女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
33号   (1995 June)   pp. 96 -- 97

ディック・リーコンサート
Secret Island

宮崎 暁美(写真も)


 『金枝玉葉』の主題歌「追」で、今年の香港金像奨主題歌賞を受賞した ディック・リー(李迫文)。その彼のコンサートが五月に天王州アイルで行なわれた。 二六号の「エイジアン・ポップミユージックの現在」の紹介の中で、日本にアジアの ポップミユージックを認識させた人と書いたけど、欧米音楽指向や 欧米の物真似的音楽に対し、アジアのアイデンティティをかかげて音楽活動をしてきた人だ。 私自身はアルバム「マッド・チャイナマン」「オリエンタリズム」を買ったきりで、 英語の歌に抵抗があって、コンサートやミュージカルには行ったことがなかった。 その後、中国語の音楽にどっぷり浸かってしまいディックのCDは片隅に 追いやってしまった。

 今回初めて彼のコンサートに行き、もっと早く行っとけばよかったと後悔。 私でも解るわかりやすい英語の語りに彼の人気の秘密がわかったような気がした。 やはり英語は世界に通じる言葉なんだ、アジアとはいえ例外ではないと再認識したしだい。 もっとも、ディックの英語は欧米人の英語と違ってわかりやすい。

 コンサートは女性が圧倒的に多かった。彼の姿勢から男性ファンが多いと 思っていたので意外だった。最新CD『Secret Island』からの曲を中心に以前のヒット曲も 歌った。英語曲の他に日本語の曲も二〜三曲、そして『金枝玉葉』の主題歌「追」は ピアノの弾き語りで広東語で歌った(映画の中で歌っていたのは張國榮レスリー・チョン)。 私は去年この映画を香港で見て、とても良かったと思ったんだけど、なにせ香港で 初めて見た映画だったから落ち着かなかったのと宇幕や画面を追うので精一杯で、 この曲のことは覚えていない。でもこの曲を聞いて『金枝玉葉』のシーンが甦ってきた。 張國榮がピアノの弾き語りをするシーンで歌っていた曲が、たぶんこの曲だったと思う。 この映画の中のオーディションのシーンでディック・リーも出演していた。 この映画は一二月頃シネマスクエアとうきゅう他で公開予定。金像奨の主題歌賞は 私の個人的な思い入れでは、去年劉徳華(アンディ・ラウ)のコンサートですっかり 気に入って、帰ってからほとんど毎日のように聞いている「忘情水」(『天與地』の主題歌) が入って欲しかったんだけど「追」もディックが歌っているのを聞いて いい曲だなと思った。

 このコンサートで一番好きだったのは「エイジア・メイジア」。 そしてラストは坂本九の名曲「見上げてごらん夜の星を」だった。 私は「上を向いて歩こう」よりもこの曲の方が好きなので、もう大満足。 もちろん日本語でしかもピアノの弾き語りで歌ってくれた。

 歌の合問の語りもユーモアたっぷりで、英語とけっこう達者な日本語チャンポンで とても楽しかった。「パートタイム・ミュージシャンからフルタイム・ミュージシャンに なるのに、日本は私にチャンスを与えてくれた」と語っていたし、 「坂本九は自分の子供の頃有名で、私も彼のようになりたいと思った」とも。 そしてアジアの女性の地位に関することも語った。「アジアの女性は強くなった。 特にシンガポールの女性はハイポジションにいる人も多いけど、日本の女性で ハイポジションにいる人は多いですか」という質問には会場中の女性からの ノーの大合唱がとてもさぴしいやら、力強いやらだった。そして、最近はそんな シンガポールを目指す日本女性が増えていることも話していた。

 日本盤のアルバム発売が増えてきたアジアのアーティストたち。 もっともっとたくさんのアジアのアーティストたちが日本でコンサートをしてくれると いいなと思ったディック・リーのコンサートだった。



写真略
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