女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
31号   pp. 52 -- 53

中島みゆきの歌と香港ポップス

宮崎 暁美

 前号の「このカバー曲のもとうたは何?」を見て、香港ポップスの中で 中島みゆきのカバー曲がたくさんあるのに驚かれた方も多いと思います。 香港では葉[くさ/倩]文(サリー・イップ)や王靖[雨/文](フェイ・ウォン)、 周慧敏(ビビアン・チョウ)など、人気歌手がけっこう中島みゆきの曲を カバーしているのです。昨年あたりから中国語圏の映画ばかりでなく音楽にも はまり出した私。それまでも中国映画の中で使われた映画音楽のテープとか 聞いてはいたのですが、中島みゆきファンの私としては、中島みゆきのカバー曲が多い 香港ポップスにのめり込んでいったのは当然の成り行きだったのです。

 私の中島みゆきへのこだわりは二〇年くらい前「時代」を聞いた時からです。 そして「彼女の生き方」という歌の中の《思い通りには動かない/ 世の中なんて何もかも/だけどあたしだって/世の中の思い通りなんか動かない》 という一節を聞いて、なんて私の気持ちとぴったりなんだろうと、 すっかり彼女のファンになってしまいました。それ以来、彼女のアルバムは必ず買い、 彼女が書いた本や、彼女のことを書いた本も買い、彼女がDJをやっているラジオ番組は 録音する、という具合ですっかりみゆき教の信者になりました。 彼女の歌は暗い歌もあるけど、気分が沈んでいる時に〈元気を出しなさい〉 と励ましてくれる歌の方が多いと私は思います。それに歌からは想像できない、 はちゃめちゃで楽しいDJぶり、でも言うときはビシっと言う、その姿勢が好きです。

 そんな私が香港の音楽に興味を持ったきっかけは、九三年のファンタでの劉徳華 (アンディ・ラウ)の特集。この時以来、劉徳華のCDをいろいろ聞くうちに、 彼の曲の中には中島みゆき調のメロディラインがあったりして、 劉徳華のCDをプロデュースした人はきっと中島みゆきの曲が好きな人に違いないと 思いました。

 その後、台湾料理の店に入った時、中島みゆきの「ホームにて」をカバーした 北京語の歌が流れてきて、誰が歌っているのか店の人に聞いたらなんと 葉[くさ/倩]文だったのです。さっそく次の日その曲が入っているCDを買いました。 そのCDには『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』『秦俑』『上海ブルース』 の主題歌も入っていて得した気分でした。そして、今年(九四年)二月の NHK衛星放送「香港エンターティメントシャワー」で中島みゆきの「ルージュ」 のカバー曲「容易受傷的女人」を歌う王靖[雨/文](フェイ・ウォン)が紹介され ますます香港ポップスにはまっていったのです。この「容易受傷的女人」は最初、 広東語で歌われ、九二年香港で大ヒット、王靖[雨/文]を一躍人気歌手にし、 九三年台湾で活躍している香港の歌手[廣β]美雲(コーリー・コン)が台湾で 北京語版をヒットさせ、王靖[雨/文]も北京語版を歌い中国にも広げました。 さらに今年に入ってタイでも複数の歌手によるこの曲の競作ブームが起こったそうです。 その曲名は「Broken Hearted Woman」で、中島みゆきの曲名からではなく王靖[雨/文]の 「容易受傷的女人」の曲名が元歌みたいです。香港では中島みゆきの歌に 人気があるというのは聞いたことはあったけど、こんなに親しまれ さらにアジアにも広がりつつあるというのは彼女のファンとしてとても嬉しいことです。

 中島みゆきの詩の世界は独特のものがあるけど、人の心の痛みをいやす内容の詩が 多いように私は思います。彼女の歌が香港で受け入れられているのは「詩」の部分なのか 「曲」の部分なのかよくわからないけど、彼女の「詩」の部分が理解され 受け入れられているのだったらとても嬉しい。王靖[雨/文]がカバーした「容易受傷的女人」 のヒットがきっかけで、いろいろな人が彼女のカバー曲を歌いだしたらしいけど、 この夏香港に行った時、香港でカバーされた曲の原曲ばかりを集めた香港編集版CD 「美雪集II」が発売されていた。その広告が、新聞やら雑誌にたくさん載っていたんだけど、 何といってもびっくりしたのは新聞のトップ一面にみゆきさんの写真を使った広告が 載っていたこと、日本ではそんなこと考えられない。香港の新聞は日本でいうと スポーツ紙と一般紙を合わせたようなものが多いようで、映画やらCDやら コンサートの広告などが一面に載ることが結構あります。香港から帰る前の日の新聞に 次の日発売のそのCDの広告が載っていたので、次の日帰国準備のあわただしい中、 そのCDを探しにいったけど、近くのデパートのCDショップには置いてなかった。 あんなに大々的に宣伝をしているのだからCD屋さんに行けばあるだろうと思ったら、 なかったので拍子抜け。そんなちぐはぐなところが香港らしい感じもしますが…残念。

 香港の音楽界はカバー曲が多くてオリジナリティがないという人もいますが、 私にとっては香港ポップスに興味を持ったひとつのきっかけがカバー曲だったので、 日本の曲が親しまれているのは嬉しいことです。それに最近はオリジナル曲が 増えているし、いろいろあっていいんじゃないかなと思います。 私はオリジナルを重視したビヨンドや、台湾のボブ・ディランと言われている羅大佑 (ロー・ターヨウ)も好きです。それに羅大佑は映画の音楽もたくさん手がけています。 その中でも私が好きなのは『天若有情』の主題曲。

 今年、チャゲ&飛鳥の東南アジアや香港、台湾での公演が大成功だったらしいけど、 その影には香港や台湾の歌手によるカバー曲のヒットも大きな貢献をしていたと思います。 来年(一九九五年)には中島みゆきの香港コンサートが実現されるらしいけど、 そうなれば大変話題になることでしょう。やはり、あの一万二千人収容の 香港コロシアムでやるのかな? そういえば今年で六回目になる「夜会」 も二〇日間に渡るコンサートだけど、七百人収容のシアター・コクーンの 小規模のホールじゃなくて、劉徳華並みに香港コロシアムで二〇日間とまでいかなくても、せめてオーチャード・ホールでやって欲しいな。だって毎年チケット発売の日に 電話予約をするのだけど取れたことないもの。

 ところで私はアルバムは買うけどシングルは買ったことがなかったんだけど、 TV『家なき子』の主題歌「空と君のあいだに」は大好きな「ファイト」 とカップリングになっていたので買いました。そしたら、売り上げナンバーワンに なったというのを見てやっぱりね!と思った。普段シングルなんて買わない私が 買ったんだもの、と思ったんだけど、ナンバーワンになったことを知ったのは、なんと 香港の「オリコン」こと「100分」でした。

 映画『家なき子』はどんな出来になっているのでしょうね。ちょっと楽しみでもあり、 不安でもあります。

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