Y. 勝間 マギー・チャンは押しも押されもせぬ香港のトップ女優になった、 というのが、この作品を見ての感想です。 一九三〇年代の中国の女優を演じたこの作品で、 ベルリン映画祭の主演女優賞に輝いたというのも大いにうなずける。 「母親は売春婦だったんでしょう」と赤の他人に言われてキッと振り返る表情が凄絶だった。 マギーの素晴らしさはよくわかるが、阮玲玉(ルァン・リンユー)自身の偉大さがいまひとつ伝わらなかった。 私に予備知識が全くなかったせいもあるが。 阮の生涯を演じながら、一方で監督や俳優たちのディスカッションやNG場面も わざと挿入されていて、面白い作り方になっている。 「自分も心ないスキャンダルには迷惑するけど、そんなことに負けたくない」 というようなことを語るマギーに、悲劇に終わった阮のイメージは払拭され、ホッとする。 半世紀以上昔、阮はスキャンダル(姦通罪)に巻き込まれて25才で自ら命を断ったが、 マギーはこれからどのように女優としてキャリアを重ねて生きて行くのだろう。 阮は妻のある男性とつきあっていて、その男性は知的レベル等で彼女と釣り合い、 心地よい関係にある。しかし彼女は、かつて彼が妻やもう一人の愛人から阮に心を移したように、 自分との仲もいつか終わるのではないかと心の片隅で冷めている。 やがて彼との関係を阮の昔の愛人に姦通罪で訴えられて、阮は自殺する。 この昔の愛人というのが腐れ縁男で、自分も阮とつきあっていた一方で 複数の女と遊んでいた、ぼんぼんタイプ。 もう一人、彼女の死の直前に心を通わせていた映画監督がいて、 演じるのは今をときめくレオン・カーファイ。追い詰められた阮が 「私と一緒に逃げて」とすがるのだが、彼にはできない。 阮の葬儀で彼が泣き崩れる場面が忘れられない。 彼女を絶望させ、一人で逝かせてしまった悔い。 この場面でレオン・力ーファイを見直してしまった。『愛人/ラ・マン』 で日本全国に受け、女性誌のいい男特集にビシバシ登場するのでしらけていた私だったが。 今回の映画祭でもスタンリー・クワン監督やマギーと一緒に来日し、 上映後のティーチ・インでもなかなかお茶目で楽しませてくれたけど、 私としてはヒロインであるマギーの話をもっと聞きたかったな。 ほかの助演もあらっというほど豪華な配役で、ウェイス・リーことレイ・チーホン (『男たちの挽歌』)とイップ・トン(『風の輝く朝に』)が撮影所長(?)夫妻。 『欲望の翼』のカリーナ・ラウが阮の妹分の女優。 噂ではカリーナのマギーヘのライバル意識がすごいらしいので、 「ふうん、どんなことを思ってこの作品に出ていたんだろう」と興味が湧いた。 (91香港スタンリー・クワン監督作品) |