女が作る映画誌 ー 女性映画・監督の紹介とアジア映画の情報がいっぱい
 (1987年8月、創刊号 巻頭文より) 夢みる頃をすぎても、まだ映画を卒業できない私たち。
 卒業どころか、30代、40代になっても映画に心が踊ります。だから言いたいことの言える本まで作ってしまいました。
 普通の女たちの声がたくさん。これからも地道な活動を続けていきたいと思っています。どうぞよろしく。
[シネマジャーナル]
14号 (1990. 04)  pp. 13 -- 21

1989年度ベスト50


選んだ人

例えば、一年間に五〇本観た人と一五〇本観た人が選ぶベスト10は 自ずと意味が違ってくるでしょう。 最低一五〇本以上観た者には、それなりの映画に対する特別な想いがあるはずです。 そんな人間が、ベスト50を出し合たうえで話し合えぱ、 そこから現在の映画状況が見えてくるのではないかと考えました。 ところが、想いがあり過ぎるせいか、結果はバラバラで、四人が一致したのは、 『紅いコーリャン』と『恋恋風塵』の二本だけで、話のまとまりようがなく、 そこで、対談は取り止めにして、 それぞれが自分の一番書きたいことを書くということになりました。 同じ映画好きといっても、いかに一人ずつ映画への対し方が違っているか、 ただ映画が好きというだけでは、通じ合わない、 その事実が意外に今の東京の映画状況を表しているのかも知れません。



◇中江 裕司

準備中

◇岩野 素子

全く意識していなかったのに、50本選んでから数えてみたら、 洋画と邦画がちょうど25本ずつあった。 89年は邦画を意識して観るようにしたからでしょうか。

なるべく新旧分け隔てなく観てはいたが、比べられるものではないとはわかっていても 歴然とした差はやはりどうしようもないものがある。

新作で唯一選んだ『その男、凶暴につき』も、決して素晴らしい作品ということではなく、 ただ、この映画をつくった人の、〈ただ映画が好きなだけ〉という、 そうした映画に対する思いようが、好きなだけ。

私の父親など、キネマ旬報社から出ている「日本映画監督事典」を開きながら、 「おれは物故者の欄しか見ない」などと、わざわざ言う。 戦前の黄金時代(1930年代頃)に小学生で、 毎週わくわくしながら映画館に通いつめていた者にとっては、もう、 邦画は終わってしまったものなのだろうか。

私が昨年観た中で30年代の作品は、『東京の合唱(コーラス)』、 『妻よ薔薇のやうに』、『決闘・高田馬場』、『鴛鴦歌合戦』、 『春秋一刀流』と5本ある。ちょうどサイレントからトーキーに移行する時期で、 サイレントの『東京の合唱』、国産初のオペレッタ映画(!)『鴛鴦歌合戦』、 口笛や浪花節(だったと思う)を意識して使ったと思われる『妻よ??』、 そして、トーキーなのに最初に字幕が入るので、一瞬サイレントかと思ってしまう 『春秋一刀流』、そしてセリフなんか、あってないような『血闘・??』は、 音楽にのって走って踊ってと、それぞれの対処のし方があって面白い。 『春秋一刀流』の丸根賛太郎という監督は、去年初めて知った。 実は『赤西蠣太』(36年、伊丹万作監督)を観に行ったのだが 伊達騒動の話がよくわからなくて、それより併映の『春秋一刀流』の方が、 第一回監督作品らしい若々しさとやる気に満ちていて、気に入ってしまった。 決闘現場へ走りに走るという最後はまるで『血闘・高田馬場』で、 この監督は〈走りに走る〉というシチュエーションがよほど好きならしく、 10年後の49年には映画の後半はほとんど走り通しという『天狗飛脚』 という作品を撮っているが、これもすごく面白いのに、たとえばマキノ雅弘 (この人のマサヒロの字は未だに定まらない)のようには現在あまり知られていないのは、 なぜだろう。

こうしてこんな話をしてきたのは、『浪人街』のことを書きたかったから。 マキノ監督が二十歳で撮った伝説の『浪人街』がリメイク(四度目)されたから。 さすがに監督はしんどかったのか、黒木和雄が監督で、本人は総監修にまわっているが、 今になってもこれほどこの作品にこだわる思いとは何なのだろうか。 しかし、ここへきて皆様よくご存知のように、あの勝新太郎のせいで、 上映が当分延期になってしまった。『浪人街』こそ呪われた映画なのでしょうか。


○紅いコーリャン(張芸謀/中国87)
○シュガー・ベイビー(パーシー・アドロン/西独84)
○スール その先は愛(F・E・ソラナス/仏・アルゼンチン88)
○なまいきシャルロット(クロード・ミレール/仏・スイス85)
○子供たちの王様(張凱歌/中国87)
○戦場の女たち(関口典子/89)
○嵐の孤児(D・W・グリフィス/米21)
○決闘・高田馬場(マキノ雅裕、稲垣浩/37)
○パーマネント・バケーション(ジム・ジャームッシュ/米80)
○クレールの膝(エリック・ロメール/仏70)
○ラ・マスケラ(フィオレラ・インファシェリ/伊88)
○団地妻・ニュータウン暴行魔(磯村一路/87)
○天使のはらわた・赤い眩暈(石井隆/88)
○空山霊雨(キン・フー/香港79)
○その男、凶暴につき(北野武/89)
○人妻集団暴行致死事件(田中登/78)
○銀座化粧(成瀬巳喜男/51)
○沓掛時次郎・遊侠一匹(加藤泰/66)
○風と女と旅鴉(加藤/58)
○車夫遊侠伝・喧嘩辰(加藤/66)
○骨までしゃぷる(加藤/66)
○みな殺しの霊歌(加藤/68)
○ざ・鬼太鼓座(加藤/83)
○東京の合唱(小津安二郎/31)
○大人は判ってくれない(フランソワ・トリュフォー/仏59)
○ヘルシンキ・ナポリ・オールナイトロング(ミカ・カウリスマキ/フィンランド・西独・スイス・伊87)
○1999年の夏休み(金子修介/88)
○裁かるるジャンヌ(カール・ドライヤー/仏29)
○ラ・ピラート(ジャック・ドワイヨン/仏84)
○妻よ薔薇のやうに(成瀬/35)
○ニースについて(ジャン・ヴィゴ/仏29、30)
○若き日(小津/29)
○さすらい(ヴィム・ヴェンダース/西独76)
○ラブホテル(相米慎二/85)
○恋恋風塵(候孝賢/台湾87)
○捕えられた伍長(ジャン・ルノワール/仏61)
○野良犬(黒沢明/49)
○革命前夜(ベルナルド・ベルトルッチ/伊64)
○恋人たちは濡れた(神代辰巳/73)
〇一条さゆり・濡れた欲情(神代/72)
○春秋一刀流(丸根賛太郎/39)
○鴛鴦歌合戦(マキノ/39)
○賭博師ボブ(ジャン=ピエール・メルヴィル/仏55)
○大魔神逆襲(森一生/66)
○世界の涯てに(デトレフ・ジールク/独37)
○生きるべきか死ぬべきか(エルンスト・ルビッチ/米42)
○赤ちゃん教育(ハワード・ホークス/米38)
○ラ・ジュテ(クリス・マルケル/仏62)
○貸間あり(川島雄三/59)
○プレイタイム(ジャック・タチ/仏67)

洋画  25本   邦画  25本
モノクロ  25本   カラー  25本
初公開  17本   リバイバル  33本
サイレント  4本   トーキー  46本

◇大牟礼亮子

こうして数にしてみると、やはり邦画が少ないなあ、 まあ見ていないということが一番なのですが…。 反省をこめて今年はもう少し邦画を見るよう、心がけたいものです。

最近見て、目もさめるほどおもしろかったのがティント・ブラスの 『スナックバーブタペスト』。 Tブラスといえば成人映画ばかりなので、これまで見たいとは思っていたのですが、 つい見ずにいたのだし (あと某映画情報誌を頼りにすぎているきらいも無きにしもあらず。) やはりなにも考えず、動物的直観で映画館に足を運ぶべし、 という教訓を得た次第であります。

そのTブラス氏曰く、「映画批評家に言いたいのは、ソムリエのようであって欲しい、 ということだ。ソムリエはワインを味わわない。口に含むが口蓋をすすいで 自分の見解を吐き出してしまう。飲み下さないし、味わいもしないので 感動はしなかった。私のフィルムについて言えば これらはメッセージではなく感動なのだ。飲み干せば濁ってしまって 理解することは不可能になってしまう」

批評家というのは、おこがましいのですが、心に留めて置きたい言葉です。

昨年は、六月に中国から帰国というのもあって、何を見ても感動していた時期があり、 若干感情過多ぎみに見ていたりと、とてもソムリエのようではなかった事でしょう。 そんなわけでおもしろかった、おもしろくなかったという観点で、 1グループは「是非とも又見たい」、 2は「機会があれば又見たい」3「お金の心配がなければ又見たい」、 4「時間の心配がなければ又見てもよい」というのを一応目安にしてみました。

○殺人に関する短いフィルム/87年ポーランド/K・キェシロフスキ
○トラック29/87年イギリス/N・ローグ
○恋恋風塵/87年台湾/候孝賢
○子供たちの王様/87年中国/陳凱歌
○紅いコーリャン/87年中国/張芸謀
○スタンバーグシューティングスター/88年オーストリア/ニキ・リスト
○ヘルシンキナポリオールナイトロング/87年フィンランド他3国/ミカ・カウリスマキ
○ストレート・トゥ・ヘル/87年アメリカ/A・コックス
○ビズビル/88年フランス/ロック・ステファニック
○コーヒー&シガレット/86年アメリカ/J・ジャームッシュ
○どついたるねん+ムービーギャング/89年日本/阪本順治
○サミー&ロージィ/87年イギリス/S・フリアーズ
○ヴィデオドローム/82年カナダ/D・クローネンバーグ
○二ースについて/29年フランス/ジャン・ヴィゴ
○大人は判ってくれない/59年フランス/F・トリュフォー
○松田優作(ブラックレイン)/49年日本生89年没
○マイライフアズアドッグ/85年スウェーデン/L・ハレストレム
○戦慄の絆/88年カナダ/D・クローネンバーグ
○黄色い大地/84年中国/陳凱歌
○童年往時/85年台湾/候孝賢

○キャル/84年イギリス/D・パットナム
○ギャングス/88年香港/ローレンス・アモン
○妖婆死棺ののろい/67年ソ連/エルシェフ、クロパチェフ
○レインボー/89年イギリス/K・ラッセル
○神経衰弱ぎりぎりの女たち/88年スペイン/P・アルモドバル
○存在の耐えられない軽さ/88年アメリカ/F・カウフマン
○ブルーウォーターで乾杯/88年アメリカ/P・マスターソン
○ジャック・ニコルソン(バットマン)/89年アメリカ
○レネットとミラベル四つの冒険/86年フランス/E・ロメール
○ポインツマン/87年オランダ/J・ステリング
○人生は長く静かな河/88年フランス/E・シャティリエ
○鉄男/89年日本/塚本普也
○TOKYO POP/88年アメリカ/F・ラベルクズイ
○クレールの膝/70年フランス/E・ロメール
○フレンチドレッシング/64年イギリス/K・ラッセル
○胡同模様/85年中国/従連文
○恋する女/87年フランス/J・ドワイヨン

○誰かがあなたを愛してる/87年香港/メイベル・チャン
○一人と八人/84年中国/張軍針
○バクダッドカフェ/87年西ドイツ/P・アドロン
○ベトナムから遠く離れて/67年フランス/ゴダール、イヴェンス、クライン他
○ミスターデザイナー/88年ソ連/オレーグ・テプツォフ
○ハーヴェイミルク/87年アメリカ/R・エプスタイン製作
○アトランティックシティ/80年仏、加/ルイ・マル
○イタリア不思議旅/88年イタリア/ダニエル・ルケッティ
○神の言葉/87年スベイン/ホセ・ルイス・ガルシア・サンチェス

○モダーンズ/88年アメリカ/A・ルドルフ
○清朝皇帝/87中国、香港/アン・ホイ
○フライングフォックス自由への旅/89年西サモア、ニュージーランド/M・サンダーソン
○さよなら子供たち/87年フランス/A・レネ

◆邦画/2 ◆初公開/30 ◆モノクロ/4
◆洋画/48(うちアジア10) ◆カラー/46

地畑寧子

近年細かく各国の映画祭(シネマウイーク)が開かれるようになり、 私のように新しもの好きの人間にとっては嬉しいかぎりなのですが、 そのすべてを観ることができずちょっとした欲求不満に陥ります。 そういった中でもニキ・リスト、パオルス・マンケァのオーストリアの映画が 目下の気になる存在です。映画といえぱハリウッド、 かつて私も往年のミュージカルなどに狂っていたのですが 今ではただ観るだけの存在になってしまいました。 同じアメリカでもハリウッドらしくない映画が妙におもしろく思えてなりません。 また、オーストリアと並んで気になるのが、オーストラリア映画。 英語圏ということもあり、一方で某国のように映画芸術のわからない人々が 映画をいじくっていたことで優秀な人材が簡単にハリウッド流れをしていました。 ところが最近ハリウッドを含め他国の人材が、この国の映画に出演し始め 素晴らしい作品を生み始めています。『セリア』のアン・ターナー、 『ヤング・アインシュタイン』のヤフー・シリアスに特に期待しています。 この国の映画の基本形はあくまでもアメリカにあるようですが、 パワー不足の感がある"師"を追い抜く力を秘めている何かがあるようです。 某国にはないフィルムメイキングにかける結集力、若さをバネにする情熱など 注目してもいい材料は多々あります。

邦画をあまりに観ていないので恥ずかしい限リですが 上記の5本以外で『潤の街』を推したいと思います。 映画としてはいまひとつの感ですが、日本人である以上 自国の現在進行形を映画に観るのも一考だと思います。

十一月に入って前から私にとって別格扱いだった坂妻の映画が 大井武蔵野館で特集されてから昨年の最後の二ヵ月はすっかり時代劇に嗜好が カンバックしていきました。とにかく『鴛鴦歌合戦』がおもしろく、 おもいもかけぬ喜びに浸って現在に至っています。 昔の日活映画以外はほとんど摘み食いの観かたをしていたのですが、 この時から邦画を現在を含めて系統立てて観ようかと思い始めています。

洋画 45本  邦画 5本
モノクロ 3本  カラー 47本
初公開 48本  リバイバル 2本
サイレント 0本  トーキー 50本


○THE BEAST OF WAR(K・レイノルズ)(88/USA)
○ヤング・アインシュタイン(Y・シリアス)(88/豪)
○トール・ガイ(M・スミス)(89/英)
○デッド・ポエツ・ソサエテイー(P・ウィアー)(89/USA)
○BATON ROUGE(R・モレオン)(88/スペイン)
○シュムッツ(P・マンケァ)(86/墺)
○スタンバーグ・シューティングスター(N・リスト)(88/墺)
〇一人と八人(張軍針)(84/中)
○胡同模様(従連文)(85/中)
○ギャグマン(李明世)(88/韓)
○AS TIME GOES BY(B・ピーク)(87/豪)
○DEAD CALM(P・ノイス)(88/豪)
○ボデイ・クロス(M・ジェフ)(89/豪)
○レネットとミラベル四つの冒険(E・ロメール)(86/仏)
○誰かがあなたを愛してる(張婉[女亭])(87/香港)
○サミー&ロージー(S・フリアーズ)(87/英)
○セリア(A・ターナー)(88/豪)
○スリープウォーク(S・ドライバー)(86/USA)
○恋恋風塵(候孝賢)(87/台湾)
○セックスと嘘とビデオテープ(S・ソダバーグ)(89/USA)
○ミステリー・トレイン(J・ジャームッシュ)(89/USA)
○ジャック・ジョンソン(W・ケートン)(71/USA)
○アトランティック・シティー(L・マル)(80/仏=加)
○メイトワン1920(J・セイルズ)(87/USA)
○マイク・ザ・ウイザード(M・ジトロフ)(88/USA)
○ハーベイ・ミルク(R・シュミーセン)(84/USA)
○夜の人々(N・レイ)(49/USA)
○キャル(P・オコナー)(84/英)
○私の中のもうひとりの私(W・アレン)(89/USA)
○ギャングス(劉國昌)(87/香港)
○レインボウ(K・ラッセル)(89/英)
○バグダッドカフェ(P・アドロン)(87/西独)
○トーチソング・トリロジー(P・ボガード)(88/USA)
○なまいきシャルロット(C・ミレール)(85/仏)
○バード(C・イーストウッド)(88/USA)
○ブルーム(V・キドロン)(88/英)
○罠・ブルーム事件(E・エンゲル)(48/東独)
○死にゆく者への祈り(M・ホッジス)(87/英)
○ブラック・レイン(R・スコット)(89/USA)
○ミシシッピー・バーニング(A・パーカー)(88/USA)
○神経衰弱ぎりぎりの女たち(P・アルモドバル)(87/スペイン)
○紅いコーリャン(張芸謀)(87/中)
○ワンダとダイヤと優しい奴ら(M・シャンバーグ)(88/英)
○殺人に関する短いフィルム(K・キェシロフスキ)(87/ポーランド)
○ブルーウォーターで乾杯(P・マスターソン)(88/USA)
○利休(勅使河原宏)(89/日)
○どついたるねん(阪本順治)(89/日)
○砂の上のロビンソン(すずきじゅんいち)(89/日)
○黒い雨(今村昌平)(89/日)
○北京的西瓜(大林宣彦)(89/日)
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