女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
29号 (May 1994)   p. 75
私の好きなTVシリーズ(5)

『ひとの不幸は蜜の味』(TBS)

良く言えば純真、悪く言えば自分勝手でわがままな売れっ子マンガ家を中心に アシスタントや義母、担当の男性編集者たちが入り乱れて足の引っ張りあいを演じる ドタバタコメディ。それがけっさくで、毎回、娘とお腹を抱えて笑い転げて見ていた。

配役は、大竹しのぶ、泉ピン子、清水美砂、相楽晴子、村田雅浩など 胸焼けを起こしそうな個性派面々が並ぶ。始まったばかりの頃は 彼らの熱演がコテコテして、少し興ざめしたが、回を重ねるごとに みんな本当にすごい役者だなあと感嘆に変わった。大竹しのぶの上手さは定評があるが、 泉ピン子がバッシングにもめげずやつれた顔で頑張っている。 さらに清水美砂が諸先輩に負けじとだんだん演技に熱が入ってくるのがわかる。 『シコふんじゃった。』であたしもシコを踏もうなどとカマトトぶって足を上げる彼女と 同じ人かと思えるほどの存在感。相楽晴子の前半のさえないメガネのアシスタントから、 後半の売れっ子マンガ家への変身ぶりは目を見張る。 『おこげ』の熱演も覚めやらぬ村田雄浩も先生とアシのふたりから言い寄られ、 どちらにもいい顔してしまう気弱で優しくしかも最高に狡い男を熱演。 最後は女ふたりに振られてしまい、その哀れさに同情の涙すら出てしまった。かつて、 男と寝て地位を得た女は関係の切れ目が仕事の切れ目だったのに、今、 女にとって関係の切れ目は確実に仕事のステップアップにつながる。それどころか、 この作品の中では、男は女に逃げられて、『もう一度描いてください』 とかつての女に頭を下げにくる。そのとき大竹しのぶが何て言うかと思ったら、 あの少し老けたつぶらな瞳で『今度だけよ』と優しく言う。なんて、 女性は心が広いのだろう。あんなコケにされたと言うのに…。

脚本は神山由美子。女性たちの個性をみなそれぞれ魅力的に描き分ける筆力はすごい。 一方男性陣はどこかひ弱で情けなく憎めないが、同時にズルさがあってラストは 女性たちにしっぺ返しを受けるところが見ていて気持ちよかった。 それから、子供のまま大人になってしまったような天才肌の大竹が一度ほされたコミック界で 幾重にも大きくなってもう一度やり直すのに対して、下積みが長く、苦労を知り、 やっとデビューした相楽が要領よく華々しくステップアップしていき、 簡単にコミックをやめて今をときめくエッセイストに転身していくところの対比は、 女性の時代を生き抜くしたたかな女たちの典型として、うまく描き分けられてるなと 感心する。『この世の果て』のまりあではないけれど マリア様的女性を執勘に求める男性が増えると心配なので、強くてガッツがあり、 男に手厳しい女性が登場するドラマがどんどん増えることを願ってます。

(出海)



※編集部より→番組は3月終了。見逃した方は多分平日の午後5時より再放送があります。 (TBSの回し者ではありません)

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