R. 佐藤 今年の東京映画祭には、この映画一本だけしか観に行くことができなかったが、 この映画一本で充分幸せな気分になってしまった、という不思議な映画だった。 マイクロバスで移動中の老女性たち八人(正確にいうと二人は五十代位であるが) がバスの故障で、人気のない森の中で何日か生死を共にするというお話である。 そしてなんとここに登場する、おばあちゃまたちは、ただ一人をのぞいて、 みんな演技経験のない素人の人ばかりだというのだ。 …ということがわかっているとなんとも楽しい。 これは本当に脚本どうりに話していることなのか、 アドリブで自分の体験を語っているのでは、と思いをはせたりして シーンごとにワクワクしてしまった。 バスの下に入りこんで本を片手に修理しようと試みるもの、 森の中で見つけた朽ちかけた農家でなんとかベットを作ろうとするもの、 沼に行って蛙をとってくるおばあさん、少ない食料を等分に分け、 空腹のつらさをおしゃべりでまぎらす。 みんなをはげまそうとダンスを踊ってくれる老女性はとてもユーモアがあって、 少女のようだ。お酒落をして、鬘をかぶっていた老夫人も、 お互いの心を曝け出して行くうちにこんなものいらないと鬘をとってしまったりする。 だれにも、知らすことができなくてこのまま、死んでいくのかしらと女たちは思うけど、 泣きわめくものはいない。それぞれの女性の若いころの写真も挿入され、 それぞれに彼女たちが精一杯生きてきたようすも知らされる。 なんでもないストーリーなのに、存在感のある女性たちの姿が妙に心に残って なつかしい気持ちになる。 一昨年は『八月の鯨』、昨年は『ジャックドミの少年期』 を国際映画祭女性週間で観て、とても感激した。 そして今年はこの映画である。 カナダの女性監督シンシア・スコツトに佐藤忠男氏が花束をあげていたのが、 印象に残った。 |