女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
33号   (1995 June)   pp. 32 -- 39



恋する惑星/CHUNGKING EXPRESS


95年度香港アカデミー賞(金像奬)グランプリ、監督賞、主演男優賞、編集賞受賞

[キャスト]
警官633:梁朝偉 トニー・レオン Leung Chiu-wai, Tony
フェイ:王靖[雨/文] フェイ・ウォン Faye Wong
金髪の髪の女:林青霞 ブリジット・リン Lin Ching-hsia, Brigette
警官223:金城武 カネシロ・タケシ Takeshi Kaneshiro
スチュワーデス:周嘉玲 チャウ・カーリン Chow Kar-ling, Valerie

[スタッフ]
監督:王家衛 ウォン・カーウァイ Wong Kar-wai
脚本:王家衛 ウォン・カーウァイ Wong Kar-wai
製作:劉鎭偉 ジェフ・ラウ Lau Chun-wai, Jeff
製作総指揮:陳以[革斤] チャン・イーチェン Chan Ye-cheng
製作補:彭綺華 ジャッキー・パン Pang Yee-wah, Jacky
美術監督:張叔平 ウィリアム・チョン Chang Suk-ping, William
撮影:杜可風 クリストファー・ドイル Christopher Doyle
劉偉強 ラウ・ウァイキョン Lau Wai-keung
編集:張叔平 ウィリアム・チョン Chang Suk-ping, William
奚傑偉 カイ・キットウァイ Kai Kit-wai
[廣β]志良 クォン・チリョン Kwong Chi-leung
音楽:陳動奇 フランキー・チャン Chan Fan-kai
ローエル・A・ガルシア Roel A. Garcia

1994年香港映画/ジェット・トーン・プロダクション製作/上映時間1時間40分
[配給] プレノン・アッシュ

[金城武来日会見]


 昨年、この映画をビデオでみて、思わずペスト10に入れてしまった。そして、 今年日本語字幕で観て、感動は何倍にもふくれあがった。
 現実ばなれした甘ったるさも、大河ドラマのような波欄万丈なストーリーもない、 男女の出会い。この映画は、香港を舞台にしているが、どこの都会にでもありそうな ロマンチックな出会いをさらりと切り取っている。
 前編は、麻薬密売人の女と讐官の出会い。普通なら犯人と捜査官という関係に なってしまうような設定だが、この物語の中では、そんな肩書きは関係ない。 失恋にむしゃくしゃしている青年は、恋愛感情などおかまいなしの女性に引き寄せられる。 二人を結ぴつけるのは、なんとなく孤独という感情。
 彼女にとっては、青年との出会いは微酔い気分の夢の中で、多分彼と別れた後も 彼の存在など覚えていないだろうけれど、青年にとっては、正体不明の彼女との出会いは、 もやもやした気分をふっきり、なにか一つ精神的に大人になっていく転機になる。
 ふたりには、肉体関係など存在しない。ただ一晩出会っただけの関係にすぎない。 酔い潰れて熟睡する彼女の傍らで、なんとなく淡い恋情を抱く彼は、 「美しい人は、きれいなものを身につけていなくちゃいけない」と、 彼女の汚れた靴を拭いて、去っていく。
 青年のそんな気持ちを知ってかしらずか、一方の女性は、感情というものを とっくに捨てているのか、サングラスを外さない。巻頭からいきなり始まる、 彼女のハードな仕事ぶりは、圧倒されるほど鮮かで、裏切り者のクラプ経営者を 撃ち殺して足早に去って行くラストシーンは、印象的だ。
 感情を排してハードボイルドに生きる女性、恋に焦がれる青年、 古来からある男女の配役分担を逆転させた展開は、斬新で、カタルシスさえ感じさせる。
 後半は、がらっと変わって、恋する乙女心が可愛い物語。王靖[雨/文] (フェイ.ウォン)のエキセントリツクな雰囲気が最大限にいかされているヒロイン像は、 ときに笑いを誘いながらもすがすがしい。好きになったらどこまでもと、彼女は、 相手の男性の注意を引こうとあの手この手を考える。でも、言葉にして伝えるのは、 気恥ずかしい。だから当人の前では、平静を装ってしまう。 男性が自分の気持ちを感じとってくれるまで、偶然を装って何度も顔を合わせて、 信号を送り続ける。周囲からみれば笑いがこみあげてくるようなことを繰り返す彼女だが、 ふと立ち止まってみると、彼女の言動は、まるで自分のことのように思えてきて、 思わず胸が熱くなる。
 そんなところヘチャンスが訪れる。彼の別れた恋人が、彼の部屋の鍵を 彼に返してほしいと彼女の勤める小食店へ託しにくる。人の手紙を見るのは よくないことと知りながら、鍵を抜き取ってしまう彼女。彼が外出している間に こっそりと彼の部屋に入って、掃除をしたり、模様替えをしたりと 意味不明の行動をする彼女だが、ある時ペッドに彼の別れた恋人の長い髪の毛をみつけて 悔しがる。無理だとわかっていながら、好きな男性を独占したいと思う乙女心が 象徴されているようで、笑いながらもホロリとさせられてしまう。
 一方、彼女に思いを寄せられる男性(梁朝偉/トニー・レオン)は、 去っていった恋人に未練たらたらのせいなのか、鈍感なのか、必死に 信号を送り続ける彼女の思いになかなか気付かぬ様子。もう帰ってこないと わかっていながら、恋人の帰りを待ちわぴる恋にとらわれた情けない男の心情を コミカルに、そして自分に好意をよせる女性の心をなんとなくわかっていながら はぐらかす、優柔不断な部分を嫌味なく演じる彼の演技力には、 ただただ恐れ入るばかりだ。 また、去っていった恋人と部屋で戯れるシーンや彼の部屋で王靖[雨/文]の足を もむシーンなど、女性の体をまるで空気のようにごく自然に扱えるのも 彼の持味の一つなのかもしれない。
 彼がいつ、どんなふうに彼女の思いに応えるかは、観てのお楽しみだが、 すれ違ってしまったふたりが、縁にたぐりよせられるかのように再会するラストシーンは、 心憎いほどさわやかだ。
 あふれるばかりの恋する思いを持ちながら、決して相手の男性には媚ぴず、 自分自身の夢ももっている。そんな王靖[雨/文]が演じる夢いっぱいの女性の姿に、 元気の素をもらった気がする。彼女が、ボリュームいっぱいにかけていた 「夢のカルフォルニア」は、彼女のそんな思いを代弁していたかのようで、 今も私の耳を離れない。

 監督の王家衛(ウォン・力ーウエィ)は、『いますぐ抱きしめたい』 『欲望の翼』そしてこの『恋する惑星』と、 ほかの香港の映画監督に比ぺ、作品のほとんどが日本で公開されているラッキーな人。 彼独自の映像美、抜群の音楽センスは、『恋する惑星』にも十分に反映されているので、 『欲望の翼』に感動した人には、お薦め。また、ストーリーがシンプルなので 『欲望の翼』でひっかかりを感じた人にも、この作品は入りやすい展開だと思う。 そして、香港映画イコルアクション映画と認識してしまっている欧米映画ファンや 邦画ファンには、香港映画の認識を新たにするきっかけになる作品になることを 期待したい。

 なお、エンドクレジットに流れる王靖[雨/文]「夢中人」という曲は、 THE CRANBERRIES のアルバム [EVERYBODY ELSE IS DOING IT, SO WHY CAN'T WE?]に 収められている [DREAMS] という曲のカバーです。 私は、王靖[雨/文]の方が上手いと思うのですが、興味のある方は聞き比べてみてください。

(以上地畑)



『恋する惑星(重慶森林)』は、今年三月パリで公開され、一週間で五万人を動員し、 また、この作品にいたく感動したクエンティン・タランティーノのバックアップもあり、 ミラマックス社による北米公開も決定しています。

昨年の台湾金馬奬(台湾アカデミー賞)では、最優秀男優賞:梁朝偉(トニー・レオン)が受賞。 今年の第十四回香港電影金像奬(香港アカデミー賞)では、 十部門にノミネートされ、最優秀作品賞、最優秀主演男優賞:梁朝偉(トニー・レオン)、 編集賞:張叔平(ウィリアム・チョン)ほか、主要4部門を受賞しています。



七月中旬より銀座テアトル西友でロードショー公開。 その後順次大阪・名古屋でも公開が決定しています。



金城武(カネシロ・タケシ)来日会見

 『恋する惑星』(原題・重慶森林)の七月中旬の日本劇場公開に向けて、 去る五月に主演俳優の金城武が来日しました。

 すらりとした長身で落ち着いた雰囲気を持つ彼でしたが、いざ映画のこととなると 達者な日本語で、ジョークも交えながら、熱弁を奮ってくれました。



『恋する惑星』撮影周辺について

 「この映画の撮影は、九四年の四月から始まりました。でもその頃王家衛 (ウォン・カーウェイ)監督は、『東邪西毒』を完成させていなかったのです。 『東邪西毒』は二年余りを費やしていて、そんな時になんで『恋する惑星』 を撮るんだろうって思いました。 結果的には、二作ともさまざまな賞を受賞したわけですが。

王家衛監督は、昔から非常に時間をかけて作品を撮る人で有名だったんですが、 この『恋する惑星』に関しては、僕のパートは一月で 撮りあげてしまったんです。王監督にしてはあっさりと撮り上げた作品なんでしょうね。」


——— 金城さんのパートは一月ほどですが、 全部で二月半ほどかかってはいますね。王監督の作品の中では、 『いますぐ抱くしめたい』が一番短い撮影期間だったそうで、 その次がこの作品だそうです。王監督自身も『東邪西毒』はかなりハードだったらしく、 もっと自由に撮ってみたいと思ってこの作品に着手したようです。

 「自由にという点でいえば、この作品のカメラは全部 ハンディキャリーでした。ライトもです。だからよく動くんです。 王監督のカメラ位置は独特で、眼前までカメラが寄ったりもするんです。 はじめはびっくりしました。」
(ここで身振り手振りの説明が入った)

——— 重慶大厦(チョイキン・マンション)が撮影のロケーションでしたが。

 「香港はどこへ行っても撮影許可をとるのが面倒くさいんです。王監督も 撮影許可が下りるまでの時間が惜しいようで、この作品は、ほとんどが盗み撮りでした。 地下鉄もそうなんです」

——— トラブルの対処はどうしていたのですか。

 「それは、プロダクションが対処するんです。特に*ジャッキーさんが処理して くれました。(*彭綺華/ジャッキー・パンのこと、王監督の作品すべてに関わって いる新進の女性監督)
 撮影中、警察が来るとスタッフ一同“また来た、また来た”って一時中断して、 一休みしてましたね」

——— この作品の中で梁朝偉(トニー・レオン)は 制服警官の役ですが、彼の制服は許可をとっていなかったので、本物の警官が きたときには、スタッフで彼を隠して車の中に押し込んだ、ときいていますが。

 「そうですね。香港でもバイクに乗るときにはヘルメットが義務づけられて いるんですが、警察がきたらいきなりかぶったりなんていうこともあります。 撮影中も警察の前を通るときには、他の車でカムフラージュしながら通過するなんていう こともありましたね」

王家衛監督について

「『恋する惑星』への出演依頼があったのは、撮影開始の十日前くらいです。
 香港や台湾では、俳優を見てから起用するというより、先に起用してから俳優を 見るという形をとっています。
 だから、王監督に関しても、最初僕は、有名な監督なんだという認識しかなくて、 よくは知りませんでした。作品も過去ニ作品しか撮っていませんし。
はじめにもらったシナリオが、僕も含めて今出演している人と全然違うのには、 とにかくびっくりしました。
 王監督の特色は、役者が演じて撮影していくうちに、ストーリーをバンバン 変えちゃうことですね。
 それに見るまでストーリは誰も知らない。役者もスタッフも知らない。 彼もあえていわない。変更ばかりしているからでしょう。
 毎日撮影している演技は、その日ごとに演じるべきシナリオを一枚くれるんです。
 彼のアーティストに対する演技指導の特色は、他の監督のように立ち位置や行動を 細かく指示するのではなくて、前のシーンの説明をざっとして、 これから撮るシーンに関してはカメラが捉えるサイズだけを教えていきなり演技に 入らせることです。でも、こちらとしてもいきなり演れといわれても何をしていいか わからないんです。
 つまり、王監督はその役者が何をしようとするか何ができるかということを 見ているんですね。
 だから、そのアーティストには何ができるか、何が特色か、その人にとって何が プラスになるかを見極めて、ストーリーを変えていくんです。
 とはいっても、演じる側としては、ストーリーの全体像は知りたいんです。 現に共演の林青霞(ブリジット・リン)が演じる女性と自分が演じるキャラクターの関係も 最初から最後まで知らなかったんです。
 だから、“どうしてシナリオを教えてくれないのか”って聞いてみたんです。 そうしたら、“教えたってできないかもしれないから”っていうんです。
 つまり、監督が思い描く表情を役者がそっくりに体現できるとは限らないから、 役者が演じられるもので置き換えるということらしいんです。」


——— 以前梁朝偉(トニー・レオン)が『欲望の翼』の時に、 かなりのテイクをとったことは有名ですが、金城さんはいかがでしたか。

 「撮影当初は、言葉(広東語)の難しさもありましたし、シーンの中で立て続けに しゃべって、20くらいのテイクはとりましたね。
 自分で演技をすべてクリエイトしなければならなくて、毎回違う演技を見せなくては ならないとい難しさがありました。
 監督は、ひとつのシーンでも何通りにも演じられるんだとは言ってくれるんですけど、 何一つ具体的におしえてくれないですから」

——— 例えばこの作品では、どのシーンですか。

 「僕がこの作品で苦労したのは、やはり、走るシーンと食べるシーンですね。 意味は同じなんですが、微妙な動作が違うとか。何度も撮り直すわけです。
 一月毎日撮影で、作品をご覧になるとわかると思うんですが、 夜のシーンが多いでしょう。ですから撮影中は、夜が明けてから寝て、 夕方起きるっていう生活パターンでした。だから徹夜で撮り続けてるから、 走りはきつかったですね。
 でもそれ以上に苦しかったのは、食べるシーン、特にホテルで食べまくるシーンです。 このシーンの撮影が夕食の後だったもので、テイクをとるたびにあらかじめ用意してある 冷えた食事が次々と出てくるんですから。案外いやそうに惰性で食べるシーンを撮る ねらいは、ここにあったのかもしれません。」

——— そういえば、以前劉嘉玲(カリーナ・ラウ)が、 床を拭くシーンで何度もテイクを繰り返して、汗だくになっていやいや拭いていたら、 OKが出たっていうのも聞いていますしね。

 「ほんとに何を考えているのか、わからない人です。王監督は。演じている方も わからなくなってくることがあるんです。だから演るしかないんです。
 こんなこともありました。昨日撮ったシーンを今日もう一度撮るって言うんです。 昨日は指示通りに悲しいシーンを演じたんですが、どうも気に入らないらしく、 今日はうれしい感じがほしいっていううんです。当然どうしてかって聞きますよね。 そうしたら監督は“俺のいうことなんか信じるな。君は俳優だろ。自分だけを 信じていればいいんだ”っていうんです。
 はじめは、こんな感じでしたが、慣れていくうちに監督の意図が少しずつ分かって きました。とにかく王監督はストーリーより、画面上での表現がほしいんですね。 それも役者のパーソナリティーを活かした画がほしいらしいんです。
 つまり時間をかけて役者ひとりひとりのキャラクターを見つけだして、それにあう ストーリーにしているんですね。でもこれってすごいことですよね。
 自分としては、自然に演技ができた作品なのでよかったと思っています。それに けっこう評価してもらいましたし。俳優として、あの作品のこの俳優ダメですねって いわれるのはつらいですから」

——— 監督は金城さんがいくつもの言語を話せるということを 知ってて起用したのですか。

 「はじめて王監督に会ったとき、“僕をどうして起用したんですか”って 聞きました。そうしたら、“雑誌を漠然と見ていたら、見たことない顔だったから。 見たことない顔を使いたかったから”って言ってました。気楽な理由ですよね。 だから僕は“監督の思い通りの演技ができないかもしれませんよ”と言ったんです。 そうしたら“大丈夫だよ”っていってました。
 言葉のことについては、知らなかったようです。僕を起用した後、そのことを知って、 いくつもの言語を話すシーンを付け加えたようです。広東語の台詩はあらかじめ あったんですが、日本語と英語は、僕が自分で変化をつけて付け加えました。」

——— 基本的にはご自身の声ですね。

 「はい。同時録音ですから。ナレーションだけ後から入れただけです」

——— 広東語の方は勉強なさったのですか。

 「王監督とは、普通語(マンダリン)で話していました。この映画の撮影が終って 広東語が話せるようになりました。
 でも今でも外国人が話す広東語です。この映画の中では、台湾から来た人という 設定だったので、ちょうどよかったようですが。映画館では僕の広東語を聞いて 笑っているネイティブの人がいましたね」

共演者について

——— 共演の林青霞(ブリジット・リン)については どう感じられましたか。大女優の方ですが。

 「ほんとうに綺麗な人です。はじめの三日くらいは、とにかくコチコチになって しまいました。あの林青霞が目の前にいるというだけで。監督にも緊張するなと いわれました」

——— 他の出演者の方たちとは。

 「実際に会っていたのは、主演では林青霞(ブリジット・リン)だけですね。 あとの人は一日だけです。
 軽食店のオーナー役のオジサンは、スタッフです。いろいろなスタッフにかわるがわる あの役を演ってもらって、あの人に決めたようです。他にもスタッフが出演しています。 あの店のオバサンとかインド系の従業員の人たちは、実際にあのお店の人たちです。 ラストシーンであの店は改装してしまいましたが、実際あの店が改装中に撮影したんです。 改装した後『堕落天使』のロケでも使っています。なんだか同じところを行ったり 来たりしているみたいですよね」

??? 今年の金像奘主演では、梁朝偉(トニー・レオン) と王菲(フェイ・ウォン)がノミネートされていましたが。
(梁朝偉は最優秀主演男優賞を受賞)

 「当然だと思います。僕は映画に関わって一年あまりですが、梁朝偉は、 十年あまりのキャリアがあって、演技の味わいが違うんだと思いますね。僕はまだ 経験が浅いし、この作品で王監督にあって、いい先生に巡り合えた感じですが、 今も演技をしていてつっかかるところもありますしね。だから、彼が受賞したことは、 同じ映画に主演していた立場としてとてもうれしいです。
 僕自身、俳優も歌を作ることも歌うことも好きでやっている仕事ですから。 別に賞とりが目標ではないけれど、受賞できればうれしいです」

次回作について

——— 今、王家衛監督の新作(『堕落天使』)の撮影中ですが、 かなりの緊張感がある一方で、監督と金城さんのやりとりがとてもおもしろかったんですが。 王監督も金城さんといるときは、特に楽しそうでしたね。監督とは波長があうようですね。

 「もう慣れましたから。僕も納得のいかないことは聞きますし、意見も言います。 その時は、監督がちょっと指示を出していて、面白くないんじゃないですかって いってた時なんです。じゃあ、自分で考えろっていわれてて。ちょうど下着売り場の シーンでした。下着をかぶるなんてちょっとできませんよ。豚に馬乗りになって 足をマッサージするシーンを考えたりもしました。ストーリーを変更する時点で、 次第にカットされる箇所などもなんとなくつかめるようになりました」

——— 撮影の進行状況は?

 「撮影は、八割がた終っているのですが、カンヌには、毎日撮影した分を 送っているから大丈夫だといっていましたが」

——— 台湾の芸能界と香港の芸能界の違いについてご自身で 感じられていられることはどんな点ですか。

 「香港の方が時代が早いということです。顕著なのはコンサートです。香港では、 コンサートといえばショウを見せるという姿勢なんですね。踊りや衣装も派手で、 香港の観客もそれに慣れているんです。いかに目新しく奇抜なことをするかという点も 含まれています。
 その点台湾はゆっくり進んでいるようです。ショウというよりそのアーティストの 音楽を聞きにいくという感じです。
 ですから台湾ではアーティストの個性を長年持ち続ける形ですが、香港では観客の 求めるものにいかに応えていくかということで違いがあります。
 実際、僕はあまり踊りたくないんです。というのもそういう自分は僕自身では ないからです。最初のうちに自分自身を出したほうがいいと思っているので、 極力そんな感じにしています」


撮影:志々目純子


後記・

 とても二十一歳とは思えない静かで落ち着いた語り口やパーフェクトな日本語で 話す話から、彼の俳優としての素質のよさや聡明さ、謙虚さを十分に感じとることが できました。

 また、彼が何度も口にしていたアーティストの意味さながら、役者も 一クリエーターであることを話の端々からつくづく感じさせられたりもしました。

 語学が達者な(中国語・英語・日本語)彼ですが、彼自身書くのはまず日本語だとのこと。 日本の町を自由に歩き回ることを本当に嬉しそうに話していましたが、 それもスターの悩みのひとつなのでしょう。

 アジアを席巻するスターとして多いに期待したいとおもいます。

(以上 地畑・志々目)



<プロフィール>

 一九七三年台北生まれ。日本人の父親と台湾人の母親を持つ。テレビコマーシャルを 皮切りに芸能界入り。
 九二年「分手的夜裡」でレコードデビュー。台湾のテレビドラマで注目され、 九三年より映画界にも進出。
 『恋する惑星』以後香港・台湾双方で映画出演が殺到し、本年度はすでに 七本の映画出演が決定。



<フィルモグラフィ>

九三年『現代豪侠傅』未(杜[王其]峰・/ジョニー・トウ&程小東/チン・シュウトン)
九四年『沈黙的姑娘』未(陳勲奇/フランキー・チェン)
九四年『恋する惑星(重慶森林)』(王家衛/ウォン・カーウァイ)
九四年『報告班長』未(金鰲勲)
九四年『第六感奇縁人魚傅説』未(羅文/ノーマン・ロウ)
九四年『校園敢死隊』未(金鰲勲)
九五年『中国龍』未(朱延平/チュー・イェンピン)
九五年『無面俾』未(洪金賓/サモ・ハン・キンポー)
九五年『堕落天使』(LOVE IN 1995)(王家衛/ウォン・カーウァイ)
九五年『臭屁王』(朱延平/チュー・イェンピン)
*()内は監督名
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