一作です。
 共演者の二人ですが、ラウ・チンワンは『つきせぬ想い』とは違って ちよっとキレメでドジで、それでいてラストはレスリーの従姉妹と チャッカリ結婚してしまう、刑事を好演しています。
 アニタは、娼婦ですがレスリーに助けられほのかな恋心を抱くのですが…… 私は声を大にして言いたい、「いちから芝居の勉強し直して来い」と。 どう割り引いて見ても、私にはあれが主演女優賞を二年連続して、取った演技には 思えませんでした。
 とは言っても、ツイ・ハークだしお正月映画だし、やっぱりドタバタ喜劇で、 レスリーと回りの娼婦達とのズレ気味のオトボケ演技が楽しい作品です。 (エルヴィスもどきのスタイルは笑えます。)



これからご紹介する作品は、二本共一九九五年のもので、ファンの皆様ならよく ご存じの作品だと思います。



『新夜半歌聲』監督ロニー・ウー
共演ウ・シンリン

 『オペラ座の怪人』に、似ていると言われているようですが、私はむしろ 『ロミオとジュリエット』をベースにしているのではないかと思いました。
 良く言えばとてもロマンテックなラブストーリー、悪く言えば、 古くさいメロドラマ私はもちろん良いほうですが。たまにはこんなに甘い甘いメロドラマも 悪くはないのではと思いました。
 前半の提灯ブルマータイツ姿のレスリーよりも、後半の顔と心に傷を負ったあとの 彼の演技はさすがと思わせるものでした。
 共演のウ・シンリンは、ガラス細工のような繊細な演技で、恋人が 火事で亡くなっていると思い、ショックから過去と現実の区別がつかなくなっているのに、 恋人に逢いに行くといって、口紅を買いに行くシーンは哀れを誘います。 なによりもレスリーがウ・シンリンを相手役として、しっかり受け止めて 演技をしているのが印象的でした。



『東邪西毒』監督ウォン・カーウェイ

 レスリーをはじめとする香港の人気スターが、次から次と出てくるわ出てくるわ、 それを見るだけでも十分価値はありますがそこはウォン・カーウェイ、 映像の素晴らしさ、美しさは、TVの小さな画面からでも多少なりとも伝わってくるので、 映画館の大画面で早く見てみたいと思いました。
 作品全体に寂蓼感というか虚無感が漂っていて、見終わったあとは、 なんだかうら哀しい気持ちにさせられます。
 レスリーは、昔は剣士で、今は砂漠で殺し屋の仲介、斡旋を営んでいます。 そこに殺し屋に仕事を依頼にくる人、仕事を探しにくる殺し屋など、 レスリーのもとを訪れる人、去っていく人のさまざまな人間模様が展開されていきます。



『東邪西毒』の作品としての映像美は別にして、『大三元』『新夜半歌聲』 ともにレスリーがとても綺麗に撮れていて、撮影監督としての、 クリストファー・ドイルの腕の冴えが感じられる作品になっていますので、 それも併せて見ると楽しさも倍増してくると思います。

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