女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
22号 (1992.04)  p. 29
試写室

『紅夢』

大紅燈籠高高掛

1991年ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞

監督:チャン・イーモウ
エグゼクティブ・プロデューサー:ホウ・シャウシェン、チャン・ウェンツォ
脚本:ニイ・ゼン
原作:蘇童(スウ・トン)「妻妾成群」
撮影:チャオ・フェイ
美術:ツァオ・チェウピン
音楽:チャオ・チーピン
主演:コン・リー
1991年/香港・中国合作/カラー
配給:東宝東和


80年代に入って女性の自立という言葉が流行ってはや10年あまり。 でも、ちょっと昔を振リ向けば、一夫一妻が正当化されたのは近々。 正妻がお妾さんに中元、歳暮をもっていったのもそう昔ではないはず。 今でも「囲う」とか「妾」の言葉は死語になっていない。

この作品の舞台は1920年代らしいが、そのころの日本も夫婦の在リ方は(特に素封家) ほとんど同じだったような気がする。 男は経済力が許す限り、複数の妻をもって当然だった時代。 それが先祖代々のしきたりになっているのも珍しくない。 すべては家のため、子孫の繁栄のためという大義名分のもとに。 それも通い婚ならまだしも、同じ屋敷内に女を住まわせ、競わせるとは。

この映画を観て、女性が必ずしもいい思いをするとは思えないが、 この男性優位のしきたリを耐えぬいた多くの女性たちがいたこと、 逃れられない世の中のしきたりに否応がなしに投げ込まれてた多くの女性がいたことをまざまざと見ることはもうひとつの本当の歴史を学ぶことになるのではないだろうか。

夫の寵愛を受けたものだけに燈される真紅の燈籠の赤が目にしみて、心が痛い。


*ストーリー

19歳の夏、頌蓮は年が親子ほどに違う素封家に嫁ぐ。 父が死に家の経済的な危機を救うためには、珍しくない方法だった。 嫁ぎ先の広大な屋致には第四夫人となる自分の住居が用意され、 そこは赤い提灯で仰々しく飾られていた。 それは当主とその夜を共にする先祖代々のしきたリだった。 その日から、彼女は他の妻たちが繰り広げる当主の寵愛を受けるための争いの中にはまっていく。 正妻という誇りだけが頼リでどうにか生き延びている正妻、 穏やかな表情の裏に隠された恐ろしい心をもった第二夫人、 無愛想で医師との密通をしている第三夫人、妻の座を狙う彼女の召使。 おのずと敵にならざるをえない女たち。

頌蓮もついに彼女たちの争いの中に入リ妊娠の狂言までうつようになる。しかし、 彼女を撃ち落とそうと虎視眈眈としている召使や第二夫人に真実を見破られ、 彼女は寵愛を一気になくしてしまう。続く召使の死。 主人の気持ち一つですべてが変わってしまう生活に彼女は疲れていく。 そして、彼女がふと洩らしてしまった密通の秘密がもとで第三夫人は平然と殺されてしまう。 悔やんでも、もう遅い。たった一年の間で頌蓮の精神は安定を失ってしまった・・。

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