女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
24号 (January 1993)   p. 20

▼東京国際映画祭で感じたこと

地畑寧子

東京国際映画祭も初期のころには、連日渋谷に足を運んでいたのだが、 昨年、今年とどうも気が乗らず、わずかに一本だけを観たにすぎなかった。 周りではこの国際映画祭を実際のところどんな人たちが、 どう評価しているのかはさだかでないが、渋谷の街を歩いていても 主催者側の気負いばかりが目立って、まともに歩けないくらい混雑している街で 映画祭のことを話題にする人も少なく、何となく空振りしているような気もする。

ということで、今年の唯一観た作品が『ランブリング・ローズ』。 ご存じ女の園「カネボウ女性映画週間」に組み込まれていたのだが、 会場のシネセゾン渋谷に到着するや、狭いロビーはまるでっPTAのにおいでいっぱい。 なんとなく場違いなところに来てしまったと後悔。加えて、 受け付けには映画祭のパンフと一緒に高野悦子氏のピンク色の新刊が山と積んであって、 辟易。おまけにこの本の宣伝が本編の前にスクリーンに流されたのをみてあきれてしまった。 これじゃ、映画祭の私物化だ!とむっとしてしまったのだが。

加えて、この女性映画週間のプログラムがかなり偏っている。 副題には「女性が輝くとき」と銘打ってあるのに なぜか男性であるアンジェイ・ワイダ監督の作品が堂々と組み込まれているし、 日本映画にしたって女性脚本家の手になるものということなのだろうが、 かなり昔の作品がプログラムに入っている。

「女性が輝くとき」なら、いっそ女性監督の作品を網羅するなり、 それでも足りないのなら、女性プロデューサーが手懸けた作品をもっと プログラムに組み入れるなどの工夫がほしかったと思う。 現にアメリカでは今号で特集した『ディス・イズ・マイ・ライフ』 も女性の監督と製作者で作られたものだし、この作品の製作者は 『フィッシャー・キング』の製作もしている。最近公開された『ペットセメタリー2』 の監督も前作に続いてメアリー・ランバートという名の通った女性監督だし、 『ウエインズ・ワールド』の監督も女性。 ランダ・ヘインズ、バーブラ・ストライザンドだってレベルの高い作品を送りだしている。 それにプロデュサーでも大作を手懸けて次々とヒット作を送り出している ゲイル・アン・ハードという腕利きの著名人がいる。 私のような素人でも昨年、今年と女性監督やプロデューサーの手になる作品が かなり公開されているということくらいはわかるというのに、 プロの人たちがどうしてそこまでリサーチしてくれなかったのだろうかと 非常に残念でならなかった。それとも、 エンタテイメント映画を全く無視するというコンセプトをもっているのだろうか。 非常に疑問である。


さて『ランブリング・ローズ』といえば、わかりやすく画面の色も美しい良作だとは思ったけれど、 なかなか感情移入がむずかしい作品だった。 奔放自由に生き、愛に飢えたヒロインは理解できたけれど、 いわゆるアメリカ南部独特の封建的な気風というか、それが全体に影を落としていて 今一つ気乗りしない要因だったのかもしれない。

とはいえ、本編で好演をしたダイアン・ラッドの舞台挨拶にはなかなか感動したし、 おまけに彼女にバラの花をもらってしまった私はとりあえず機嫌を直して帰路についた。

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