女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
33号   pp. 50 -- 59
劇場で公開してほしい! せめてビデオ化してほしい!

香港映画(4)



「こんな香港映画が日本で劇場公開されればいいのに、せめてビデオ化されればいいのに」 という声がある中、日本で劇場公開される香港映画はほんの少し。それでもレイトショーで 公開されるのはいいのだけれど、東京より遠方に住む人たちや遅い時間帯に劇場に 足を運べない人には不都合なのが現状のようです。

 ということで、今回もこのコーナーを設けました。

 次号ではもっと多くの方々の参加をと願っています。どうぞお気軽に原稿をお寄せ下さい。

地畑寧子









『亜州警察之高壓線』

記…知野二郎

準備中





『父子武状元』(國語)
『給父/巴父/巴的信』(粤語)

記…知野二郎

準備中

おまけ

 この作品は、今年二月に公開され、高い興行成績をあげています。

 前・前々で紹介した『中南海保金』同様、 クンフーアクションを離れたところでも李連杰の魅力に浸れる作品として 特筆されると思います。

 『中南海保金』では、任務遂行のために溢れる恋情を押し殺す ストイックさが新鮮だった彼ですが、この作品では、家族愛(潜入捜査をする中で フラッシュバックする妻子の姿が効果的)と任務の中で揺れる一人の父親の苦渋を 見事に演じきっています。

 彼の息子役を演じた謝苗くんは、『ゴッドギャンブラー完結篇』にも出演していた、 利発で芯が強そうな丸顔の、演技も達者な売れっ子子役です。子役にありがちな 嫌味が全然ないのもマル。すでに出演作もあり、飛び抜けたクンフー技もかつての李 連杰を思わせるようで前途有望な新人です。

 方刑事役の梅艶芳(アニタ・ムイ)も彼女にしか出せない情に厚い姉御肌の持味が満開で まさに最適。一方、李連杰の妻を演じた病弱で心優しい母親を演じた女優さんも 清純でかぼそい感じはするものの、芯の強い大陸の女性を象徴していて、好演しています。 悪役を含め、この感動作のよさはまずキャスティングが絶妙だったことにあると思います。

 悪が極悪であるほど善が生きてくるベーシックなストーリー、浪花節にならない程度の 人情や愛情で泣かせどころのツボを押さえた展開は、監督の力量といえると思います。

 最後に、廬恵光(ロウ・ホイクン)は、『酔拳II』でかなり重要なパートを演じて 最近日本でも注目されてきた人のようですが、『プロジェクトA2』や 『プロジェクト・イーグル』など、必ずといっていいほど昔からジャッキー・チェンの 映画に出演している人です。今年の金像奬でもプレゼンターとして参加していたようです。

 長身で端正な容姿なので女性でも注目している人もチラホラと。映画の他にも葉倩文 (サリー・イップ)のMTV「女人的弱點」「離開情人的日子」にも出演し、 アクションシーンとは全然違ったロマンチックなシーンを助演しているところも魅力です。

(地畑)






『非常探偵』

記…石川玲子

94年/監督・ 方令正(エディ・フォン)
出演・ 張學友(ジャッキー・チョン)
周海媚(エイミー・チョウ)
范暁萓
泰豪

 今年の香港国際映画祭で上映され、第十四回香港電影金像奬の十大華語片の一本に 選ばれたこの作品は、一風変わった探偵ものに仕上がっています。

 監督の方令正(エディ・フォン)は、一九五四年生まれのベテラン監督で、 他の作品に梅艶芳(アニタ・ムイ)劉徳華(アンディ・ラウ)主演の『川島芳子』(90) 周潤發(チョウ・ユンファ)主演の『郁達夫傳奇』(85)などがあります。この二本は 未見なのですが、タイトルから想像して、実録もの、伝記大河ドラマといった感じで、 この『非常探偵』のちょっとユーモラスな軽いタッチとはかけ離れたイメージなので、 意外な気がします。この作品は、ブルーを基調にした王家衛(ウオン・カーウァイ)風の 洒落た映像がとても魅力的なので、機会があれば前述の二作品も観てみたいと思います。

 ストーリーは、北京から来た超能力を持つ少女と私立探偵をめぐるサスペンス… といった、ごくありふれたものですが、登場人物が生き生きと描かれていて魅力的な 作品になっています。張學友(ジャッキー・チョン)扮する主人公の探偵は、ビール瓶を 手放さないアル中で、すべてにおいて無気力で情けない男なのですが、事件に巻き込まれ、 不本意ながら例の少女と関わっていくうちに、少女を守る意欲が湧きはじめ、 それによって別居中の妻子との絆を取り戻していく様子が自然に描かれていて、 思わず声援を送りたくなります。

 張學友のナイーブな演技もとてもよく、いつもの彼とはひと味違った、大人の男の 魅力を感じさせ、とてもセクシーで素敵です。

 一方、とんでもない言動で探偵を振り回す少女役の范暁萓も好演で、強がって陽気に 振舞いながらも、本当は、孤独で淋しがり屋の、愛情に飢えた少女をとても可愛らしく 表現しています。あまり見かけない女優さんなので、私にはとても新鮮でした。 脇を固める俳優さんたちも個性的で、とくに少女を付け狙うゲイ風の男優さん (残念ながら名前が分からない)が怪演で、一度みたら忘れられない強烈な印象を 残しています。

 劇中に流れる音楽センスもよく、BGMにはジャズ風の曲、挿入歌はすべて張學友が歌い、 今年の金像奬の最佳電影歌曲にノミネートされています。(曲名は「當愛變成習慣」) 私はこの歌がとても好きなので、『金枝玉葉』で張國榮(レスリー・チョン)が 歌っていた「追」に敗れたのが、ちょっと残念です。

 發仔や華仔ほど知名度がないためか、張學友の映画はあまり日本に紹介されませんが、 この作品以外にも警察と黒社会の間で苦悩する潜入捜査官役を好演して、金像奬 最佳男主角(最優秀主演男優賞)にノミネートされた『新邊緑人』や、映像の美しさ (色彩がとてもきれい)と張學友の艶っぽさがため息もの(私だけ?)の 『太子伝説』(九三年 共演・劉嘉玲/カリーナ・ラウ、關之琳/ロザムンド・クァン) など、とてもいい作品もたくさんあるので、ぜひ多くの方に見ていただきたいと思います。




『新邊縁人』

記…地畑寧子

94年/監督・ 劉偉強
出演・ 張學友(ジャッキー・チョン)
梁家輝(レオン・カーファイ)
呉倩蓮(ン・シンリン)
張耀揚(ロイ・チョン)
成奎安
黎姿

 石川さんが書いて下さったようにこの作品は、今年の金像奬で主演の張學友 (ジャッキー・チョン)が、主演男優賞にノミネートされた作品です。

 囮捜査官を題材にした映画やTVドラマはアメリカ映画にたびたび登場しますが、 この作品は、主演の張學友の熱演と助演陣の好演もあって、囮捜査官の苦悩(静)と 捜査を進めていくアクションシーン(動)がほどよくブレンドされていて、 よくできたアメリカの刑事ものにもひけをとらない作品です。

 張學友(ジャッキー・チョン)は、『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー2』や 『いますぐ抱きしめたい』(金像奬最優秀助演男優賞受賞)のように、主演を くうような助演で非常に光る俳優だと認識していた私ですが、この作品で彼が主役を はっても一級の俳優であることを改めて認識した次第です。

 囮捜査官は実際は刑事でありながら、身分を隠して優秀な犯罪組織の一員にも ならなければならないという点で、精神的に苦痛を伴うのは自然の理。この作品での 張學友は、そんな微妙な心理描写を緻密な演技で表現しています。

 危険な潜入捜査の成果を自分の出世の功績にしようと彼に苛酷な捜査を押しつけ精 神的に追い詰める上司、そして日ごと心が離れていってしまう恋人(黎姿が演じています) と、張學友のいかんともしがたい立場は、観る側を息のつまるような思いにさせられます。

 一方、潜入した組のトップ(張耀揚/ロイ・チョン)は、張学友を重用する男気の ある人物で、ある意味では潜入に成功しているわけですが、それだけに彼を裏切らなければ ならない張學友は、苦しい立場に立たされるわけです。張耀揚の妹役の呉倩蓮 (ン・シンリン)も兄を困らせる突拍子もない娘を好演していて、張耀揚と呉倩蓮の 兄妹愛、呉倩蓮と張學友の静かな恋情が、ハードなメインストーリーを和らげていて 効果的です。

 しかし、これだけだとおきまりの刑事ものに終わってしまいますが、ここで この作品の膨らみをもたせる役で登場するのが、梁家輝(レオン・カーファイ)。 かつて張學友と同じ立場にあった彼は、刑事をすてチンピラに身を落とした男で、結果、 妻子にも去られ、唯一のいきがいは、たまに別れたわが子に会うことだけ。しかし妻子は、 彼に告げることなく移住していってしまう。人生踏んだりけったりの彼が、つねに明るく お調子ものを演じれば演じるほど、卑屈さの裏返しとも思えてきて、捜査の中の一つの 道具でしかない囮捜査官の悲哀が、ひしひしと伝わってきます。

 当の張學友も自らが刑事であることを告げられないばかりにヤクザの一味として 拘束され、他の囮捜査官が殺されていく姿をみすみす見過ごすことになってしまいます。 (この緊迫したシーンでの張學友の絶叫ぶりが泣かせます)

 また、ヤクザ役のおなじみの成奎安が、警察本部と囮捜査官の中継ぎの刑事を 力演しているのも見逃せません。彼が部下と共にヤクザの罠にはまって殉職していくシーンは、 この作品の一つの見所ともいえるでしょう。

 香港映画では、八十年代から今日まで数々の刑事アクション映画が製作されていますが、 ともすれば陳腐になりがちなこの題材を囮捜査官の心理描写を細かく描くことで、 見応えのあるドラマにしたことは大きな功績だと思います。

 日本映画も使い古したようなやくざと警察の抗争ばかりを描いていないで、 この作品ぐらいのドラマで観せる作品を製作してほしいと思います。






『第六感奇緑 人魚傳説』

記…地畑寧子

94年/監督・ 羅文(ノーマン・ロウ)
出演・ 鄭伊健(ディオール・チェン)
鍾麗[糸是](クリスティ・チョン)
麥家?L(マギー・マック)
金城武(カネシロタケシ)
鄭則士(ケント・チェン)
劉兆銘
馮蔚衡
黄子華

 この映画はタイトルからもわかる通り、84年アメリカ映画の名作『スプラッシュ』 を学園版にアレンジした作品です。

 『スプラッシュ』といえば、近年アカデミー賞主演男優賞を二年連続して受賞した、 トム・ハンクスの出世作。そして、人魚役を演じたダリル・ハンナもこの作品で 一躍トップ女優入りを果たし、さらに昨年逝去したジョン・キャンディ(『クール・ ランニング』のコーチ役でおなじみ)が、トム・ハンクスの良き兄役で注目され、 監督のロン・ハワードもその手腕が認められた作品として有名です。

 『第六感奇緑 人魚伝説』は、この『スプラッシュ』のエッセンスを十分に活かしながら、 好感のもてる青春映画に仕上がっていて、お薦めです。中国系の人たちが口々にいう、 恋愛は緑だということをまさになぞったストーリーだということも、『スプラッシュ』 に題材を求めた点なのかもしれません。

 主演の中で特に注目したいのが、人魚役の鍾麗[糸是](クリスティ・チョン)。 もとネタのダリル・ハンナに負けないくらい足の長い彼女は、尾ひれが似合っていて美そのもの。 またどことなく異邦人然としている彼女の魅力が、人間界で戸惑う人魚の言動に 反映されていて、まさにベストキャスティングといえます。

 一方、人魚に恋される男性を演じているのが鄭伊健(ディオール・チェン)。 もとネタでは、トム・ハンクスが演じていた役ですが、ここではいささか頼りない 体育教師が役どころ。トム・ハンクスよりコメディパートが押さえられている分、鄭伊健の 爽やかな持味が前面に押し出されています。特に中盤からラストまでの彼と鍾麗[糸是]が 交わす純粋な恋愛シーンは、微笑ましくも切なく胸に迫ってきます。

 この二人の紆余曲折を経る恋路に絡んでくるのが、生徒役の麥家?L(マギー・マック) と金城武(カネシロタケシ)。麥家?Lというステディな恋人がいながら、人を疑うことを 知らないピュアな心を持つ鍾麗[糸是]に心惹かれていく金城武。一方、自分が クラスの中心であることに慣れてしまっているために才色兼備な鍾麗[糸是]の登場で、 周囲の目が自分から離れていくことに苛立ち、しかも恋人までが鍾麗[糸是]に 惹かれていることに激しいジェラシーを覚える麥家i^L。

 誰一人として悪い人間はいないのだけれど、嫉妬とお互いを思う気持ちが交錯して、 四角関係に陥ってしまう四人。素直さが目立つ主演の二人にあい対して、麥家i^Lと 金城武は、複雑な思いに駆られ素直になれない恋人同士を好演して、作品に大貢献しています。

 この作品の中でとんでもなく笑える点といえば、人魚を捕らえようと結託する 鄭則士(ケント・チェン)をはじめとするオマヌケ四人組。もとネタでは、人魚を 捕らえようと躍起になる人物が持論を証明しようとする海洋学者だったのに、こちらの 四人組は、捕らえた人魚を売り飛ばして一攫千金を夢見る人たち。いかにも 香港映画らしいキャラクター設定で笑えるけれど、こんな輩には必ず天罰が下るもので、 ラストのオチできっちり決めてあるのも痛快です。

 ついでにもう一つ香港映画らしいところといえば、鄭伊健の母親役でチョイ出の馮蔚衡。 彼女は『我和春天有個約會』でクラブ歌手の一人を演じていた人で、なぜか この映画の中で『我和春天有個約會』の持ち歌を自宅のカラオケで歌いまくっています。 「ママは昔有名な歌手だったのよ」などという設定なんでしょうが、 ヒット作からすばやくパクる香港映画のカルトな笑いは、こんなところにも存在してます。

 ちなみにこの作品では、ヒット曲が効果的に使用されていて、金城武の「失約」は もとより、王靖[雨/文](フェイ・ウオン)の「天使」と「天空」が使われています。特に 「天空」は、埠頭で見送る鄭伊健たちに別れを告げて、鍾麗[糸是]が 海に帰っていくシーンにぴったりで感動を盛り上げてくれます。






青春ものをもう一本。

『梁祝』

記…地畑寧子

94年/監督・ 徐克(ツイ・ハーク)
出演・ 呉奇隆(ニッキー・ウー)
楊采[女尼](チャーリー・ヤン)
呉家麗(キャリー・ン)
徐錦江(エルヴィス・ツイ)ほか

 この作品は、実在した梁山泊という青年と祝英台という女性の悲哀を題材にした 古悲劇(時代劇)です。この二人の物語は、中国語圏では恋愛小説としてことに 有名らしく、すでに六十年台に『梁山泊與祝英台』(梁山泊と祝英台)というタイトルで 映画化されています。

 香港映画の流れを変えた人物としていの一番に名前があがる徐克(ツイ・ハーク) ですが、近年一時のパワーが衰えたのか、とんとヒット作がないような。そんな中で この映画は、見応えのある作品として、評価されて当然だと思います(今年の金像奬には、 監督賞をはじめ五部門にノミネートされていたようです)。

 この作品のいいところといえば、やはり主演のふたり。呉奇隆(ニッキー・ウー) 楊采[女尼](チャーリー・ヤン)のちょっと頼りなげな初々しさが、見事に梁山泊と 祝英台にマッチしていて、彼らをキャスティングした人には拍手を贈りたいほどです。 特に楊采[女尼](チャーリー・ヤン)は、恋を知って幸福感にひたる少女の部分と 結ばれぬ恋に身をやつす大人の女性の部分とを、茶目っ気いっぱいの可愛らしさと シリアスな演技で演じわけていて、彼女の才能を見た思いがしました。

 でも、劇中の歌が…。作品にあったいい歌なんですけど、楊小姐の歌があまり 上手くないのが、残念。(でも彼女ってヒット曲もある歌手でもあるし、聞いたところでは けっこう歌唱力があるそうなんですが)せっかくのデュエットなのにと思ったけれど、 相方の呉先生も自分のパートに一生懸命なのか、彼女のサポートまで手が回らないっていう感じで。 この作品で難をいえばこの点です。

 この二人のほかで目立っていたのが、今年の金像奬でこの作品の助演で ノミネートされていた呉家麗(キャリー・ン)。彼女の役どころは、楊采[女尼] (チャーリー・ヤン)扮する祝英台の母親。どう考えてもふたりは十歳も違わないはずなのに、 呉家麗の堂々たる母親ぶりには、とにかくびっくり。演技派女優たる彼女の 面目躍如といったところでしょう。

 かつて男性ばかりの私塾に、女であることを隠して学問に励んだ彼女は、 同窓の男性と恋に落ち、その思いを振り切った女性。彼女と全く同じ境遇に陥った 我が娘にも、自分と同じく、梁山泊への愛情を断ち切るように強要しようとする、 いわば悲恋の作り主。しかし、そこには家柄や世間体といった封建的な時代背景が あるわけで、泣き叫ぶ娘と娘・祝英台への思いを真摯に訴え続ける梁山泊の狭間で 苦渋する母親役を、呉家麗は迫力ある演技で魅せてくれています。

 前半の梁山泊と祝英台のホノボノした語らい、中盤に訪れる二人の別れ(山中で 二人が別れを惜しんでなかなか離れないシーンは印象的です)、終盤の梁山泊の死と 彼に導かれるように土に埋もれていく祝英台と、見せ場はふんだんにあります。

 また、若い二人の逢瀬を傍らで見守り助ける祝英台のお付きの人たちの心根の優しさや、 かつての祝英台の母の恋人だった僧侶が、二人を見守り弔うシーンなど、 悲恋を盛り上げる効果は十分すぎるほどです。






今回の締めはこの作品
☆★君は『青春火花』を観たか★☆
『サインはV』『アタックNO.1』を見て育った人には、感涙もののこの一作

『青春火花』

記…地畑寧子

94年/監督・ 銭永強
出演・ 何超儀
樊亦敏
劉暁[丹彡]
陳少霞
徐濠榮
爾冬陞(イー・トンシン)

 とにかくタイトルがすごい。かなりクサそ〜と思いながらも、「アタックNO.1」 を暗記するほど熱狂して観ていた私としては、女学生たちのバレーボールの ユニフォーム姿の集合写真(後列にはもちろんコーチ役の爾冬陞/イー・トンシンが 写っている)をみるや即刻観てしまった。

 オープニングのバレーボールのコートと重なる音楽は、ほとんど「サインはV」。 どひぇーと思いながら英語タイトルを見ると「VICTORY」そのまま。

 年がいもなくワクワクしていると、なんとよくできたスポ根映画。今頃なんで あきらかに「サインはV」をベースにしたこの作品が作られたのかは不明だけれど、 昨年の本国香港での興行成績は、あまり振るわなかったらしい。やはり香港でも 若人たちには、正統派スポ根映画は受け入れられなかったのだろうかと心配してしまう、 今日このごろである。

 日本でもこの手の映画は(テレビでも)クサイとかいわれて絶対作られない 映画だろうから、東京国際ファンタスティック映画祭あたりで、盛り上がりの材料として ぜひ提案してみたいのだが。

 と、ストーリーはいたって簡単。弱小女子バレーボールチームが強豪に大敗負けしたあと、 チームの建直しを計り、ラスト、リターンマッチでしかもぎりぎりで例の強豪に勝つといったもの。 その間に「青春」よろしく彼女たちの友情やらほのかな恋愛やら、悩みやらを 織り混ぜてあってけっこうホロリとくる(だが、途中に流れる黎瑞恩/ビビアン・ライ らしき声で歌われている青春なんとかいう歌はなんとかしてほしいくらい、 青春まっしぐらで、オバサンにはついていけないのである)。

 たしかに女生徒たちやコーチ、日和見な校長や副校長など人物設定もかなり マンガチックではある。

 とはいえ、主役の女優陣たちもかなりバレーボールの練習をしたようで、キマっている。 しかも人間業とは思えないシーンは、ちゃんと特殊撮影で処理してあるし、 飽きさせない展開は、ほんとあっぱれである。それに彼女たちがナヨナヨせずに自ら 廃部の危機を救おうと立ち上がるシーンもなかなかしっかりしていて好感がもてる。

 女生徒を演じる女優は日本ではあまり知られていない人たちばかりだが、 キャプテンの良き友人役で『アンディ・ラウのスター伝説(天長地久)』で アンディ・ラウの娘役を演じていた徐濠榮(彼女は『流氓医生』でガンで死ぬ女性を 好演していた)、アタッカー役で『いつも心のなかに(槍銭夫妻)』でマイケル・ホイの 嫁いでいく娘役を、『天與地』でアンディ・ラウの妻役を演じていた陳少霞、その他には 『晩九朝五』で陳小春(ジャーダン・チン)と共演していた張睿玲などが出演している。

 そんななかで一番オトクな?ボケ役を演じているのが新任コーチ役の爾冬陞 (イー・トンシン)。美人に囲まれての唯一の男性で、まるで『プリティ・リーグ』 のトム・ハンクスみたいだ!

 彼は大ヒット作『つきせぬ想い(新不了情)』の監督として今や有名監督入りしている エライ人だが、ここでは俳優として出演。(もともとは俳優出身なんだから当然か) 虫の観察に熱心な生物科の教師で、なんともたよりない。おまけに運動神経ゼロで 廃部に追い込まれそうになる女子バレーボールチームのお飾りコーチ。彼に思慕を よせるキャプテンにバレーボールの手ほどきをうけるが、からっきし受けられずに 腕を腫らしてしまう軟弱な人。(昨年『つきせぬ想い(新不了情)』の公開で来日した時に 見た落ち着いた知的なハンサムぶりを思い返すと、そのギャップに思わず笑いが こみあげてくるほど)

 しかし、コーチとしての意識が芽生えてきたころから、がぜん頑張り出す彼。 さっきまでルールブック片手に女生徒たちの練習をみていた彼が、いきなり新兵器 (といっても時間差攻撃のようなもの)を編み出す天外ぶりは、あれぇ?の一言だが、 波にのるチームの熱気に飲まれてそんな矛盾さえも忘れてしまう。

 まさに香港映画のなんでもあり、パワーで押しまくる映画のパターンではあるけれど、 こんな元気のいい女の子たちを見ていると観ている方まで勇気がわいてくるから 不思議である。






以上いかがでしたか。
 今回は、このコーナーでお馴染みになった知野二郎さん、 投稿していただいた石川玲子さんに参加していただきました。




 香港映画に限らず、台湾や中国映画についても原稿を受け付けておりますので、 ぜひご参加下さい。(地畑)



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