『ボイズ'ン・ザ・フッド』(監督・ジョン・シングルトン)◆たのしくて期待できる黒人監督 |
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「『外科室』で時間をくいましたので急ぎましょう。どうでしたか? 皆良かったと好評ですが」 |
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「良かったわ…私ね、資料も準備もなく、見るように言われてただ行ったけど、 作った人は白人でなく黒人の人だとわかったわね。インパクトが違う。 新人で、自伝的要素の強い映画なんでしょ」 |
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「そうです」 |
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「私ね、地畑さんから『スタンド・バイ・ミー』もぶっ飛ぶわよって電話で聞いていたのね。 それに二〇代前半の黒人監督ってのも知っていて見たわけですけど、 それが特殊になってないのね。日本にもよくある、私の家庭ともよく似た設定で、 夫婦のこと、離婚家庭の子供のこと、父と子、友情、青春…がね、 この作家でなければ出来なかったという迫力と説得力でもって作られている」 |
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「メッセージはあるんですけど、それが、メッセージが先にあって作ったものとは違うんです。 これが出るまでには『ニュー・ジャック・シティ』(マリオ・ヴァン・ピープルズ) 『ドゥ・ザ・ライト・シング』『ジャングル・フィーバー』(スパイク・リー) などがありましたよね。今年は更にブラック・パワーの年じゃないかと思いましたね。 楽しくなっちゃった」 |
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「うまく言えないけど、パーッと目が開かれたのね。 差別問題っていえばアメリカの都市のスラム街とか、アフリカでいえばアパルトヘイト、 日本でも東南アジア系の労働者のこととか色々あるでしょう。 それらを社会情勢で分析しても、また、倫理的に平等とか善悪でといてもわからないことが、 この映画を見ることによってそうだったのか…と目を覚まさせてくれる… そういう力がありますね」 |
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「さりげないのがニクいんです」 |
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「黒人映画っていえば少し前までラップだったり、キワもの的なものが多かったのが、 スパイク・リーもいれば、彼もいる…というか層の厚さを感じましたね。 白人が作ったらズーッといやらしいものになっていたような気がします」 |
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「ただ、あの主人公の男がもう少し美男子だったらね。加藤雅也と比べたら(笑)」 |
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「そういう問題じゃないですよ、佐藤さん」 |
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「それよりあのお母さんの存在ってリアルだった。よく見ているなって思った。 『父親が子供を育てたからって、特別に良いことしたって思うんじゃない。 今そういう形が少ないからで、これからは普通になる』みたいなことハッキリ言うじゃない」 |
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「どの家庭も良くできていたわ」 |
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「でもテーマが二分してない? 父と子の家庭の話と、友だちとの『スタンド・バイ・ミー』 みたいなことと。なんだか盛り込み過ぎみたいに感じたけど」 |
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「そうかな。あの男の子の半生という意味で出てきたんで、テーマは"成長"でしょ。 別に散漫な感じはしなかった」 |
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「うん。あと、あの父親ステキ。美男子だし(笑)。黒人で佐藤慶みたいな人もいるんだって(笑)」 |
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「むこうだって、日本人でオレみたいな顔の役者がいるんだって思ってますよ(笑)」 |
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「でもつくづく思うんだけど、映画ってやっぱり、作る人が自分の足元から発想して、 自分を表現するっていうの…そういう作品の持つ力ってスゴイと思わない?」 |
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「あの長男役の人もラップの有名な人だけど、あそこ出身なんですって」 |
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「だから、例えば女性の作る映画を考えた場合、とても励ましになることがあるのね。 これまで優勢だった者たちが、まだうしろにまわされてた人たちを描いていた映画が多かったけど、 その人たちが自らの手と能力で自分たちのものを作り出したら、 それはその方がスゴイに決まってますよね。女性もただ冠として監督になって作るのでなく、 自分のことを自分で表現できる才能と技術を持った人によって作ることが、 何万語にのぼるフェミニストの声にもまさる力がある場合も考えられるじゃない? 人に任せるのでなく、自らの手によってしか、物事は変わらないんだから」 |
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「主人公の離婚した両親がいいのね。母親が教師に小学校に呼び出されて 子供のお説教をくらう時、『お母さんはインテリなんですね』みたいなこと言われると、 『今、子供の問題で話しているのでインテリかどうかは関係ありません』 みたいなことビシッと言うじゃない。賢いのね」 |
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「それから、子供のことでレストランで会う時」 |
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「そうそう。『君はこういう所が好きなんだね。相変わらずだね』って男(父親)が言うのね。 もうそれだけで二人の考え方の違いや、うまくいかなかった理由みたいなものが見えてくるじゃない。 『外科室』と大違い(笑)」 |
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「それが説明になるとつまんないですね。だから脚本もとてもよかったわけ」 |
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「おすすめですか?」 |
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「若い人から私たちみたいなオバサン・オジサンまで、ぜひ見てほしいな。 私、感動したんで、反抗期の五年生の次男に 『お父さんに連れて行ってもらいなさい』ってお金渡したら、 二人で劇場探して行ったらしいのね。彼もスゴク感動したって言ったわ。 次男は二、三日神妙な顔して静かだった」 |
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「『外科室』を見に集まった女性たちに、ぜひおすすめします。ホントに」 |
『シコふんじゃった』(監督・周防正行) |
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「面白かったァ、モックンがよかった」 |
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「よかった。特に今の大学生の気質っていうか、 自分が体育会系だったから相撲部の悲亥がわかるし、 よくできていて本当に笑って楽しみましたね」 |
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「『ファンシィダンス』の流れですね。出演者もダブっている人が多いし、 日本の伝統に対し今の目で切り込んで行くっていうテーマも大まかには同じなんですね。 でも両作品ともエンターティメントとして充実しているし、 一作ごとにさらに実力を増していくというか、周防さんはすごく楽しみな監督ね」 |
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「安定してるってことはいいですね」 |
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「それに『あっ』と思うことを次々にしてくれるでしょ」 |
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「あのピアスと相撲」 |
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「それから女の相撲取り。それがとっても可愛くていやらしさがないのね」 |
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「今までのスポーツものの常識を覆しましたね」 |
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「彼の身体がよかったですね。やはり肉体ってすごい力をスクリーンに発揮しますよね」 |
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「彼のキャラクターもいい男になっているし」 |
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「映像もスゴイと思いますよ。ムダがなくて、迫力があってうまいですよね。 おかしな言い方ですが、土俵上の裸の彼らってどれも色香があったでしょう。 相撲シーンは色々研究したらしいんですね。 NHKの相撲の中継が一番いいけれど、それではつまらないので、もう一台使って分析して、 ああなったらしいですよ」 |
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「アップの部分が生きてるのね。ユーモアがあるし、つなぎがすごく上手い。 相撲の試合一つ一つがドラマとして成り立っている」 |
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「裸の肌から伝わってくる息遣いがすごい」 |
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「十字架切る人や、女の子のムチムチした足、手がステキ。 第一、好きな人の代わりに土俵に出るなんて究極の愛ね」 |
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「あれこそ『外科室』のテーマです」 |
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「役者が皆いいですね」 |
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「OBの設定なんかも最高!いるんですよ、『死んでしまえ』って本気で怒る人」 |
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「なんといってもモックン。あれほど色気のある若い男は最近いないんじゃないですか?」 |
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「下痢の竹中さんも、ホロリとさせてくれていいじゃない?」 |
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「それから、柄本さんどうでした? インテリのいい男やってたでしょう」 |
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「よかった。あんなにステキだったかしらって疑っちゃった」 |
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「ストイックで、学生かばって、優しくて…」 |
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「清水美砂と男たちの関係もいいですね。いやらしくなくて。 弟も変身しちゃって、十字架の子も可愛いし」 |
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「外国人やアメフトの子もよかった。出てくる人物が皆あったかいのよね。 竹中さんが下痢しながら土俵で一勝するじゃない。 もうおかしくて笑いたいけど、涙が出てくる。本当に苦しくなっちゃった。 あんなに感情をズンズン刺激してくれるのって久しぶり」 |
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「映像がキレイですね。『ファンシィダンス』もキレイでしたけど、モックンのアップや裸も、 どうすれば一番セクシーかわかってるのね。周防監督って感覚自体がすごく新しいから、 例えば全然別のものを撮っても、いいもの・新しいものが期待できるんじゃないですか?」 |
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「これは彼のオリジナル脚本でしょう。どの点から見ても、最も次が楽しみな監督ね。 やっぱり見てて楽しくなきゃ。小学生からお年寄りまで、ぜひおすすめです。 料金は決して高くありませんよ、これは」 |
(まとめ 出海)