女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
37号 (1996.06)  pp.40--50

話題作をチェック 二人トーク



関口治美(以下 H
地畑寧子(以下 Y


サロゲート・マザー

H 「これって洋画って言ってるけど邦画よね。 東映Vシネマだったわけ。ほら加藤雅也がブルック・シールズと出てたり、 トヨエツがヤクザやったりしたのあったじゃない。 まるで香港で作ったニセモノハリウッド映画みたい…」

Y 「『ミュータント・タートルズ』!」

H 「そうそんな感じ。でもっておかしいのは、松田聖子が日系アメリカ人役だってこと」

Y 「サロゲート・マザーというシステムに目を向けた所は良かったと思うけど」

H 「内容が『揺りかごを揺らす手』や『ルームメイト』の二番煎じじゃね」

Y 「サスペンスというよりも不幸な女の子の転落記って感じ。 サスペンス色のないサスペンスで困っちゃった。 あのダンナが「アイシテルヨ」って聖子に言うの、気持ち悪かったな」

H 「対する聖子が“アイラブユー”ですと。 ヘンなの。とにかくアメリカヘ進出する気があったなら、こんなの作っちゃダメよね」

Y 「そういえば、歌謡大賞でおなじみの涙が出ない泣き顔だったわね。今でもそうだったんだぁ。 聖子の英語は結構上手かったと思う」

H 「そう、でもしつこいけど日系アメリカ人役なのよ。 サロゲート・マザー役のブリジット・ウィルソンって梅宮アンナみたいでしょ」

Y 「目と目の間が離れてて、顔をしかめる人ね。 『ラスト・アクション・ヒーロー』 『モータル・コンバット』。有名になれるのかな? こんなのに出てちゃダメよね。 あと、ピーター・ボイル。もう引退なのかな? なんでこんなのに出てきたわけ? 結局、この映画で一番良かったのは主人公の住む家ね」

H 「この映画、全米公開はムリでしょう。 嬉しかったのは日本でもコケたこと。まだまだ観客の見る目はあるのね。 と言いつつ観てしまった自分がなさけない。」

おかえり

Y 「これはとっても良かった」

H 「かわった雰囲気のある映画よね」

Y 「周りに映画の二人みたいなシチュエーションの友人が多くて… 私もそうなんだけど — 身につまされちゃって。いい取材したと思う。 TVドラマみたいな主婦って今ほとんどいないもの。話とは別に、 こういう主婦の生活を見られてほっとしちゃった。
 よかった点は、夫婦の愛情が押しつけがましくないこと。いいご主人よね。 ここまでやってくれるなんて。奥さんが繊細すぎるんだけど、 家庭に入った落し穴が良く出てる。自分では納得してたつもりなのにって…」

H 「奥さんはピアニストを目指していたのにあきらめちゃったんでしょ。 ピアノの先生か何か、それを生かせる仕事を持っていたらこんな事にはならなかったんじゃない?」

Y 「鍵盤に指をつけていれば良かったのにね」

H 「それの替わりがワープロ。せめてキーボードでもあったなら違ったかも。 彼女は家庭に入ることによって自分の夢を捨ててしまったわけでしょ」

Y 「そう、自分の選択なのよね。でも彼女によって狂い始めた歯車は、 旦那さんによって良くなったんだからいい事よね」

H 「この映画のラストって、観方によっては救いようのないものだけど、実は救われているんじゃない」

Y 「この映画のようなタイプの人って少ないようだけど、多いのよ。 奥さんが家で女性週刊誌見ててTVのワイドショー観てるだけなんて人いない。 TVドラマに出てくる主婦像って変えてほしいんだけど」

H 「現代の若い夫婦像がリアルに出てる映画よね」

Y 「みんなこの映画を観れば身につまされると思う。 セリフも自然だし、女の人の行動もわかる。公園でお爺さんに会うところとか。
 監督の、映画を真剣に撮っている姿勢も好感が持てるし」

Kyoko

Y 「二人とも観ていないのに話すのはいけないんだけど… 『Kyoko』ってなんでヒットしたの? 村上龍ってどうして映画を作れるわけ?」

H 「彼って本当は映画監督になるのが夢だったんですって。 そのためにまず小説家になったと。でも彼に欠けているのは監督の才能だと思う。 『だいじょうぶマイフレンド』の後、ピーター・フォンダは消えちゃったんだから」

Y 「あのヘンな…『ラッフルズホテル』も彼のよね。 確かに映画オタクではあるらしいけど。たけしなんかと比べると…」

H 「小説は読み手の想像の世界だけど、 それを映像化するのは難しいのよ。そう言えば、前作はあのHな映画『トパーズ』。 これも女性客が押し掛けたっけ」

Y 「製作はロジャー・コーマン、ってことは、邦画じゃないの?」

H 「どこの国の映画かということは、出資国によるのよ。最近わからなくなってきたわね。 『上海ルージュ』だってフランス絡みだし。ボーダレスになってきたよね」

大阪ストーリー

Y 「これ、超面白かった」

H 「これもボーダレスよね。イギリスの映画学校での卒業制作ということもあるけど、 ほとんど大阪が舞台なのに、ナレーションは英語で日本語字幕が入る。 自分の家族を描いたドキュメンタリー。
父は在日韓国人二世で母は日本人。父は母の籍に入っているけど、 実は韓国に愛人がいる、と思っていたら愛人は韓国の父の籍に入っていた。 中田監督は7人兄弟の長男(6番目)でゲイ。 弟は某新興宗教の信者で合同結婚式をあげた韓国人の妻がいる…。この赤裸々な話が本当に事実とは!」

Y 「あのお父さん、典型的な昔の父親っていう感じ。 家長制度のね。それにしても私、中田監督を舞台挨拶でみたけど感じのいい人よね」

H 「実は私、監督とは十年近く前からの知り合いなんだけど。 この映画を観て、いい友人を持ってよかったなと思ったわ」

Y 「在日の人の話もこういう風に出していった方がいいと思うよね。」

H 「そう。恥ずかしいことなんてない。 日本人て混血民族みたいなもんだし。だいたい純粋な日本人なんてほとんどいないんだもの」

Y 「それにしてもスキャンダラスな話なんだけど、 何が良かったかっていうと、関西弁よね。ノリがよくて、冗談言ってるみたいで、 お母さんがさばけてて」

H 「京唄子とミヤコ蝶々を足して2で割ったみたいな浪速女ね。 兄弟もみんな面白くて、日本人と結婚して勘当されたお姉さんの結婚の動機もいいな。 彼は韓国料理が好きだからですって」

Y 「みんな魅力的よね。考えたらスゴい家族ね。でも好きな映画よ。 ちょっと思ったのは、関西弁の面白さが外国人にどこまで伝わるかなってこと。 大阪の特殊性が良く出てたし、在日韓国人の人でパチンコ屋を 経営しているが多いということ出てたし」

H 「赤裸々な話をユーモラスに描くって大変なものよね。 そういえば、監督のおかあさんは今年亡くなったそうだけど、自分がゲイだってこと、 伝えることは出来たのかしら?」

Y 「一方のお父さんは、あまり自分の父親にはしたくないタイプだな」

H 「これって本当のことなの?と思うような話の映画だけど、どうみてもこれって真実よね。」

Y 「素人もひとつの俳優なのね。」

H 「監督自身がインタビュアーとして登場することによって、 自分の家庭を客観的に描く…」

Y 「いい手法よね。とにかくこの映画、 予想の三百倍くらいを上回ってたわ。みんなに観てもらいたい映画ね」

トキワ荘の青春

Y 「ノスタルジックで、なじみのある漫画家がたくさん出てきて、演じてる俳優もみんな良かったわ」

H 「手塚治虫(この作品ではちょっとしか出てこない)をはじめとして、 この映画に出てくる漫画家のことを知っている人は絶対観るべきよね。
 この作品、なぜか評論家受けがあまり良くなかったみたいなのよ。 こんなユートピアなんかないって」

Y 「でも本当にそうなんだもの。 何も映画は全てリアルに描かなきゃならないってことはないんだし。 今薄れつつある漫画の良心が生きてた時代の話。私は涙が出ました」

H 「その時代を築いたのが手塚治虫で、 彼がどうすごいかっていうと、映画の技法を漫画に取り入れたこととか。 今では手塚は古い、などという人結構いるのよ」

Y 「それって、スピルバーグの映画は面白くないっていうのと同じね。 私はそういう考え方イヤだな。
 ところで、この映画の良かった所はというと、寺田ヒロオとつげ義春が才能を 認めあうじゃない。それから大森嘉之クンの赤塚不二夫」

H 「あえてモックン以外は小劇団系の役者などを使っているのもいいわね。 それと各人をさらっと描いて、これは誰々だとわざわざ説明してないでしょ。 私が好きなのはつのだじろう。トキワ荘の住人になりたくても都内に住んでてムリ。 で、自転車で通ったり。水野英子も好き」

Y 「編集者役のきたろうもよかった。大森クンが描けない時に。描こう!描こう!って励ますの。 このシーン、ジ〜ンと泣けました。 大森クンって、以前TVの『ある小倉日記』という作品ですごく良かったのよ。 主演の筒井くんも母親役の松阪慶子もよかったけど」

H 「市川準って、なぜか私には冷たく感じて好きじゃなかったけど、 この映画って暖かみがあって好きだな。」

Y 「私も。それにしても、ユートピアなんかないっていう人、 この時代がわからない人って何がいいっていうのかしら。教えてほしいな」

潜望鏡を上げろ

Y 「これって夜のみ一日一回の上映になっちゃったのよね」

H 「こんなのまで観ちゃって、なんて思ってたけど、意外と面白かった。 もったいない公開の仕方よね。エンド・タイトルがすごい!! ビレッジ・ピープルの「イン・ザ・ネイビー」を出演者全員でMTVにしてるんだもん。 ここだけもう一回観たい。ついでにこのMTVほしいよ〜」

Y 「この映画って潜水艦版の『メジャー・リーグ』なのね。監督も同じだし」

H 「『ホット・ショット』とか『裸の銃を持つ男』 みたいなオバカ・ギャグ映画だと思ってたけど、全然違ってた。
 ついでに、レスリー・ニールセン爺さんの映画、もう公開はやめてほしい」

Y 「役者もほとんど知らない人ばかりだけど、おかしな人ばかり。 ハリー・ディーン・スタントンって海賊船の船底にいそうなタイプ」

H 「あの女上官って『ドラゴン/ブルース・リー物語』の人じゃない?」

Y 「あの人よかったね。マッチョな世界だから性差別も多いじゃない。 それをサッサッてかわしていく姿勢。 カッコ良かったね。胸がこぼれそうな制服でもキィキィいわない」

H 「正直言って『クリムゾン・タイド』なんかよりもず〜っと面白い映画だったわ」

Y 「バラバラでズレズレ者が力を合わせていくっていうのが面白いのよね。 アメリカではあんまり評判良くなかったっていうけど面白いじゃない。私はオススメ」

H 「同感」

アンカー・ウーマン

H 「『マイ・フェア・レディ』と宣伝してたけど、これって『スター誕生』ね。」

Y 「面白かったけど、ちょっとラブ・シーンが多すぎない? それにしてもノってるミシェル・ファイファーがいい。『スカーフェイス』の頃がウソみたい」

H 「デビュー作の『グリース2』は溌刺としててなかなかだったけど、 『ロシアハウス』や『エイジ・オブ・イノセンス』はねえ。 この人に合う企画ってあまりなかったのかも。宝の持ち腐れ?」

Y 「でも『恋のゆくえ/ファビュラス・ベーカー・ボーイズ』 は良かったわよ。唄も上手いし。あと『レディ・ホーク』も縞麗だったじゃない。」

H 「ともあれ、今やトップの一人ね。」

Y 「自然体なのがでよかった。人の弱みがよくわかってそれを優しさで包み込むのが、 良いアンカー・ウーマンなのね」

H 「包み込むといえば、レッドフォードの役も暖かくてとてもいい人だったわね。 彼がソフト・フォーカスされてないのでホッとしちやった。 この映画では男のシワは人生の年輪なのよね。ラブ・シーンも綺麗だったでしょ」

Y 「ぴったりぴったり。レッドフォードだからよかったと思う。 それからストッカード・チャニングの東部出の嫌味もいいわ。 マイアミ局の暗記下手のアンカー・マンも面白かった。それにしても知性が第一条件の職業よね」

H 「『スター誕生』では男は堕落してしまうけど、 この映画ではレッドフォードに華を持たせてるのもいい。典型的なハリウッド映画だけど、 私は好きな映画だな」

Y 「教訓。残業で愛は生まれる」(笑)

白い嵐

H 「青春映画として結構好き」

Y 「条件をば、一つ。感動する映画のラストにはスティングの曲が流れる」

H 「この映画、なんと言って撮影が綺麗。 船を正面から逆光で撮ってるところなんか、さすがリドリー・スコット」

Y 「夕陽のシーンなんかもよかったね」

H 「ジェフ・ブリッジスが、カッコ良かった。 ちょっと痩せて締まってて、海の男という感じが良く出てた」

Y 「若者と一緒だから鍛えたのかしら?  若者達も良かった。スコット君は体型も顔もがトム・クルーズみたいだったけど」

H 「ラストはクサい。実話だからなのかもしれないけど。どうもああいうのは好かん」

Y 「スコット君がトム・クルーズに見えちゃったのは、ラストにああいうセリフをはくからなのよ」

H 「『七月四日に生まれて』を思い出したんでしょ?  ジェフ・ブリッジスが一人静かに去っていくようなラストだったら、 もっとよかったと思うのに」

Y 「ホント。いい映画なのにね。見せ場は多かったよね」

H 「嵐で船のドアが開かなくなった時の奥さんとのシーンなんか涙がでちゃった」

Y 「あの先生(ジェフ・ブリッジス)が立派だったのは、 生徒を失った事に責任を感じていても、自分の奥さんを失ったことは言わないでしょ。 奥さんも偉い。あんな素晴らしい女性はそうそういないわ」

デンバーに死す時

H 「『白い嵐』では久々にジョン・サベージが出てたけど、 こっちの映画には同じ『ヘアー』に出てたトリート・ウィリアムスが出てた」

Y 「あのヘンなものとっとく人でしょ。 この映画ってアンディ・ガルシアのファンのための映画って感じすご〜くしたゾ」

H 「アンディ・ガルシアってハンサムだけど、 太りやすいのかな。リッチな時よりもヤツれている方がかっこいい」

Y 「これってアンディ・ファンのためのMTVよね。 それはともかく、ワキの人には笑っちゃう。トリート・ウィリアムスはイカレポンチだし。」

H 「アレを冷蔵庫の上に置いておくとはねえ。 私はクリストファー・ロイドがいい味出してたと思うけど。」

Y 「スティーブ・ブシェミもヘン。 一番つまらなかったのはクリストファー・ウォーケン。 『ニック・オブ・タイム』の方がずっといい役だった。 ここらでちゃんとしてもらわなきゃ」

ヒート

H 「すいません。まだ観てません。 これってホントにデ・ニーロとアル・パチーノって共演してたの?  合成って説あるじゃない?」

Y 「してるんじゃないの? 喫茶店で会ってしゃべるシーンもあるわよ。 二人のブロマイド映画っていう観方もあるみたい。 ヴァル・キルマーカッコいいっす。体も一番動くし」

H 「バットマンだもん。あっ、降りちゃったんだっけ」

Y 「ヴァル・キルマー夫婦がいいのよ。 ふたりが暗黙の内に永遠の別れをするシーンがね。 『キルトに綴る愛』に出てた人が奥さん役だと思うんだけど…」

H 「わかりました。空いてから観に行くから確認待っててね」

ジュマンジ

Y 「子役がヘタすぎ。ロビン・ウィリアムスが出てきた時はホッとしちゃった」

H 「SFXというかCGはすごいと思う。猿以外はね」

Y 「猿はへん。塗り絵みたい。『トイ・ストーリー』の方が百倍いいもの」

H 「つまんない映画なのにどうしてあんなに大ヒットしたのかしら? ファミリー向けってわけかな?」

ユージュアル・サスペクツ

H 「宣伝の勝利。宣伝にそそられて、どんなにすごいか観てやろうというお客が詰め掛けた。 でもそんなにすごかった?」

Y 「乗せられちゃうってのはあるけど。出演者が渋いよね」

H 「ラストをな〜んだ、って思っちゃう人はそれで終わりだけど、 え〜っ?って人は通っちゃうのね。」

Y 「みんなが一列に並んだポスターに、力を入れた気持ちがわかるな。宣伝も実力の一つってことね」

いつか晴れた日に

Y 「これこそボーダレス。監督はアジア人なんですから。大変いい映画でした」

H 「すっごく良かった。格調高いし」

Y 「笑っちゃうエピソードも入ってて、コメディにならなくもないよね」

H 「地位も財産もあった家族がどん底に落ちちゃうなんて」

Y 「親戚ほど残酷なものはないって。だけどそこを笑ってすごせるという、すごいユーモア・センス」

H 「優しい映画なのよね。俳優も皆よかったね」

Y 「特に主人公三姉妹。そして意外とコメディが、最近ウケてるヒュー・グラントも。 きつそうな服がおかしかった」

H 「この人、『9ヵ月』なんか出てないで古巣のロンドンに戻った方がずっといい。 オックスフォード出なのね」

Y 「そう。エマ・トンプソンはケンブリッジ」

H 「プログラムを見てると、えらく学歴の高い人ばかり出てるって感じ。 さすがイギリス演劇世界、おみそれしました。
 ところでいじわる娘のルーシー役で、久々にイモジェン・スタッブスが出てきたわね」

Y 「『サマー・ストーリー』すっごく好きなんですけど…。 どうでもいいけどルーシーってこの映画の中じゃすんごくイヤな女ね。 三姉妹の伯母もイヤだけど」

H 「自分の事しか考えてない。他人なんてどうでもいいって人よ」

Y 「配役の妙ってとこですね」

H 「アン・リー監督作品に共通することだけど、 みんな幸福で悪い人が誰もいないラストね。 だから、あの男ウィロビーだっていい人で終わらせてるじゃない」

Y 「この人自業自得って感じ。悪い人じゃないけれど、 もって生まれたどうにもとまらない性格ですか…」

H 「本能のおもむくままってやつ」

Y 「そう。だからしょうがないのよ」

H 「この男の私生児を産むベスっていう人も因果応報だったわね」

Y 「光源氏の時代から同じってこと。でも女性らしい話で、私好きだわ」

H 「私、この原作は読んでいないけど、 学生時代に同じジェーン・オースティンの『エマ』を授業で読まされたのよ。 分厚くてたいくつな話で、この作家の本はもう読まないゾ、と思ったものだけど、 こんなに面白い映画を観ちゃうと、原作も読みたくなるわ」

Y 「もしかしたら脚本がいいのかも」

H 「という事はエマ・トンプソンがいかにすごい人かということね。アカデミー脚色賞も当然」

Y 「良き伴侶捜しの話。古くさいし反対する人もいるかもしれないけれど、私はすごくいいと思う」

H 「エマ・トンプソンの役って、 『恋人たちの食卓』の呉倩蓮(ン・シンレン)につながるわね。 自分の家を切盛りして自分が何でもやっていかなきゃって思ってる。 でも実はすごく弱い人なのよ」

Y 「自分の気持ちを押さえすぎてる。 我慢しすぎているから堰をきったように泣いちゃう。 妹はいつもあ〜だこ〜だって、感情を出してるじゃない」

H 「妹の恋もよく描けてる。雨に始まって雨に終わり、 同じように男に抱えられて恋が始まるのね」

Y 「体温を感じるところから恋は生まれるって本当だと思うよ。 ところでエマ・トンプソンとヒュー・グラントのカップルってちょっと意外」

H 「と思ったでしょ。実はこの二人一歳しか違わないのでおかしくないのよ」

Y 「エマ・トンプソンが年上に見えるのかヒュー・グラントが若く見えるのか」

H 「で、エマの現在の彼氏がこの男。ウィロビー役のグレッグ・ワイズ」

Y 「ええ〜っ! 私彼女が別れたケネス・ブラナーも好きじゃないけど。 この役もっとほかの人にお願いしたかったな」

H 「濃すぎる! モミアゲが頬骨まであるのよ。でも一目惚れだったんだって」

Y 「ま、他人事ですから」

H 「この映画見所が多くて、セット、衣裳、インテリア、あらゆるジャンルに興味がある人必見ね」

Y 「あと建築も。都会の家と田舎の家のつくりが全然違う。 それから貧しい生活でも手を抜いてないところも。 ちゃんとティー・タイムがあるっていいわね」

H 「撮影も原色を使わず、柔らかい色調で絵画のようね。 ドレスもハイウエストで可愛かった。エマも綺麗に撮れてたし。 最近観た映画の中ではダントツに好き」

Y 「心が洗われるような映画。観たあとすっきりしました」

恐怖分子

Y 「これも面白かった」

H 「楊徳昌(エドワード・ヤン)の映画では一番いいのでは?  現代台湾映画の原点みたいな感じね」

Y 「キャラクターのちりばめ方が上手くて最後に点と線でつながってくる過程が面白かった」

H 「『青春神話』などはこの映画の真似?」

Y 「相当影響あるよね。全然関係なさそうな人達がうまくつながっていく。 これがまとまらないと悲惨な出来になっちゃうのよね。 一面では『フォーリング・ダウン』だな、って思った。 それと久々にコラ・ミャオを観たわ」

H 「この人『スモーク』のウェイン・ワン監督夫人なのね」

Y 「彼女がどうして夫と別れたいか、わかる。わかる。 それとあの女の子。恵まれない家庭をちょっと匂わせてて…。」

H 「くどい説明は一切なくて、あとは観客にゆだねてる」

Y 「同じ部屋を共有するとか、名前が同じだとか、 偶然が偶然を重ねて事件になっちゃう。あと、『暗恋桃花源』の三人の男優が出てた。 平行移動して?まとめて出てた。まさにタイトルどおり『恐怖分子』だったわね。 みんな秘めてるよね。爆発してしまうかもしれないって。本人が気がつかないうちに、 精神が荒廃していって、気がついたらズタズタになっていましたと」

H 「それにしてもエドワード・ヤンってお酒落ね。女の子のジーンズの裾にナイフを隠すとか」

Y 「あの子脚が長かったわね。コラ・ミャオも香港映画の時より良かったし」

H 「それって、ン・シンレンが『恋人たちの食卓』でとても良かったのと同じかも。 対する旦那さんはなんだか日本人的」

Y 「研究所でチクッたり。やなヤツ。あのチクり方は日本人的よね」

H 「この映画、日曜朝の上映って入りがいいんですって。 六本木って交通の便が悪いから」

上海ルージュ

Y 「この映画ケナした評論家へ。ちゃんと観たの?  私は大変面白かったです。香港の黒社会ものがすご〜く雑に見える。 あの微笑みの中で人を殺すという。これこそまさに黒社会よ」

H 「コン・リーは典型的なファム・ファタールね。 自分の運命に逆らわず堕ちていく女」

Y 「よかった。上手かった。あんなに農村娘ばかりやってたのに、 こんなに田舎が似合わない女を演るとは。媚の売り方もいい。撮影もよかった」

H 「一番綺麗だったのは、男の子がお腹こわしてしゃがんでいるシーンのススキの穂。 夕闇の中のススキがきれいなんだ」

Y 「ドンパチドンパチやるだけがヤクザ物じゃないのよね」

H 「そう。血の痕を見せるだけでも恐怖心は出せるのよ。 屋敷の廊下の血を追って風呂場へ。殺しの現場は見せないの」

Y 「映像で魅せる。孫淳がコン・リーと浮気するところなんかも、 わずかに開いたドアの隙間から見たり。主人公の男の子、 あまりにも少年でドンクサイのもかえってよかった」

H 「コン・リーの役作りもいい。唄や踊りも彼女でしょ。」

Y 「眉も剃り落してるし。確かに中国民族うんぬんっていうような、力強さはないけれど、 中国黒社会の本当の姿を見た感じ。“わかってるな。覚悟できてるな” って目で訴えて、次の瞬間埋められてると」

H 「コン・リーと別れたチャン・イーモウってどうなっていくのかとっても心配。 今度はン・シンレンを使うとか」

Y 「ジュリエット・ビノシュと別れたレオス・カラックスみたいになりませんように」

H 「コン・リーは世界に出ていかれる人だから。 今度ロレアルのアジア地区モデルになるのよ。アジア初の国際女優に手の届くところにいるわね」

Y 「ともかくこの映画に不満はナシ」

H 「私も」

スケッチ・オブ・ペキン

Y 「『北京好日』よりは面白い」

H 「ふ〜ん。私はこの直前に『白い風船』を観ちゃったので。 同じ素人を使って映画を撮っているんだけど、あっちの方がず〜っと自然で上手いもの」

Y 「別にこれって話はない映画よね」

H 「トランプ詐欺でつかまった男の人も演技なんですって。 それ聞いたら、な〜んだって感じ」

Y 「笑えたけど、何ですか?と言われたら困っちゃう。北京の風景とか、 中国の雰囲気を少しは味わえた気もするけど…」

H 「いっそドキュメンタリーとして撮った方が面白かったと思うよ。なんか中途半端なのよね」

Y 「これって北京の現状なのかな。北京の常識は東京と全く違う。 それだけはよくわかりました。よかったのは、犬のエピソードで子供が泣きそうになるところ」

H 「この親も演技か。って観てたけどね」

Y 「でも子供は本当に泣きそうだったよ。 あと、北京の男性は背が高い。これはどうでもいいことか…」

トワイライト・ランデブー/バタフライ・ラバーズ

Y 「私は『バタフライ〜』の方が断然いいと思う」

H 「でもラストのSFXがねえ」

Y 「でも蝶を飛ばすところとか良かったでしょ。 それから呉家麗(キャリーン・ン)彼女いいでしょう。」

H 「『眺めのいい部屋』のマギー・スミスみたいね。 でも自分の少女時代と娘を重ね合わそうとしないの。 かつての恋人が現われるまでは口にも顔にも出さない」

Y 「それは、家柄のためじゃない? 封建社会の中でがんじがらめにされて、 息苦しくなってしまう人達の話なのよ」

H 「前半の青春してるのはいいんだけど」

Y 「血を吐くところからダメ? 悪いけど、ニッキー・ウーってあんまり演技上手くないよね」

H 「綺麗な顔はしてるけど」

Y 「二人の初恋物語は微笑ましかった。 私は泣けといわんばかりの悲恋物語に賞でもあげたい。『トワイライト〜』 の行ったり来たりするのは何なのよ。訳わからない。 こっちこそラストしつこかったゾ。いきなりニッキー・ウーの目が大きくなるのは何?」

H 「この頃ってツイ・ハークの低迷期って気がするね。 『青蛇転生』あたりから。 『バタフライ〜』って『青蛇〜』の影響から抜けてないじゃない。 あのラスト」

Y 「『青蛇〜』ってなんであんなにつまらなかったんだろう。 ツイ・ハークはトレンド・メーカーだったはずなのに。そう言えばこの人リメイクが多い。 『刀』もリメイクものでしょ。ま、とにかくツイ・ハーク頑張れというところでしょうか」

H 「これって『ハル』で蘇った森田芳光に通じるような」

これから期待の俳優達

Y 「『リトル・ジャイアンツ』(V)にも出てた『キャスパー』の男の子。 美少年よ。DEVON SAWA ブラッド・レンフロを少しやわらかくしたタイプかな」

H 「おばけになる前の顔の子ね。私、『おかえり』の寺田進って結構好き。『白い嵐』の少年達は?」

Y 「スコット・ウルフは背が小さいかな。そう、チャズ・パルミンテリ。オジさまだけど。 『狼たちの街』にも出てるけど『悪魔のような女』じゃイザベル・アジャーニとシャロン・ストーンの相手役」

H 「女優はケイト・ウィンスレット。まだ二十歳ぐらいでしょ。綺麗な人ね。 『乙女の祈り』もよかったし。『上海ルージュ』の子役二人も可愛かったよね」

Y 「あの女の子すごく可愛い。でも『上海ルージュ』じゃなんといっても孫淳です、 私は中国の森雅之って勝手に呼んでます。 それから公開は先だけど『夜半歌声』の黄磊くんも要チェック。美しい…」

H 「最後に忘れちゃいけないのが、周星馳(チャウ・シンチー)。 やっと『チャイニーズ・オデッセイ』の公開も決まったし」

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