女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
33号   (1995 June)   pp. 2 -- 10


特集・しねまとーく


『Love Letter』
『レオン』
『フォレスト・ガンプ』


『Love Letter』

とーく参加者 佐藤  出海  外山 松永 
関口  志々目 地畑  宮崎 


二分された意見

地畑「じゃ、『ラブレター』やります」

出海「まず、佐藤さんどうぞ」

佐藤「見たわよ、あんなの(大笑)」

宮崎「良かったんじゃないの」

佐藤「豊川さんが好きじゃないもん別に。 小樽のあの家と同じようなところに住んでいる友達がいて、そういう景色は 良かったんだけど」

宮崎「豊川さんの映画じゃないでしょ」

地畑「話、自体はどう? そっちが大事よ」

佐藤「うーん、それぐらいしかないのよ。 若い子の話で、なんか大林監督の映画みたい。それに、全体的にああいうのは私、 だめなの。若い子が感傷的に手紙のやりとりをしてるだけで映画ができちゃうなんて、 ついていけない。世界には苛酷な状況で生きている若者もたくさんいるっていうのに」

外山「あのシナリオってもっと大人っぽくできたと 思うのに、なんでヒロインが中山美穂なのかなって思った。もっと大人が演ったら よかったのに」

佐藤「そう、それもあったし、中学生じゃなくて 高校生ぐらいのほうがもっとリアリティがあったんじゃない」

外山「中学時代の回想シーンは喜劇にしようしようと しているんだけど、うまく成功していないわね。あのシナリオだったら大人っぽく作れば、 もっといいものができると思うんだけど」

地畑「ラストシーン、いいでしょ」

外山「そーお? じーんと来よう来ようと思っても 来なかったわ(笑)」



シナリオがよくできている

出海「では、反対の意見の方」

松永「あれは思春期の頃の、自分でも気がつかなかった 恋愛でしょ。男の子は想っているんだけど、うまく表現できなくてという、 そういう状況を主題にしていた。それと今の中山美穂の状況との対比。 亡くなった婚約者は登場しないわけだから、想像だけで中学生の頃の婚約者の 姿を探っていく物語で、あれを大人版にすると全然違うものになってしまうと思う。 それはそれで脚本がいいからいいものができるかもしれないけど、この作品は これで成功していると思う」

佐藤「思春期のものなのね」

関口「中学生の頃ってわりと女の子の方が大人っぽいのよね、 それに男の子の方が子供っぽいことが多いでしょ。でもあの男の子はわりと醒めてる。 皆とも群れないし。あの年代の男の子だったら好きだよって言っちゃうような気がするけど、 そういうふうにしないで最後のあの絵に託すっていう、全部見ないとわからない作り方が とってもいい。うまくできていると思った」

宮崎「私もそう思った」

関口「亡くなってしまった婚約者の大人になった姿が 出なかったから、同級生だった彼が大人になっていく過程や、どういう風に死んでいったか というのを小樽の藤井樹(いつき)ちゃんは知らないでしょ。それに樹ちゃんは すごく生き生きしてさっぱりしているのに、もうひとりの渡辺博子は(中山美穂が一人 二役で演じている)いじいじしていて女性の二面性というか表裏一体みたいな表現を していたよね。推理小説仕立てで、二重、三重の構造になっていて、脚本がすごく うまいなって思った」

地畑「同感」

宮崎「三回忌のシーンの後、すぐ樹ちゃんが出てきて、 どっちも雪景色だったでしょ。同一人物かと思った」

地畑「ラストの決めがうまかった。カードを 裏返したら樹ちゃんの顔が書いてあって、ほんとは好きだったんだって分かるところなんか。 画も綺麗だったし良かったと思う。だけど、佐藤さんや外山さんが言うこともわかる。 やっぱり題材が少女チックなんだよね」

外山「そうなの」

地畑「私、監督とも、豊川さんとも同年代なんだけど、 私ぐらいの年代で感動できる人とできない人がいると思うの。結婚の経験がある人とか、 現実見ちゃった人は、あんな所まで行って昔の恋人のことを忘れろなんて言う男性 いるかななんて疑問に思っちゃう。まあ映画だからいいんだけど」

松永「でも、これ全体がメルヘンでしょ」

出海「あなたたちの年代でもついていけないの。 たとえばどこ?」

地畑「確かに中学校の頃を回想することはあっても、 ちょっとむずがゆい感じかな。パーフェクトには感動できない」

志々目「出てくる人が皆いい人すぎて、純粋で、 そんなはずないな、現実ばなれしているって思うところがあった」

関口「それねー、今の映画の傾向。もう行き着くところまで 行っちゃったじゃない、リアリズムっていうのに」

地畑「それは違うんじゃない」

出海「そういう風に定義しちゃうとつまんない」

松永「この監督が求めているのはそこにあるんじゃない。 だって他の作品もああいう感じでしょ、メルヘンチックで。『夏至物語』っていう、 ちょっと変なリアリズムが感じられる作品もあるけど」

地畑「この作品の少女チックな面って、男の人の 中に根ざしているって感じがしてならない」

松永「大林監督が好きな人と、嫌いな人に分かれるのと 同じで、はっきり二分する映画ね」

地畑「映像が綺麗なのは良かったけど、小樽とか字幕が みんなローマ字だったでしょ。びっくりしちゃった」

関口「カンヌ狙いで作った映画だから」

出海「そういうのやる人じゃないと思う」

関口「グローバルになってきたからね」

外山「グローバルって言うにはちょっと」

松永「記号として出している気がする」

宮崎「私も違和感があった。なんで全部ローマ字なのかなって」

松永「他の作品も全部そうよ。あれだけじゃないもの」



ラストがうまい!

宮崎「私は登山が趣味なので、彼が遭難死して彼女が 彼のことを忘れきれないっていう気持ちわかるような気がする。私の山仲間にも 谷川岳で彼が遭難死した人がいて、いつまでもそれを引きずっていたから。 最後のシーンで彼との思い出をふっきるために行った所、たぶんあのバックの山は 八ヶ岳だと思うけど、遭難死したっていうわりにはあの山小屋って、高原のロッジっていう 感じでちょっと雰囲気違うなっていう気がした。だけど、彼と同じ名前の女性への 間違いから始まった手紙のやりとりから、推理小説仕立てで話の展開をしていく手法は 面白かった」

出海「私も映画自体はとっても面白かったの。 それで佐藤さんの話を聞いて驚いている。私もどちらかというと現実的に 映画を見るんだけど、この監督の場合はそういう現実感で見ちゃうと全然異質なのよね。 亡くなった人を人間って忘れられない、会いたくても会えない。亡くなった人への そんな切ない気持ちを表わした映画だと思うの。それと小樽の初恋の女性と自分が 似てた、似てたから彼は私のことを好きになったんだっていうところ、あそこは良かった」

地畑「騙されてましたっていうところ?」

出海「そう、人のことを好きになるっていうのはどうしてって、 理屈で言えないんだけど、そういうセリフの中に言いあててるところがある…」

宮崎「はめ込まれているのよね」

出海「彼のはTVの作品も見ているから、こういうのが できるんじゃないかっていうイメージはあったんだけど、ただ画面が揺れていたのが気になった。 手持ちにしたからそうなのか、わざとそうしたのか。TVの画面だと気にならないけど、 映画では画面が大きいので最初見づらかった。後になったらドキュメンタリータッチに したかったのかなと思った。そういう技術的なことは別として、ガラス細工みたいな 神経の細さっていうのがあの映画の中にずっと出ていて感動した。それと、中学校の中の シーンで図書館のあのカーテンの揺れた所とかとってもリアルで、自分の学生時代を 思い出した。でも彼女が最後に言った『お元気ですか、私は元気です』にはちょっと 参ったけど」

地畑「『お引っ越し』のラストみたい」

出海「彼があの小樽の子が好きだったというのを どうやって証明するのかなって思っていたら、後輩たちが来たから、これでなんかあるなと」

佐藤「ラブレターが入ってるかと思った」

宮崎「私もそこ、うまいなって思った」

佐藤「最後のあの絵っていうのは意外だったから、 あそこはグッと来たのよね。私も高校時代、図書館のカードに名前を残したりしたから、 監督も同じようなことやってたのかなーって(笑)、思った」

地畑「作品はストーリーも、オチもいいし、小樽と 神戸っていうオシャレな街をガラスで繋げていてうまいなと思った」

出海「年代に関係なく受け入られるか受け入られないか、 好き嫌いが分かれる物だから、少なくとも個性が強くて作家性の強い監督だってことよね」

宮崎「私はこの映画を見て、日本映画も捨てたもんじゃ ないなって思った」

関口「今年の賞レースには上るでしょう」

宮崎「私はベストテンに入れたいな」

佐藤「えー、ほんと!」

地畑「まあいいんだけど、日本映画もみんな、 この映画くらいの高レベルで競ってほしい」



中山美穂演じる女性像は?

佐藤「中山美穂の演技ってうまいの?」

宮崎「私は、中山美穂の演技には興味がない。 あくまで話の展開の仕方とか、伏線の入れ方がいいなって思った」

関口「死んでしまった恋人への思いをふっきろうと している渡辺博子と、反対に中学時代、自分と同姓同名の藤井樹という名前で 何かと話題にされ、煩わしいと思っていた男の子が自分のことを好きだったということを 初めて知ったという対比の面白さだよね」

地畑「でも最後、なんで彼に連れられて叫びに来ているんだろうなって思った。 あの女の人もう二十幾つかなんでしょ。昔の男のことを忘れられないって言うのも わかる気もするけど」

松永「山で遭難したっていうことは遺体が出ていないのかも 知れないわけよ。 だから、もしかしたら生きて還って来るかもしれないっていう想いがあるんじゃない。 そういう意味では彼の死を認めたくないのよ」

出海「それは比喩かもしれないわよ。恋人に限らず 好きな人が死んだ時は認めたくないでしょ。でもそれを認めなくちゃいけない。 現実に立ち向かわなくてはいけないっていうことをこの映画で描いたのかもしれない」

松永「中山美穂が一人二役でしょ。だから人物設定が 生きていると思うの。小樽の樹を違う人が演じていたら、神戸の渡辺博子がいじいじした 魅力のない人で終わっちゃうけど、瓜二つのまったく性格の違う二人を出すことで 対比させているから、中山美穂が全体としていいわけよね」

出海「しかも見えない男がいるでしょ。博子の婚約者だった男が 実際はどんな男だったか知りたくなる」

地畑「繋ぎ役になってるわけよね」

関口「豊川さんと二人で小樽に行くでしょう。で、 樹ちゃんとすれ違っても目を一回合わせるだけで一言も言葉を交わさない」

地畑「でも、あれって外国映画によく出てくる」

関口「『ふたりのベロニカ』と同じなの。 すごくあそこがいいなと思った。片方が声を掛けて振り返るけどわからないまま 行ってしまうでしょ」

出海「私は対面するのかと思ったの。それで、 なんて似てるの私たち(笑)」

松永「脚本で素敵だなって思ったのは、同姓同名っていう 設定で、男の子の樹君が図書カードにいっぱい名前を書くのは、『もしかして自分の 名前でなくてあなたの名前を書いていたんじゃないかと思います』って渡辺博子が言うところが あるでしょ。そこで樹ちゃんはそうかもしれないってハッとするわけね。 うーん、うまいなって思った」

地畑「伏線の入れ方がうまい。名前呼ばれて振り返ったシーンとか うまいと思った。でも、気になるのは監督の趣味なんだよね、あの少女チックなの」

出海「監督と感性が合わないのね。人物設定も デフォルメされてるっていうか、豊川さんだって現実にいたら変だし、監督が思う いい男っていうのをそこに込めているわけだしね」

地畑「中山美穂の設定もそうだと思う」



豊川さんが素敵!VS全然魅力がない!

松永「豊川さんも良かったよね」

宮崎「私は豊川さんの関西弁に違和感があった。本来、 関西出身なんだからネイティブなんだけど」

関口「もうけ役だね。女性の憧れっていうか、 あれだけ心が広くて待っててくれる人、なかなかいない」

出海「豊川さん、いいわー(笑)」

宮崎「豊川さんが出ているから見ようと思ったんだけど、 この映画の豊川さんはあまり好きじゃない。待つ男っていう役柄はお得だったかなと 思うけど」

外山「その人全然魅力なかった(大笑)」

佐藤「私も同じ。あれがみんながワーワー言ってる男か と思った(爆笑)」

松永「予告編で見た時は豊川さんの関西弁がすごく変で、 本編全部ああいう感じだったらどうなるのかなって思っていたら、すごくぴったり来ていた」

出海「私も同じ」

関口「このところ変な役多かったものね」

宮崎「今までの役と全然違う」

松永「二枚目でも三枚目でもないし、ちょうどいい所を 演じていたと思うわ。あれでちょっと切れていると変に気味悪くなるんだけど(笑)、 その手前のところで演技を押さえていたしね。博子が樹君のことを忘れないでいることに 対してやりきれない想いがあることも正直にぶつけるけど、それでいて 優しく待っている男を、なかなかうまく表現していたと思うわ」

佐藤「山男には見えなかったし、他にもてないんじゃないのー(大笑)」

地畑「あんないい人、まずいないよ」

宮崎「そういう設定にしたかったのよ」

松永「全員がいい人ばっかりだよねー」

地畑「『オールウエイズ』みたい。あと、脇役だと クマさんが(樹の祖父役)良かった」

佐藤「そうよ、私もそう思った。今日、言いたかったのは クマさんだけ(笑)」



これからの監督に期待

佐藤「若い子はこういうのがいいわけ? ヒットしてるんでしょ」

地畑「来てるのは若い女の子が多かった」

松永「豊川さんのファンと、岩井監督のファン?」

地畑「中山美穂のファンも多い」

出海「TVでも岩井さんのマニアックなファンが いっぱいいるのよ、深夜番組をやっていた時から。ちょっとメジャーになってからは フジTVのゴールデンアワーの『世にも奇妙な物語』とか、『花火…』『ifもしも』 もあるし、そういう風に着実に実績を積み重ねてきて、ファンを作っていったのよ」

関口「TV畑の出身だけど、TVの器だけじゃなく劇場でも やっていける人でしょ。TV畑出身で劇場で耐えられる人がやっと出てきたなって気がする」

出海「市川準監督なんかとも違うよね」

関口「さっき、大林監督って言ったじゃない。 出てきた時、尾道三部作なんかすごく良かったのにだんだんマニアックになってきちゃって、 人がついていけなくなってきちゃったけど」

出海「そういう意味では『時をかける少女』に素材が 似ているかもしれない。映像的な感覚は初期の大林監督に似ているんじゃない」

地畑「大林監督よりこの人の方がいいと思う。 オシャレだもの。すごいのは、たったあれだけの話なのに、観客をひっぱって 二時間見せ続けてしまえるということ」

宮崎「だいたい手紙のやりとりの映画ってどうも 途中で飽きちゃうんだけどこれはあきなかった」

出海「よくある普通の話なんだけどね」

佐藤「私はテーマがほしい」

出海「失われた時間に戻りたいとか、もう会えなくなった 人に会ってみたいとかそういうテーマじゃ、だめ?」

佐藤「社会性がやっぱり欲しいわね」

宮崎「この作品にそれを求めてもねー」

松永「岩井監督の作品は社会性云々を越えたところに テーマがあるのよ」

地畑「第二の今井正をこの監督に求めるのはかわいそう」

出海「でも、次回作が楽しみね」

 ということで、二つの意見は最後まで噛み合わずに終わりました。

まとめ宮崎暁美

岩井俊二さん

■昭和38年生まれ。ちょっと福山雅治に似た美男子。ミュージッククリップや CMで才能を発揮し映画監督に。豊かな感性と豊かな映像で「岩井美学」「岩井ワールド」 と呼ばれる独自の映画世界を作り出す。と言っても、これまで私たちが見てきた 一人よがりないわゆる芸術映画でなく、エンターテイメントになっているのがスゴイ。 アラン・パーカー、エイドリアン・ラインのファン。

■作品。
『ゴースト・スープ』(フジTV深夜)
『フライド・ドラゴンフィッシュ』(フジTV深夜)
『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』(フジTV「ifもしもシリーズ」より /日本映画監督協会新人賞受賞)
『ルナティック・ラブ』(フジTV「世にも奇妙な物語」シリーズより)
『UNDO』(短編映画)
『Love Letter』(長編映画)



話題作をもう二本。



『レオン』



『レオン』大人気は、本当?

佐藤「私は息子(中学生)と観に行って感動したわ。 男のロマンじゃないけれど、男の子としてはレオンのような男性に魅力を感じたのか、 泣いたそうよ。二度も観にいったみたい。私としては、泣くほどは感動しなかったけれど」

関口「でも女性が感動するバイオレンス映画って めずらしいわよね」

佐藤「そういう意味では、詩的な映画だとは思う」

出海「私の中学生と高校生の子供も観に行きたがって、 一緒にいったの。なぜかって聞いたら、友達がみんな観てるからっていうの。私も いい映画だと思ったけれど、我を忘れて感動するとうのではなかった」

地畑「私は、この映画で涙が止まらなかった。ヒロインの 女の子がレオンのために階下の雑貨屋にお使いに行って帰ってきたら、一家が惨殺されてた シーンがあったでしょ。それで彼女は、唯一の頼みの綱になっちゃったレオンの部屋の ドアを“開けて、開けて”って頼むじゃない。あの場面から、 ドォーって最後まで泣いたわよ。観方によれば、 彼女ちょっとお利口さん過ぎたかもしれないけれど、逞しかったよね彼女。 生きることに。とにかく畳み掛けるような吸引力で、最後までどっぷり映画に浸かったって 感じ。ラスト、学校に戻るところまでね」

出海・佐藤「そこまでいった?!」



キャラクター設定の妙

関口「彼女、レオンの言い付け通り、彼のお金を 預かっているレストランのおじさん(ダニー・アイエロ)のところへいくじゃない」

佐藤「でも、あの人うさんくさくてほんとに 彼女のお金あげたのかしら」

出海「お金をもらえたから、学校に戻れたのかな。 ちょっと信じられないけど」

地畑「あれって、更正施設みたいなもんじゃない。 親は麻薬の売人やってたし、家庭環境は酷かったじゃない。彼女の逞しさって、 レオンを失った今、生きていくためには、気に入らなくても、この学校で大人になるまで 我慢しなくちゃならないって悟ってたのよね」

佐藤「そういうところは、感動したわ。それにしても、 レオンのキャラクターがいいわね。ちょっと世間に疎いというか」

地畑「そこが、いいのよ。『逃亡者』みたいに、 頭が冴えすぎた主人公じゃ、この作品に合わないでしょ。レオンは刺客業以外は、 疎いということなのよ」

出海「だから、かえって殺し屋としてのレオンの プロフェッショナルぶりが活きてくるのよね」

関口「監督も言ってたけど、レオンは、十四、五歳で 知能がストップした男としてキャラクター設定にしたんだって」

佐藤「やっぱりそうなのね。だからこそ、あの女の子と 素直に気持ちが通じ合えるということなのね」

関口「比較するのは妥当とはいえないかもしれないけど、 『シベールの日曜日』の現代版って感じたわ」



『レオン』の魅力はここ

地畑「オトすところがとても巧い映画だと思った。 まず、今の若い年代層が慣れてる映画のテンポをきちんと押さえてるということと、 泣かせどころとバイオレンスやアクションシーンの組み合わせ方がいいのよね。 観客が求めてる泣きたい部分とストーリーに入りこめるスピード感の緩急が あったことね。アクションシーンは、素早くキメる一方で、他人との接触を拒まなくては いけない職業柄というせいもあるんだろうけど、助けを求めてきた女の子に なかなか部屋のドアを開けないレオンのじらしがあった。あとゲイリー・オールドマンが 異常に巧く演ってた汚職警官。(関口「ホント。 ぴったり!」)今の若い年代層の人たちは、アメリカ映画とかいろんな映像で、 汚職警官の存在なんか山のように観ているわけだから、悪面の警官っていえば、 これから面白くなりそうって感じがしてくるじゃない。極め付けは、ラストのレオンの 自己犠牲のシーンよね。女の子を守るために殺し屋のポリシーまで捨てて、 死んでいくってところ」

出海「あのシーンで、レオンは彼女のことが本当に 好きだったんだなってわかった」

地畑「それをまた言葉にして言ってないところが よかったのかも。それに、クリーンであるべき警官が、ヨレヨレしたうさん臭い人間で、 殺し屋というダーティな仕事をしているレオンがピュアな心の持ち主だっていう対比も 感動を引き出す要因だったのかもしれないわよ。ホントわかりやすい映画なのよ」

佐藤「だから子供にも入りやすい内容だということなのね」

地畑「でも、これが一番難しいじゃない。作り手としては。 観客を目一杯引き込んでなおかつシンプルっていうのは」

出海「レオンのキャラクターって、やっぱり年齢相当の 知能をもっているおじさんじゃダメなのかしら」

佐藤「でもそうするとすぐ性犯罪のなんかがついてきちゃう」

出海「そうね、すぐギタギタおじさんのキャラクターになっちゃうのよね」

地畑「そう、それ。日本映画だとどのギタギタがなくならないのよね。 第一レオンを演じていたジャン・レノなんか顔コテコテのイタリア系じゃない。 でもギタギタしてなかった」

出海「今、地畑さんが言ってることで若い年代層に この映画がウケるわけがわかったわ。スピーディでストーリーもシンプルで、判りやすい。 でもリュック・ベッソン監督が男性だなって思ったのは、ああいう殺し屋をしている男は 女に心を奪われると腕が鈍るっていう定説を使ってるところ。殺し屋は非情でなければ ならない。情に流されてはいけないって。ダニー・アイエロの台詞で言ってたわ。 男と女の関係でみると、男が銃弾に倒れて、そのあと女が生きていくという形になってる」

関口「この作品って、やはりフィルム・ノワールでしょ。 出海さんが言っている男と女の関係も踏襲しているってことね」

地畑「そうね。これってフランス映画でよくみた形よね。 そんな点でいえば、フランス人である監督って、自国の映画をよく捉えてるってことね。 ただ、これをアメリカで撮ったっていう新鮮さがあるのよね」

関口「この映画ですごいなって思ったのは 室内はセットでフランスで撮ったらしいけど、屋外のアメリカの風景もフランスっぽい。 異空間っていうか」

出海「そう。舞台がどこか忘れてしまいそうだった」

佐藤「色づかいとかもね」/P>

地畑「あと、非情な仕事を生業にしてる人に限って、 人間以外のものに愛情を注ぐっていうパターン。レオンは異常なほど鉢植えを大事にしてたもの」

関口「レオンが根無し草のような生き方をしていた、 という象徴だったのよね」

地畑「それをレオンが死んだ後、女の子が 大地に植え付けたっていうのも意味ありげね。シンプルなストーリーなんだけど、 映画を見慣れてる人が読もうと思えば読めるところまで、ちゃんとフォローしてあったのは さすがだと思った。あとエンドクレジットに流れるスティングの「SHAPE OF MY HEART」 が効いてた。こんなにストーリーにマッチしてる既成の曲、他にないかもね、 物語が終わっても席を立たないで聞き惚れてた人もいたくらい」



『フォレスト・ガンプ』



出海「子供たちの間で、『レオン』は感動するよって 口コミで広がっているみたい」

関口「この映画って、春休み映画だったじゃないですか。 でも大人の間でも『フォレスト・ガンプ』と『レオン』は外せないっていうのが 口コミで広がっているみたい」

地畑「『フォレスト・ガンプ』は素晴らしい映画だけど、 日本人よりアメリカ人のほうが、自国の現代史をあんなに面白く観れるんだから、 もっと感動できるんじゃないかな」

外山「『チャンス』に似てる映画かしら」

関口「似てる。似てる。それをもっと壮大にしたのが 『フォレスト・ガンプ』。主人公が頭が弱い男性という設定というだけで、 あざといっていう意見と、頭が弱いけど心はきれい、って主人公のキャラクターを一言で 極論づけちゃった意見を耳にしたけど、それはちょっと私とは観方が違うなって思った」

出海「この映画の監督(ロバート・ゼメキス)って 日本でいうと団塊の世代なのよね。私を含めて団塊の世代が戦後五十年を振り返って、 どんな自分たちの歴史を語れるかな…と考えてしまった。それから私たちって いつもアメリカを見て憧れて育ってきたところがあるんだけれど、同世代のアメリカ人たちは、 私たちが歴史でしか学んでこなかった戦争を体験しているのね。ベトナム戦争は 人生に決定的な影響を与えている。決してベトナム戦争があったことをよしと言っている わけではないけど、この戦争のあと、アメリカの精神世界は大きく変化して、 多くのジャンルでたくさんの優れた作品が生まれている。私たちはどうやって たちうちできるかなと考えてしまった」

関口「フォレスト・ガンプと彼の恋人は対称的で、 彼は時代をひたすら走り抜けるキャラクター、彼女は時代の中でもがいていた キャラクターなのよね」

出海「つまり、アメリカ現代史の光の部分をフォレスト・ ガンプが、影の部分をガンプの恋人が背負っているわね」

地畑「そう、彼女は、反戦運動にのめり込んでヒッピーに なっていって、エイズで死ぬっていう設定ね」

出海「そして光と影の間に産まれた子が、アメリカの 新生を思わせるのよね。その歴史を捉える感覚と願望をそなえたストーリーは、 すごいとしかいいようがないわ。『皆が騒ぐほど面白い映画じゃない』って言ってた 若い男の子がいたけど、どうなのかな。世代的に見方が大きく分かれるのかな。 でも子供にはぜひ見せたい映画ですね」




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